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80 爆破の首謀者

 NPCだけのパーティがルサを拉致しようとしている?


「なぜその子を狙う? 目的は何だ?」

 俺の質問に奴等はきょとんとする。そして笑い出す。

 片眼の戦士が腹をゆすって笑う。

「ガハハ、ウケるぜ! 目的って、金に決まってんだろ!」

 スキンヘッドの魔導士はニヤニヤしながら答える。

「結構な懸賞金が出るからな。この女を連れて行けば」


「懸賞金だと?」

 ルサに懸賞金が掛けられている? 一体、誰が何のために?


 奴等の仲間であるゴブリンと人狼はモンスターなので喋らない。

 が、一緒になって笑っているということは、意思疎通ができているらしい。


 そこに師匠が追い付いてきた。

「どうしたの? その人達は……」

 そう言いかけて師匠も違和感に気付く。

「え? どうしてモンスターがパーティに?」

 共にメインのAIが創り出したものだとしても、NPCとモンスターが徒党を組むなんて聞いたことが無い。


「だろ。それに、こいつ等がルサを拉致したのは懸賞金《けんしょうきん》のためらしい」

 そこで師匠が怪訝な顔。

「剣士用のビン?」

 こんな時でもしっかり聞き違い。師匠、ブレないな。


「いや、何者かがルサを狙ってて、ルサを連れてきた奴に賞金を出すんだってさ」

「賞金……NPCがお金の為に犯罪を?」

 師匠は信じられないといった風に奴等を見る。

「ああ。それに、列車を脱線させたのもこいつ等の爆破工作だ」

「嘘でしょ!? NPCだけのパーティがそんなことするなんて……」


 師匠がショックを受けるのも無理はない。

 このゲーム内には「盗賊」や「ならず者」といったプレイヤーの冒険を妨げるNPCが存在する。

 しかし、それはモンスターと同じでゲームを盛り上げるためのスパイスに過ぎない。


 なので、自らの欲望のためにガチで悪事を働くNPCというのは、あってはならない存在だ。

 そんなものはプログラムされていないはず。

「師匠、やっぱこいつらも変種というか異端なんじゃねえか?」

「そうね。NPCの暴走と関係があるのかも……」


 このゲームを司《つかさど》るメインAIが意図していないNPCの不穏な動きが発生しているという事実。

 プレイヤーを排除しようとするNPC、反社会的なNPC集会、NPC達を洗脳するかのような宗教、地下帝国で遭遇した『AIの悪魔』……。

 その危険性は俺達も認識している。


 俺は剣を抜き、ジリっとスキンヘッドに迫った。

「なんか色々と吐いてもらわないとならないようだな」


 それに慌てた片眼の戦士がサーベルを抜いて、ルサの首に刃をあてがう。

「ち、近寄るな! この女がどうなってもいいのか!」

 なんだ、そのベタな脅しは。刑事ドラマかよ。

 そもそも、ルサはこの世界ではダメージを負わないようだから命に別状はない。


 だが、怯えている彼女を助けないわけにはいかない。

 神速会心で倒してもいいんだが、懸賞金のことは聞き出したい。

 誰が何の目的でルサを狙っているのか? それを尋問する。


 じゃあ、スキンヘッドだけ残してやっちまうか。

 そう考えているうちに上から何かが落ちてきた。

 と、思った瞬間、『スパッ!』と小気味よい音がして、続いて『ボトリ』と何かが落ちた音がした。


「あれ?」

 ルサが消えた。

 まるで鷹が地上の獲物を掬い上げて離脱するみたいに、何かが一瞬でルサを連れ去った。


「うっ、うぐ……」

 片眼の戦士が呻きながら片膝をつく。

 見ると、戦士の足元にサーベルを握ったままの手が落ちている。

 自らの腕が切断されたことに気付いた戦士が痛みに顔を歪める。

「ぐ、な、なんじゃ? こりゃあ!」


 ルサが消失したことに気付いてスキンヘッドとゴブリンが驚いてキョロキョロする。

 人狼が鼻を効かせて「ガルゥガァ!」と、右方向を指差す。

 それにつられて俺達もその方向に目を移す。


「なにあれ?」と、師匠が目を丸くする。

 何者かがルサの腰を抱いて宙に浮いている。いや、よく見ると命綱でぶら下がっている。

「あいつがやったのか……」

 ルサをかっ攫《さら》った人物は、右手に日本刀、左腕にはルサを抱えている。


 その人物はスルスルと降りて着地すると、滑車付きのベルトを外した。


 腕をサーベルごと持っていかれた片眼の戦士が怒鳴る。

「な、なんだテメェは!」


 謎の人物はそっとルサを地面に座らせると、クイッと日本刀の切っ先をNPC達に向けた。

 その人物は、下が白で上が藍色の小袖《こそで》という侍スタイルだった。


 侍は落ち着いた口調で答える。

「城《きずき》ムサシ。剣客《けんかく》商売だ」


 クールだ。その立ち振る舞いに大物感がある。

 そこで師匠が小声でこっそり聞き違い。

「ねえ、見学って商売になるの?」

「見学じゃなくて剣客。剣に客って書いて剣客。剣術の達人だ」


 俺達の会話をムサシがチラリと見る。ちょっと呆れている様子。

 師匠の聞き違いも聞こえてたみたいだ。

 が、そこは流して侍はNPCに対峙する。

「この谷の治安を乱すことは許さぬ。覚悟せよ!」


 それを受けてスキンヘッドが凄む。

「は? 殺すぞ? 邪魔くさい」

 そういうや否や、スキンヘッドが呪文を唱えて雷魔法を繰り出す。


 雷が『バリッ! バリッ!』と、立て続けにムサシを襲う。

 が、ムサシは軽いステップで雷攻撃を見切る。


「おおおぅぅん!」

 人狼が雄たけびを上げる。すると人狼の衣類がビリビリと避け、身体が膨らんだ。

 筋骨隆々な上半身が露わになり、爪が伸びたように見える。


 続いてゴブリンが「イナバゥバァ!」と、叫ぶ。

 すると地面からボコボコと複数体のゴブリンが這い出してきた。

 仲間を呼んだらしい。


 片眼の戦士は左手でサーベルを拾い上げると、顔を真っ赤にして戦闘態勢に入る。


 俺と師匠も武器を構えて参戦する。

 ムサシが「助太刀、無用」と言うが、そういうわけにもいかない。

「いや。やらせて貰うぜ」

「フン。好きにしろ」

「あの片眼の野郎は生かして尋問したい。だから残りを殺る!」

「承知した」


 ムサシはゴブリンの群れに突っ込む。師匠は人狼に挑む。

 そして俺の相手はスキンヘッドの魔導士と片眼の戦士だ。


 奴等の立ち位置を確認。手順を考えてイメージする。

「神速会心!」


『カカカ、シャキーン』

 すれ違いざまにスキンヘッドに3発の斬撃を浴びせ、戦士の左腕を切り落とした。


 足を止めて俺が振り返った段階で『ズパズパズパ!』と音が発せられる。

 それを聞いてスキンヘッドが斬られたことに気付く。

「へ!?」と、仰天したスキンヘッドがマックスダメージ3連発で即死する。


 戦士に至っては自分の左腕が無いことにすら気付いていない。

 彼は『ボトリ』と腕が落ちた音を耳にして、ようやく自らの腕が失われたことに気付く。

「ゲゲッ! なんじゃ、これは!」


 それを見届けて、ゴブリン軍団と戦闘中のムサシを見る。


 彼はゴブリン6体から集中攻撃を受けながらも涼しい顔で攻撃を躱《かわ》している。

 ひょいひょいと軽く動いているようで、その避け方に無駄が無い。

 その様子は、まるで試すかのように、わざと攻撃させているようにも見える。


 一方、師匠は人狼の速い爪攻撃を見切りながら、敵の弱点を探っている。

 そして「分かったわ!」と、不敵な笑みをみせる。

「氷殺斬流翔《ひょうさつざんりゅうしょう》!」

 師匠が得意の弱点特攻を発動させる。


 師匠のレイピアから放たれた一撃は、氷の刃のエフェクトがかかって人狼の脇腹を斬り裂いた。

 その流れで師匠が飛翔する。そして狼の頭上でクロスに斬り込む。

 これも氷のエフェクトがエックスの文字を描く。

『ザザッシュ!』


 華麗なジャンプを終えて着地する師匠。

 弱点を抉られて静止する人狼。

 巨大化した人狼はアメフト選手のように大柄なのに対し、華奢な師匠は小さく見える。

 だが、その対照的な2人の間には絶対的な差があった。


「グワォゥゥ」と、人狼がマックスダメージの表示を撒き散らしながら死亡する。

 師匠がレイピアでダメージを与えたのは3回。

 だが、技の効果でその何倍ものダメージが入っているようだ。


「師匠、ナイス!」

 俺に言われて師匠が少し照れる。

 が、直ぐに気を引き締めた表情に戻る。

「まだゴブリンが残ってるわ!」

 だが、心配は無用だった。ムサシは想像以上にできる奴のようだ。


 必死に斧で攻撃するゴブリン達は、攻撃がかすりもしないので苛立っている。

 それも攻撃が当たる寸前でスッと見切られるものだから余計だ。

「ギリギリで避けてるな。うまいディフェンスだ」

 まるでボクサーが素人のパンチを軽く避けるみたいに、ムサシには余裕がある。


 ムサシは、俺達の戦闘が終わるのを待っていたのか、チラリと俺達の方を見て微かに頷く。

 そして、いったん立ち止まる。

 急にムサシが止まったのでゴブリン達が警戒する。

「はっ!」

 ムサシが前方を払うように日本刀を振ると、2体のゴブリンがピクリと硬直した。

 続いて2体の背中で血しぶきが跳ねる。


 さらにムサシが「水月剣!」と、回転斬りを見せる。

 すると他のゴブリンが、ピクリと4体同時に硬直する。

 そして血しぶきを撒き散らす。


 ムサシに斬られたゴブリンは硬直したまま、悲鳴をあげる間もなく死亡した。

 斬撃の音も無く、ムサシはゴブリンを切り捨てた。

 その動きは一切の無駄が無く、静かに、そして確実に目的を果たした。


 師匠が目を見張る。

「きれいな斬撃ね。芸術的だわ……」

「ああ。かなりのやり手だな」

「あれでレベルが21? ひょっとして……」

 師匠がムサシのステータスを確認して表情を変える。

「どうした? 師匠」


 俺の言葉を無視して師匠はムサシに近付きながら尋ねる。

「あなた、転移者でしょ?」

 師匠の問いにムサシは一瞥をくれるだけだ。そして無言で刀を鞘に納める。

 そんなムサシに師匠が言う。

「分かるのよ。あなたは転移者ね。私達と同じく」


 そこでムサシが微かに反応した。

「そなた等も転移者とな?」

「そうよ。他にもいるわ。一緒に旅してるの」

「そうか……」

 ムサシは特に驚くでもなく冷静に振舞う。


「ねえ、あなたはどうしてこんなところで独りなの? 戻りたくは無いの?」

「戻る? 現世にか?」

 そう言ってムサシは遠い目をする。なにか達観したような顔つきだ。


「私達は運営と連絡を取ってるの。現実世界に戻れるように」

「それが何になる?」

「え? だって、あなただって……」

「なるようにしかならない。自分は抗《あらが》うつもりはない。ここで生きるだけ生きて、いつか滝に身投げしようかと考えている」


 その言葉に師匠が絶句する。

 なので俺が師匠の代わりに尋ねる。

「なぜリアルに戻ろうとしない? それに、あの滝に落ちたら無になるらしいじゃないか」

「そのようだな。だが、現世に未練はない。この世界で死を迎えたとて、それもさだめ……」

「なんだよ。簡単に諦めやがって」


「そんなことより、そいつを尋問しなくていいのか?」

 ムサシにそう指摘されて思い出した。

 ルサに懸賞金をかけた黒幕を白状させなくてはならない。


 俺は剣先を片眼の戦士に向ける。

「おい。誰が懸賞金をかけた? で、どこに連れて行こうとしてた?」

 両腕を失った戦士は戦意喪失して座り込んでいる。


 下から睨みつける形で戦士が吐き捨てる。

「へっ! 誰が言うか。お前等人間なんかに」

「ほう。じゃあ、吐くまで切り刻もうか?」


「ひっ! 分かった! 頼む! 殺さないでくれ!」

 このあたりもNPCらしくない。本気で命乞いするNPCが居るなんて……。


「いいだろう。で、黒幕は?」

「分からない。ただ、俺達の間では『スニーフ』と呼ばれてる」

「スニーフ? そいつは何の為に彼女を?」

「し、知らない。とにかく自分のところに連れてこいと。賞金は望むだけの金額を出すって」


「そのスニーフって奴の居所は? そこにルサを連れて行くつもりだったんだろ?」

「ちゅ、中央パレスだ」

「師匠、中央パレスってどこだ?」

「そうね……ここからだと北東ね。世界マップの真ん中あたりよ」

「分かった。なら、こっちから乗り込むか……」


 と、その時、『ビッ』と音がして、片眼の戦士に何かが当たった。

「なんだ!?」

 レーザーか何かのように見えた。


「は、はぐぅ……」

 額に穴の開いた戦士の頭が崩れ始める。ダメージ表示は出ていない。

 だが、戦士はそのまま消滅した。


「どこからだ!?」

 レーザーが飛んできた方向を探す。


 すると、水色の長髪をなびかせる青年の姿が目に入った。

 青年はゆっくり、こちらに向かって歩いてくる。

 師匠が憤る。

「酷いわ! 無抵抗の人に!」


 師匠の非難に答える気はないらしく、青年はポケットに手を入れたまま歩いてくる。

 彼は白いダブルのスーツに赤いチーフを首に巻いている。

 どこかの上級国民がパーティに行くような恰好だ。


「何者だ?」

 俺の問いに対して青年は、笑みを浮かべて答えた。


「フフ。わざわざ乗り込む必要はないよ。私がスニーフだ」


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