79 見たことのある光景
ガラクタの濁流が収まったところで再び谷底に降り立つ。
登山鉄道が爆破されて俺達が落とされたのは、終点となる駅の少し手前だった。
なので、上流に向かって進めば目的地に着くはずだ。
とはいえ、先ほどの濁流が通った跡には流れから取り残されたガラクタが大量に散在していて、歩くのに苦労する。
目立つのは家具や建物のスクラップ、使用済みの瓶やゴミ、箱や道具などの類だ。
それらは少し変形していたり汚れたりしているが原型を保っている。
そこに衣類・防具・武器・アイテムが混じる。
モンスターの素材もあるが、元が何のモンスターかは判別できない。
谷底の中央を流れるガラクタの平時の流れは幅が十メートルぐらい。深さはひざ丈ほどのようだ。
師匠が大股で障害物を避けながら言う。
「この中から使えそうなものを探すのね」
「大変だな。ゴミの山だぜ」
「どれぐらい掘り出しもんがあるのかしら?」
たぶん、熱心に探せば、それなりの成果はあるだろう。
しかも定期的な濁流で新たなデータがこうやって大量に残される。
「そうだな。ずっとここで生活してりゃ、そこそこお宝をゲットできるかもな」
もしかしたら、あの濁流の中にもお宝が混じってるかもしれない。
だが、流石にあの流れでは手の出しようが無い。
流されて滝に落ちたら取り返しがつかないことになってしまう。
データが完全消去されてしまうからだ。
先頭を進んでいたビッチが前方を見て何かに気付く。
「アレ? あの人達……どっかで見たような?」
すでに上流で誰かが宝探しをしているようだ。
足場を確保しながら、そろそろと進む。
すると、ビッチが発見した連中の会話が耳に届いてきた。
「違う違う! そっちだYO! YOYOYO。OK! もうちょいゴミを被せて!」
「こっちの箱に入れた方が良くないか? 雰囲気出るっしょ!」
「それいいね! いいねそれ! ウェェーイ♪」
なんだか聞いたことがあるようなフレーズ。嫌な予感がした。
そのままUターンしたくなったが、奴等が進行方向にいるもんだから仕方が無い。
なるべく見ないように通り過ぎよう……。
そう思ったが無駄だった。
「へいへいへい! ユー達! また会ったね!」
見つかってしまった。
できればこのままスルーしたい。
「YOYO、ユーは何しにガラクタ谷に?」
そう言って動画野郎のYO君は得意のファンキーポーズを披露する。
彼に遭遇するのはこれで3度目だ。
アンバランスなアフロヘアーにアメリカの古いポップスターのような出で立ち。
相変わらず派手でダサい。
師匠が露骨に嫌そうな顔を見せる。
「またあなた? こっちは会いたくないんだけど」
師匠は前回の汚物攻撃を根に持っているらしい。
俺達をクラフトの要塞に誘っておいて、汚物でドッキリを仕掛けてきやがった件だ。
ビッチもゲンナリする。
「うげぇ~ 出たヨ。元祖、ウンコマン」
「ノーノーノー! ウンコマンじゃなーい! YO君! ドンミスイット!」
なんだか英語の使い方が間違っているような気もするが、あまり関わりたくないので黙っておいた。
デッシュがYO君をしげしげ眺めながら言う。
「へけ? このアフロ? どっかで会ったでしゅかね?」
「クラフトの要塞だよ。お前、コレクションにウンコ加えただろ?」
「ああっ! そうでしゅた! あのンコの製作者でしゅね!」
嬉しそうなデッシュを見てビッチが吐き捨てる。
「ウンコマン二世がなんか言ってるヨ」
「あばば! 誰がウンコマンでしゅか! 失敬な!」
だから話をふくらませんなよ……。
師匠がYO君の連れが作業着でトングを持っているのを見て首を傾げる。
「あら? 今度はガラクタ集めにジョブチェンジしたの?」
その割にはYO君自身は以前から恰好が変わらない。
ラメ入りの白いスーツに厚底ブーツは、およそ発掘作業には向かない。
YO君は指を振りながら言う。
「ノーノー、動画配信は続けてるYO!」
懲りない奴だ。
「キッズ向けの生中継か? お前、いっつも登録者数減らしてんだろ」
「し、失礼だYO! それはユー達がチートな……」
そこまで言ってYO君が口を押さえる。
「ノーノーノー、危ない危ない! ああ、恐ろしい。もうユー達にはケンカ売らないことに決めたんだ! 学習したんだYO!」
別に『チート』は禁句じゃないけどな。まあ、分かってんならいいや。
師匠が余計なことを聞く。
「それで、何の動画を配信してるの?」
「YOYOよくぞ聞いてくれたね♪ なにを隠そう今は『お宝ハンターYO君』に華麗に転身したんだYO!」
何を言っていやがる。
「ほーん。雑魚専ゲーム中継。ウンコごっこ。で、その次はゴミ漁りか?」
俺の指摘にYO君が「うっ」と、顔を歪める。
「ユ、ユーは相変わらず辛辣だね……」
川で作業していたYO君の連れが手を振る。
「YO君! セット完了だよ!」
そこでYO君が慌てる。
「しーっ! 声が大きいYO」
セット完了? てことは……。
「お前、お宝ハンターとかいって仕込みじゃねえか」
「ノーノー! これは仕込みじゃないYO、演出だYO! え・ん・しゅ・つ!」
ビッチが怖い顔で言う。
「ヤラセじゃん! ヤラセは駄目だヨ!」
「ノーノーノー! いいから! もう中継が始まるから邪魔しないでくれYO!」
そこでYO君の連れがカメラを構える。ついにスタッフも一人だけになってしまったようだ。
「それじゃ、ミュージック・スタート! ぽちっとな」
音楽はYO君の手元で操作するらしい。
そして陽気な音楽が始まった。
「ヘイヘイ! 良い子のみんな! おまちかね! YO☆KUNのライブ中継、はじまるよ!」
そしてYO君はクネクネと踊り出す。
♪ キミたちYO! ボクたちYO!
探そうお宝 トレジャーハント!
きっと見つかる 僕らのドリーム
一緒にYO! 楽しもYO! ナウ!
きっと見つかる 素敵なサムバディ
お宝ゲットだ ドリーム カム トゥルー!
エビバデ・メイキン ゴーエン・パーリィ♪
相変らずセンスのない素人ラップ。
「結局、ゴーエン・パーティかよ……」
師匠も乾いた笑いしか出ない。
「相変わらず才能の欠片もないわね」
ビッチは呆れ顔、デッシュは目をぱちくり、そしてなぜかミルクはリズムに乗って頭を揺らしている。
しらけた空気の俺達をよそにYO君はノリノリでカメラに向かう。
「じゃかじゃーん! そんじゃ、YO☆KUNのお宝ハンター、始まるよ! チェキ!」
どれぐらいのキッズが視聴しているのかは分からないが、本当にこんな動画が人気あるのか疑わしい。
しばらく中継の様子を見学する。
はじめ、YO君はガラクタの椅子に座っておどけてみせたり、おもちゃを拾って遊んでみたり、拾った物をお題に寒いダジャレをかましたり、一応、視聴者を楽しませようと努力していた。
師匠が感心したように言う。
「意外と頑張ってるじゃない。ちょっと見直しちゃった」
「だといいけどな」
そしていよいよYO君が問題の仕込みに近付く。
「ややっ!? クンクン。匂う、匂うYO! プンプン匂う! この匂いは……」
「ボクチンのおならでしゅ」
どうやらマイクがバッチリデッシュの声を拾ってしまったらしい。
「へ!?」と、YO君がフリーズする。
YO君が目を剥いてデッシュに無言で抗議する。
「あばば、申し訳ないでしゅ。ちょっとでちゃった」
しかし、そこはベテランの動画配信者。YO君は気を取り直して軌道修正。
「こ、この匂いはお宝の匂い! 来たYO、来た来たYO~ イエス!」
あの寒いテンションからの盛り上げ方。大したもんだ。
YO君は、わざとらしく仕込みの周りを探すフリをする。
そして、あたかも偶然、発見した風に「こ、これは!? もしかしてぇ! クゥゥウ!」と、テンションを振り切って悶絶する。
「YOYOYO! お宝、発見! 発見、お宝! カモン!」
YO君は連れがセットしたガラクタの山を掘って目的の箱を取り出す。
「あるYO! あるある! 超レアかもYO!」
革の箱はちょうどいい具合に痛んでいて、中に何か入っていそうな雰囲気がある。
箱とYO君を交互にアップで撮り、視聴者の期待感を煽る。
そしてスリリングな効果音も忘れない。
「いくYO~! 開けちゃうYO~ みんな~ ドンミスイ!」
もったいぶるYO君にイライラした。
「はよ開けろや」
そしてようやく、箱に手をかけるYO君。
カメラはその手元を追う。
「じゃかじゃ~ん! おおっと、これは!?」
そう言ってYO君が中のアイテムを取り出した途端、『ボッ!』とアイテムが発火した。
「あっちいいYO!」
YO君が驚いて手を引っ込める。
手放されたアイテムは激しく燃えながら落下。そして直ぐに消し炭になってしまった。
「ホワ……ホワット? あれ?」
YO君が素の反応で立ち尽くす。
間が悪いことに、お宝発見のお祝いミュージックが流れてしまう。
次のセリフが出て来ないYO君。10秒、20秒。ライブ配信でこの沈黙は致命的だ。
何が起こったのか誰も理解できない中で、ビッチが「キャハッ♪」と、声をあげた。
「ゴメ~ン。間違って火の魔法だしちゃったヨ。ミッ♪」
それってミカポンの真似か……てか、犯人はビッチか!
唖然とビッチを見るYO君と連れのカメラ係。
「モウ! アンタのせいだゾ♪ くっさいおならをするから燃やしちゃったヨ」
ビッチはデッシュに向かってそう言うと「メッ!」と、炎の魔法を出した。
『ボボッ!』と、デッシュが火ダルマになる。
「あばばばば、あっちゅ! なんでボクチンが」
ビッチの茶番劇に無理やり付き合わされるデッシュが気の毒だ。
ようやく状況を把握したYO君が喚き出す。
「YOYOYO! なんてことするんだYO!」
YO君はビッチに詰め寄ると、レッドカードを出す審判のようにビッチを指差した。
「ユー、ビィィィィッチ!」
「うるさいヨ」
『バリバリっ!』
お約束の雷がYO君のアフロ頭に吸い込まれる。
「あぎっ、フォォ!」と、YO君が死にかける。
ビッチがウィンクしながらお説教。
「ヤラセは駄目だヨ♪」
「ノ、ノー、やらせじゃないYO……これは仕込み。し・こ・み……あれ?」
あらら。仕込みだって自分で暴露しちゃったか。
そしてYO君はそのままゲーム・オーバーになってしまった。
一発で死ぬんだ。
「いつもデッシュで見てるから気付かなかったけど、結構、威力あんだな」
かわいそうなのは、1人残されたYO君の連れだ。
彼は端末を見ながら嘆く。
「ああ、またコレだ。解除祭り止まんねぇ」
そしてワナワナと怒りを露わにして「やってられるか!」と、カメラを地面に投げつけた。
憤慨しながら帰っていく彼を見送りながら師匠が呟く。
「なんか気の毒ね」
「とうとう最後のスタッフにも見限られたか……」
「プフィ」と、ミルクも肩を竦める。
「まあ、仕込みは感心しねえし、自業自得なんじゃね?」
自業自得。まさにYO君のためにあるような言葉だ。
無駄な時間を消費してしまったので先を急ぐ。
だが、ふと一人足りないことに気付いた。
「あれ? そういえばルサが居ない」
ルサの姿が見えない。
好奇心旺盛なルサのことだから辺り一面に散らばったガラクタを熱心に観察しているのかもしれない。
ところが、デッシュが首を捻る。
「あれれ? ルサしゃん、反対方向に向かってるでしゅよ?」
「なに? しょうがねえな。あいつ」
いつもなら子守役のオッサンが居るのだが、列車事故で死んでしまったのでルサは野放しだ。
仕方が無いので来た道を引き返す。
しばらく下流に向かって進んでいると、前方に人影が見えた。
「あ! なんだあいつ等?」
よく見ると、ルサが4人組に拉致されている。
というよりルサを囲むようにして4人が下流に向かっている。
慌てて追いかける。
「おい! その子を放せ」
4人組のひとりが振り返る。
「ゲッ! 見つかった!」
下流に逃げようとする4人組だが、ルサが走ろうとしないので難なく追い付く。
俺に追い付かれたところで、奴等が振り返って開き直る。
「チッ! 邪魔が入ったか」
そう舌打ちしたのはスキンヘッドの魔導士だ。
片眼の戦士が残念そうに首を振る。
「畜生、さっきので流されなかったのか」
残りの2人は……ゴブリンと人狼?
待てよ!? こいつ等、ひょっとして……。
まさかとは思うがステータスを見る。
「お前等、NPCか!?」
人型キャラと純粋なモンスターが徒党を組んで行動している?
スキンヘッドが不貞腐れたように言う。
「てか、何で死なないんだよ? あの事故で」
事故? 事故ってまさか……。
「おい。登山鉄道の脱線。あの爆発はお前等の仕業か?」
片眼の戦士が悪びれる風でもなく冷静に答える。
「そうだよ。この女を登山口駅で見かけたって仲間から連絡があってな。終点に居た俺達が待ち伏せしてたって訳だ」
こいつ等の狙いはルサ? どういうことだ……。




