71 川崎防衛戦④ 新技の習得
ビッチが操る飛竜で上昇しながら状況を確認する。
残る光の円は一カ所。それが川崎国の国境となる河まで迫っていた。
「ギリ間に合ったな。先回りして止めるぞ」
「ネ。もう一発、ギガフレア撃とうか?」
「いや。近すぎる。巻き込んでしまうかもしれねえ」
手加減できないビッチのギガフレアだと、万が一、狙いがズレたら川崎国に影響が出てしまう。
なにしろ爆風だけでも相当なものだ。
「俺がやる。魔法をチャージしてくれ」
「ハイヨ♪」
ビッチが指先を剣の柄に押し当てる。そして魔法をチャージ。
『ボワッ!』と小さな炎が出現して、メーターを示す水晶が赤になった。
「おい。さっきと違うぞ?」
「アラ? ゴメン。間違って火の魔法にしちゃった」
「まあ……いいか。弱点属性でなくても問題ないだろ」
「今度は援護できるヨ。エンド・オブ・サンダラガスとビッグバン・サンダゴンとどっちがいい?」
「いや、それ絶対、俺も食らうじゃねえか。どっちも痛そうだから止めとく」
「エエ~ ケチだネ」
「いいから! 俺に任せておけって」
危ない危ない。加減のできない『ぶっ壊れ魔法』なんて災害以外の何物でもない。
光の円のように見えるゴーレム部隊の進路を迂回して先回りし、国境の河を背にする。
今回は先頭のキング・ゴーレムを最初に倒すことにした。
「ビッチ! 高度を下げてくれ」
「ハイヨ! エイッ!」
ビッチが飛竜の首を押し込むと一気に高度が下がった。
高い所から森に突っ込むような形で急接近する。
森の輪郭を掠めて飛ぶと、結構な勢いで木々が足元を流れていく。
「おりゃ!」
調子こいてそのまま飛び降りてしまったが、直ぐに「ミスった!」と自覚した。
「ぬぁあぁあ!」
勢い良く前に放り出され過ぎた。まるでブランコに乗って運動靴を前に飛ばしたみたいに。
慣性と重力に支配されて姿勢が制御できない。
その勢いのまま木の群れに突入!
『バキバキバキ!』『メリメリメリ!』と爆音が生じ、無数の痛みが後ろへ駆け抜けていく。
『ガツン!』
喧騒は、その一撃で収まった。
何が起こったかは考えるまでもない。顔面の痛みがすべて。
「くそ……恰好つけて飛び降りるんじゃなかった」
慣性の法則って恐ろしい。
超回復で痛みは直ぐに引いたので大したことは無い。だが、次からは気をつけよう。
「さて、と」
敵は近い。木々をなぎ倒す音に『ズシン、ズシン』の足音が近づいてくる。
視界に入るのはもうすぐだ。
今度は正面からキング・ゴーレムを倒す!
ここでキング・ゴーレムを待ち伏せする。
魔法剣を下段に構え、深呼吸する。
2体目のキング・ゴーレムを倒した時の感覚。あれを思い出す。
自覚出来ない速度での攻撃。あれを意識して出したい。
「発動条件はなんだろう……」
数秒後のイメージ、斬る手順、予測、力の入れ方、筋肉の張り具合、そして何より集中力。
「もう一回……やれるか?」
徐々に近づく足音と木々がなぎ倒される音。周囲に伝わる振動の振れ幅が次第に大きくなる。
木と木の間に潜む闇を睨みつける。
まだだ。集中とイメージ……。
『ズシン! バリバリ! ズシン!』
「来た!」
木々の隙間に白っぽい物体が現れる。
距離は20? いや30メートルぐらいか?
最初に見えたのは巨大な足。それはまるっきり城塞の壁だ。
視線を上に向けながらイメージする。数秒後の自分を。
まだ遠いかも? いや、ここだ!
「会心!!」と、同時にダッシュ!
『ザザザッ! シャキーン!』
次の瞬間、音が追いかけてきた。
気が付くとキング・ゴーレムは俺の背後で硬直していた。
剣は振り切っている。刀身には残り火のような炎が揺らめいている。
振り返ると『9999』のダメージがフラッシュして、炎に包まれたキング・ゴーレムが倒れた。
「出来た……けど」
確信が持てなかった。速すぎたのか時間が短すぎたのか分からない。
自分のやったことが断片的にしか思い出せない。
剣を振っている映像が2コマか3コマしか記憶されていない。
自覚すら出来ない速度で居合切りをしたのか? いや、一発ではない。連撃だ。
「会心連撃の発展系?」
ルサのサポート能力ではない。今のは正真正銘、自力でクロックアップした。
「超速……音速……稲妻……なんていえばいいんだろ」
徹底的に無駄を省いた超スピードの会心連撃。これは新しいスキルを習得したのかもしれない。
だが、余韻に浸っている場合ではなかった。
今度はクリスタル・ゴーレムが束になって向かってくる。
もう一丁、さっきの感覚を忘れずに……。
発動条件は、手順と数秒後の未来をイメージすること!
「いける!」
視線の先に数秒後の自分が見えたような気がする。
「神速会心!!」
クンッと加速する。
『ザザザッ! シャキーン!』
またしても背後で音がした。
まるでワープしたみたいに前方に移動している。
ゴーレム達とすれ違った覚えは無かった。あるのは断片的な記憶のみ。
振り返るとドミノ倒しみたいにゴーレムが次々と倒れるところだった。
「これ、凄えな……」
だが、喜んでいる暇はない。敵はまだ残っている。
『ブンッ!』と、横からゴーレムの拳が飛んできた。
それを交わして「会心!」で弾く。
剣を振った軌道に炎の軌跡が重なる。炎の魔法が放出されているらしい。
「一気に片付ける!」
炎のエフェクトに照らされながら、広範囲の会心連撃でバッタバッタとゴーレムを斬り倒す。
少し離れた位置のゴーレムには神速会心!
複数固まっているところには炎の会心連撃!
リズミカルに攻撃を繋いでいく。いい練習台だ。
無心で技を繰り出し、新しいスキルを身体に覚えさせる。
敵の気配が周りから失せたことに気付いたが、まだ斬り足りない。
「やったか……」
達成感よりも物足りなさが勝った。この高ぶった鼓動を鎮めるのにも苦心した。
……俺ってこんな性分だっけ?
しばらくして、飛竜を着地させたビッチに声を掛けられて我に返った。
「ああ……ビッチか」
「ひとりで頑張ったネ。お疲れ様」
ここからだと川崎国の街の明かりを見ることができる。
思っていた以上に近かったようだ。
「ふぅ、何とか間に合ったな」
ビッチがおどけたように肩をすくめる
「ホントにアタシの援護、要らなかったネ」
「ああ。この魔法剣はいいな。ミスリル・ソードより物理攻撃は落ちるけど、その分、魔法ダメージが入る」
広範囲を攻撃できるのは大きい。感覚的には10メートルぐらいのリーチがある。
「それと新しいスキルを取得したかもしれない」
「エ? そうなの?」
「どういうスキルかは確定じゃないけどな」
「すごいジャン♪ 見せて見せて」
「見世物じゃねえし」
「ウ~ン、ケチ?」
ケチと言われてもなあ……。
「敵もいないのにできるか! まあ、そのうち披露できるだろ」
「良かったネ。師匠に報告しないとネ」
「あ! 師匠のこと忘れてた!」
まったりしている場合じゃなかった。南方面のダム決壊を防ぎに行った師匠達に合流しなければ!
「ビッチ! 師匠のとこに行くぞ!」
「アイヨ。じゃ乗ってネ」
急いで飛竜にまたがり、ビッチの後ろから手を回す。
一瞬、迷った。ぎゅっと接触していいものか……。
「行くヨ~!」
ビッチが手綱をしごいて飛竜が飛び立つ。
その勢いで反射的にビッチに抱き着いてしまった。
「わ、ごめん!」
腰に回したつもりの両手首に、おっぱいの重み。
手のやり場に困っているとビッチが「いいヨ、別に……」と、抑揚のない感じで呟いた。
怒っているのか? それとも諦めてる?
表情が見えないことが、こんなに不安にさせるなんて……。
飛竜は川崎国の上空を縦断して、南の方角に向かった。
避難のために移動している人達がいるが、パニックが発生している風ではない。
しばらく飛んで川崎の南に位置する山に近付く。
「師匠達はどの辺だ?」
目を凝らすが暗くて分からない。
敵の狙いはダムの決壊だ。
「ダムってどれだ?」
「ン。アレじゃない?」
ビッチが顔を向けた方向に目をやると、黒い山肌の向こうに白っぽいものが見える。
山と山を繋ぐような形で、平べったい台形のようなそれがダムだと思われる。
その近くで何かがチカチカと光った。続いて破裂音が聞こえてくる。
「あれは!? 多分、あの辺りだ!」
おそらく、ダムと思われる場所の少し手前で戦闘が起こっている。
だとしたら、ダムに向かう師匠達が敵と交戦しているのだろう。
その予測は当たっていた。
光った箇所に向かって急速接近し、上空から声を掛ける。
「師匠~! そっちはどうだ?」
高度を下げて接近する俺達を見上げて師匠が答える。
「まだ着いてないわよ!」
その口調は、なんか怒っているっぽい。
不思議に思いながら着地して合流する。
ダムに続く坂道では、師匠から大きく遅れてデッシュがヘロヘロになりながら着いてきている。
さらにその後方にはミルクがメロスとライオン丸に支えられながらガッシャン、ガッシャンと坂道を上ってくる。
「師匠、こっちは片付いたぜ」
師匠は険しい表情で言う。
「こっちは大変なんだからね!」
はじめ意味が分からなかったが、デッシュ達の様子をみて悟った。
「ああ、ここまで歩いてきたからか。山道だもんな」
ビッチも納得する。
「それにお荷物も居るしネェ」
その冷たい視線はデッシュに向けられている。
デッシュは木の棒を杖代わりにして、コントに出てくる老人のようにヨタヨタしている。
「あいつ、体力ねえな。ゲームなのに」
呆れていると師匠が口を尖らせる。
「私だって疲れたわよ。あなたみたいにスタミナ無いから!」
「そういうもんかね?」
自分ではあまり意識していないが、確かにゴーレム相手に暴れた割にはケロッとしている。
師匠は前方を見据える。
「急がなきゃ」
師匠の話によると、この山道にも敵が見張りをたてていて、それを排除しながら上ってきたので余計に時間を要してしまったらしい。
そこにデッシュが息を切らせながら到着した。
「死にそうでしゅ。ボクチン、山登りは得意じゃないでしゅよ」
「でしょうネ」と、ビッチが冷たい反応。
「は? 何で分かるでしゅか?」
「だって、リアルじゃ運動してないでしョ。絶対、中年太りだヨ」
「う、うるしゃいでしゅよ。そっちは楽チンで良いでしゅね。ドラゴンに乗って」
師匠が恨めしそうに頷く。
「そうよ。失敗したわ。こっちは歩きで大変なんだから」
ああ、それで不機嫌だったのか。
こっちは別にサボってたわけじゃないんだけど、確かに山登り組からしたらそう見えるかもしれない。
ダムまではもうすぐだ。だが、ドラゴンに全員乗るのは難しい。
「そうだ。デッシュ、みんなをハーフ&ハーフで小さくしろ」
「へ? なんででしゅか?」
「フィギュアぐらいのサイズになれば全員ドラゴンに乗れるだろ?」
師匠の表情がほころぶ。
「なるほどね! そうしましょ」
あと少しだから術の効果はもつだろう。
そこで早速、ビッチとデッシュを除く俺達5人がミニチュアサイズになり、デッシュのポケットに収まった。
ドラゴンを操縦するビッチの後ろにデッシュが乗り、そのポケットに俺達が入る形でダムを目指した。
ビッチがデッシュに釘をさす。
「触ったら殺すからネ」
「あばば、でも、摑まるところがないでしゅ」
「キモイから触ンないでヨ!」
おいおい。デッシュが転がり落ちたら俺達も落下しちまうじゃねえか……。
飛行中にデッシュのポケットから上半身を乗り出していると、メロスが耳打ちしてきた。
「兄貴……幼女、重いッスね」
「そっか。お前等、ミルクを手助けしてくれてたんだよな」
疲労困憊のライオン丸が頷く。
「うう、押すの大変だったぜぃ……」
「ご苦労さん。ミルクが、というより武装がなぁ」
ミルク本体が重いわけではない。ただ、幼女を連れて山登りするのは大変だったと思う。
そうこうしているうちに、俺達はダムの上空に到達した。
近くで見ると圧倒的な存在感だ。このゲーム内で見てきたどんな建造物よりも大きい。
そして、その向こう側には大きな湖。結構な面積を誇っている。
「思ったよりデカいな。あれが決壊したら……」
ダムがせき止めるダム湖と、その下流にある川崎国を見比べて想像した。
「責任重大だよな……」




