69 川崎防衛戦②
メロス達が会って欲しいというPPMは、この川崎国の大スポンサーだと聞いていた。
ライオン丸によると伝説のトレーダーだという。
「会うのはいいけど、師匠の意見も聞いてみないとな」
けど、俺達が転移者と聞いた途端にそんなことを言い出すのは何か意図があるのか?
神妙なメロスとライオン丸を見比べながら考えているとデッシュが何か見つけたようだ。
「あれれぇ? 誰でしゅか? あれは」
見るとドラゴンの落下地点から数メートル離れた街路樹に引っ掛かる形で誰かが失神している。
ぱっと見それは、先ほど公園で交戦した兵士のようだ。
「あの軍服……ドラゴンに乗って来た敵兵か?」
このドラゴンは東方面から飛んできた。ということは、さっきビッチがやっちまった奴かも?
兵士の姿を一瞥してメロスが吐き捨てる。
「スパルタの奴ッスよ……」
「やっぱそうか。けど、こいつ、ビッチの魔法を食らってよく生き残ったな」
その兵士は髭面で太っていたが胸に勲章を所狭しとくっつけている。
それを見てメロスの反応が変わる。
「あ、兄貴! こいつ結構、大物かもしれないッス」
「ああ。勲章だろ。階級が上なのかもな」
目を覚ました髭面の兵士が、ガバっと起き上がる。
そして俺達を見て動揺する。
「ななな、なんと! き、貴様ら何者ぞ?」
ライオン丸が困ったような顔で頭を掻く。
「何者と言われてもなぁ。オラはライオン丸だけど」
「な、なんと、けったいな名前! お前等は川崎民だろう」
「そうッス。あんた撃墜されたッスよ」
「なな、なんと! 信じられん。我ら竜撃部隊を遠距離攻撃で殲滅するとは、どんな卑怯な手を使った? は、白状せよ!」
卑怯な手と言われてもなあ……。
俺がビッチを見る。同時にメロスとライオン丸もバツが悪そうにビッチに視線を向ける。
「な、なにヨ! アタシのせい?」
「いや、お前のせいだろ。馬鹿みたいに強烈な魔法出しやがって」
それを聞いて太った髭面の兵士が驚愕する。
「ななな、あれが魔法だと!? 核兵器ではないのか?」
「いやいや、そんなものねえし。てか、ビッチの魔法食らって良く生きてんな」
髭面兵士は顔を歪める。
「部下達が身を挺して盾になってくれた。それでもこのダメージとは……不覚」
メロスが勝ち誇ったように言う。
「川崎を舐めんな! もう諦めろ! 俺達が諦めることを諦めろ!」
なんか分かりにくい表現だな。言いたいことは分かるが。
項垂れていた髭面兵士が顔を上げる。そして笑い出した。
「ククク、これで勝ったと思うな。今度こそ、お前等はおしまいだよ」
ライオン丸が無邪気に小首を傾げる。
「え、なんで?」
「クックック、何も知らん方が幸せかもな。計画通りだ」
髭面兵士はそう言って不敵に笑う。
妙だな? 自慢の飛竜部隊を全滅させられ、公園の兵も退けられた。
その割には余裕があるみたいだ。
それに計画というのが引っ掛かる。
「デッシュ。こいつに幻術かけろ」
「へ? 幻じゅちゅ、でしゅか?」
「そうだ。何を企んでるか吐かせる」
戦闘にはまるで向かないがデッシュは幻術が使える。
「分かったでしゅよ。それじゃ」
そう言ってデッシュが左目を緑に変化させて、催眠術をかけるようなセリフを口にする。
「あんたシャンは、ボクチンの虜になるでしゅ……ボクチンになんでも教えたくなるでしゅ……」
そんなベタなものが効くのか訝っていると、髭面兵士の目がトロンとし始めた。
ビッチが耳打ちしてくる。
「アレ、効いてるみたいだヨ」
「だな。あいつの幻術、初めて役に立つかもな」
「そうだヨ。いっつも逃げてばかりだからネ。バトルのとき」
確かにビッチの言う通りだ。
ビビリのデッシュはいつも戦いから逃げてしまう。なので幻術を使う機会が殆ど無い。
しかし、その特技が、ようやく脚光を浴びる機会に恵まれた。
やがて、髭面の兵士の瞼が閉じられる。
「いいでしゅよ……さあ、ボクチンのしもべよ、目を開けるでしゅ」
その言葉で髭面兵士が、カッと目を開ける。
「よちよち。では、ボクチンの質問に答え……むぐっ!」
一瞬、何が起こったか理解できない。思わず二度見する。
「うげっ!?」
気持ち悪いことに髭面兵士がデッシュに抱き着いて唇を重ねている!
「なにやってだ、こいつら……」
「ウゲェ、キモいヨ……」
太った髭面兵士はガッシリとデッシュの頭を抱え込み、何度も何度も激しいキスをお見舞する。
「アババ、むぐぅ……やめるで、むぐっ……ボクチン、むぐむぐ」
デッシュは必死で髭面兵士を引き剥がそうとする。
が、彼は狂った祖父が孫娘に接吻するみたいにキスの嵐を止めようとしない。
見ててゲンナリする。
「汚い絵ずらだな。見るに堪えねえ」
「アララ、虜になっちゃったんだネ」
「そっか、ボクチンの虜になれって言ってたもんな。そりゃデッシュが悪い」
俺とビッチが全然、助けようとしないのでメロスとライオン丸も為す術がない。
「アバババ! むぎゅ、早くたしゅけて、むぐ、おえっ」
風俗街でいい思いをしてた罰だ。それにしても長いけど。
「おい、デッシュ! そいつに俺が上官だと思い込ませろ」
俺には考えがあった。上官のフリをすれば奴等の作戦が聞き出せるかもしれない。
「あばば、分かったでしゅ、むぐ、あんたシャン、もぐぅ、上官の前で何してるでしゅか!」
デッシュの言葉に髭面兵士の動きがピタリと止まる。
そしてバツが悪そうに俺の方を見る。
解放されたデッシュの顏はよだれでベトベトだ。
髭面兵士はデッシュを突き飛ばして立ち上がり、敬礼する。
「し、失礼いたしました! 閣下!」
おお! 上手くいってる!
俺も敬礼で応える。
「構わん。で、状況は? 報告したまえ」
「ハ! 作戦は順調であります! 時間稼ぎはできましたので、あと2時間で完了であります!」
何が完了するって? そこを聞かないと。
「2時間とな? もう少し、早くならんのか?」
「ハ! 申し訳ありません! 水を貯める魔法使いの部隊に欠員が出まして……」
「欠員だと? どういう管理をしておる! 作業工程はどうなっている?」
髭面兵士は直立不動の体勢で報告を続ける。
「ハッ! 水魔法で大量に水をダムに貯め込んでおりますが、時間を要しております!」
ダム? 水を貯める? 嫌な予感がした。
「なるほど。では、あと2時間で水が貯まるのだな? で、その後の首尾は?」
「ハ! 一気に決壊させます。既に爆破の準備は完了しておりますので、あと一息であります! これでこの国は洪水でお終いであります!」
それを聞いて唖然としていたメロスが髭面兵士に殴りかかろうとする。
それを止めるライオン丸も鬼の形相だ。
なるべく詳細を聞き出す為に質問を続ける。
「ふむ。洪水から逃げ出す者もいるだろう。お前達が足止めするはずではなかったか?」
「も、申し訳ございません! 想定外の兵器で攻撃されたものですから……しかしながら、北側から進軍中の部隊は予定通り到着いたします」
「部隊の内訳は? 任務は遂行できるのか?」
「ハッ! キング・ゴーレム4体、クリスタル・ゴーレム200体、その他、わが国が誇る牧場が育成したモンスターを総動員しております! これらが川崎を取り囲み、逃げられないように閉じ込めます」
モンスターを育成だと?
「ポケ●ンかよ」
思わず俺がそう呟いたのを聞いて、ビッチがポンと手を打つ。
「知ってるヨ! ポケットの中に必ず糞をするンだよネ! 略して『ポケフン』!」
こいつは何を言っているんだ? 天然にも程がある……しかもこんな状況で。
いや、呆れてる場合じゃない。
髭面兵士はこのまま拘束するとして、早く皆を避難させなくては!
「メロス、ライオン丸! この国の偉い人にこのことを伝えて対策を取れ」
「わ、分かったッス!」
「ビッチ! 師匠と合流したら二手に分かれるぞ。そうだな……」
北から迫るモンスター部隊は、ゴーレムの強化版が主力だという。
ということは俺が行くしかない。だが、問題は敵が多すぎる。
広範囲の攻撃が必要だ。ビッチと組むか、ミルクと組むか……。
「くそっ! こういうことがあるから魔法剣を手に入れておきたかったのに!」
それを聞いてメロスが言う。
「魔法剣ッスか?」
「そうだ。この国の先に魔法剣の有名な産地があるって聞いてたんだが……」
メロスがポカンとした顔で言う。
「魔法剣ッスか。あるッスよ?」
「なに!? マジか!」
「魔法剣を作ってる村ッスよね? 川崎支店があるッスよ」
「支店だと!?」
なんだ、わざわざそんな遠くまで行かなくても良かったのか。
にしても、支店とか商魂たくましいな……。
「案内してくれ。それがあるとだいぶ違う」
ただ、これは大変なことになった。
ダムを崩壊させてこの国を水攻めで壊滅させるとは……。
果たして守れるか?
このゲームで防衛戦というのはやったことがない。何かを守りながら戦うのは勝手が違う。
しかも国をまるごと守るなんてスケールがデカすぎる……。
* * *
魔法剣の支店は繁華街に普通にあった。
店主を叩き起こして一番、上等なものを買う。
魔法剣の良し悪しは、貯め込める魔法のエネルギー量に左右されるという。
なので、一番キャパが大きいものを選んだ。
一方で、師匠とミルクが合流したので作戦内容を確認する。
俺とビッチが北のモンスター軍団を叩き、師匠とミルクはダムの崩壊を阻止するべく南に向かう。
眠そうだった師匠の表情が引き締まる。
「分かったわ。おそらく、ダムに近寄らせないように軍隊を配置してるでしょうから、それも排除しないとね!」
「ムィィ!」と、ミルクも張り切っている。
ミルクは、この国がすっかり気に入ったらしいのでモチベーションが高い。
「ビッチ! 俺達は髭面のオッサンが乗ってたドラゴンで北に向かうぞ。回復させろ」
髭面兵士が乗っていた死にかけのドラゴンをビッチの魔法で回復させようと思ったのだ。
だが、ビッチが首を振る。
「無理だヨ! アタシ、攻撃魔法しかできないの知ってるでショ?」
「あ、そうだった。弱ったな」
「それならボクチンに任せるでしゅ」
「え? デッシュが?」
「ボクチンが舐めるでしゅよ。ボクチンの唾液はエリクサー並みの回復効果があるでしゅ」
「ああ……前にそんなこと言ってたよな」
確かにデッシュには、そういうスキルがあった。
これも幻術と同じで使い道がなかったから、すっかり忘れていた。
ビッチがゲンナリする。
「ウゲ……ドラゴン、可哀想。臭くて死んじゃうカモ?」
「し、失礼でしゅね! 相変わらずアンタしゃんは!」
デッシュは文句を言いながらも、ハーフ&ハーフでドラゴンを64分の1サイズにした。
そして小さなドラゴンをペロペロ舐め回した。
すると、本当にドラゴンがあっという間に全回復した。
「やるじゃんデッシュ! よし、さっそく乗っていこう」
だが、ビッチは嫌そうな顔。
「ネ、このドラゴン、洗っちゃダメ? なんか臭そう」
まあ、確かにデッシュが舐め回した後のドラゴンに乗るのは躊躇われる。
なので、元のサイズに戻るまでの間に水道水で念入りに良く洗った。
師匠が町中の様子を眺めながら心配そうな顔。
「皆、避難してくれればいいんだけど」
「そうだな。最悪、ダムが崩壊したら助けようが無い」
町中ではサイレンと避難を促す放送がひっきりなしに鳴り響いている。
ハーフの術が解けてドラゴンが普通サイズに戻った。
そこに俺とビッチが背中に乗り込む。
「師匠、ミルク。そっちは頼んだぞ。ダムの崩壊を食い止めてくれ」
「ええ。大変だと思うけど。やってみるわ」
「ムフゥウ!」
「ミルク、張り切るのはいいけど、ダムまで壊しちゃ駄目だぞ」
「プィィ!」
俺達のパーティは壊すのは得意だが、守ることは不得手だ。
そこは師匠も理解しているようで、色々と考えを巡らせている。
出発の間際に師匠がデッシュに命令する。
「あなたは私達のチームに同行しなさい」
「あばばば、あ、危ないところに行くのは勘弁でしゅ。ボクチンは邪魔にならないように町の人の避難をおてちゅだい……」
「ダメよ。一緒に来るの! 言うことが聞けないなら追放よ」
「あばばば、そ、それだけは勘弁でしゅ! うわーん」
デッシュを連れて行くのにどんなメリットがあるかは分からない。
が、師匠にも考えがあるんだろう。
「よし! そんじゃ、行くか」
俺の背中に身体を密着させたビッチが手を挙げる。
「ヨシ、行っくヨ~ 世界を救いに!」
「世界は大げさだろ。川崎を救うためだ」
「へへ、そだネ」
「いっちょブチかましたろうぜ!」
新たに入手した魔法剣はぶっつけで使うことになる。が、予断を許さない状況では止むを得ない。
川崎国を守るため、俺とビッチは飛竜で飛び立った。




