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68 川崎防衛戦

 突撃と同時に手当たり次第に敵兵を斬っていく。

 目印は軍服だ。


「会心連撃!」

 一番近い敵に接近しながら剣を振る。

『ズバズバ!』

「ぐあっ!?」

 最初に遭遇した兵士はマックスダメージ2発で即死した。


 隣で交戦中の兵士仲間2人が気付いて、火と雷の魔法をそれぞれ放ってきた。

 それを交わしながら接近! 雷の端っこが肩を掠めたが気にしない。

 そのまま突っ込んでの会心連撃!

『ズバババババ!』


 2人の兵士の間を通り抜け、背中で奴等の呻き声を聞く。

 死亡を確認するまでもない。次だ!


 周囲を見る限り、川崎民が劣勢のようだ。

 兵士の勢力はチームを組んで川崎民を個別撃破している。

 近い所から順に突っ込んで行って、片っ端から会心連撃をお見舞していく。


 見るとビッチも孤軍奮闘している。

『バリバリッ!』『ザシュッ!』と、単発魔法を駆使しながら兵士達を相手にするビッチ。

 呪文なし、ノーモーションで魔法を出せるビッチは、敵の攻撃をヒラリと交わしてズドン! また交わしてズドン! と、華麗に戦場を駆け巡っている。


 が、そうそう上手くはいかず、時折、ブスリと剣で突き刺されたり、突き飛ばされたりして「ヤダ! モウ!」と、憤慨している。

 もちろん、攻撃を受けても仕返しの魔法をきっちり決めて確実に仕留めていく。


 敵をぶった斬りながら、しばらくビッチの様子を伺っていたが、あの調子なら大丈夫だろう。

 そこに中ボス風の太った兵士が突進してきた。

「こいつだ! こいつを殺せ!」

 中ボスの横からはライフル銃を構えた兵士が5人。そいつらが一斉射撃で撃ってきた。

 それとは別に左右から軍刀で同時に斬りつけられる。


『ザクッ!』

 手をクロスして左側の兵士には俺の剣先を、右側の兵士には拳をお見舞した。

 奴等の斬撃で受けたダメージは一桁。痛みはあるが気にしない。

 身体を傾けながら、回転切りの要領で左右の軍刀を持つ兵士に会心を叩き込む。

「うりゃあ! 会心!」


 2回転で、それぞれに『ザシュザシュ!』と、マックスダメージを与えた。

「え?」「う?」

 目を見開く軍刀の兵士達を残して中ボスに向かってダッシュ! 


 ライフル部隊から何発か弾丸を食らった。けど、気にならない。


 中ボスに『ズババババ』と、会心連撃! 

 続いて中ボスの腹を蹴って、その反動でライフル部隊に向かって飛び込み、会心連撃の乱舞を食らわせる。

『ズバババババ』

 剣を大きく振って、ライフル部隊をまとめて巻き込む。

『ザシュザシュザシュ!』

 ライフル部隊は成す術なく、会心連撃の餌食になった。


 中ボスがフェードアウトしながら喚く。

「バカな! そんなバカな! 信じられん!」

 自分を含めて8人が秒殺されてしまったことが信じられないのだろう。


 さて、次は……と、思ったとき、見覚えのある奴等が交戦しているのを発見。

「あれはメロスとライオン丸?」

 川崎国に案内してくれた2人が、兵士に囲まれて奮闘している。


 メロスは剣で軍刀とやり合っているが、3人を相手に苦戦している。

 ライオン丸は兵士の頭に噛みついているが、他の兵士に斬りつけられながら足をばたつかせている。

「なんちゅう戦い方だよ」


 仕方が無いので助太刀《すけだち》に入る。

 ダッシュでメロスと交戦中の兵士に斬りつける。

「会心連撃!」

『ズババババ!』で、メロスの周りの3人を速攻で倒す。


『会心連撃!』

『ズバズバズバババ!』で、ライオン丸の相手3人を葬る。


 急に敵の攻撃が止んだのでメロスとライオン丸が拍子抜けしたように立ち尽くす。

 彼等を囲んでいた兵士6人がほぼ同時にゲーム・オーバーになる。 

 そこでメロスが俺に気付く。

「あ、あれ? 兄貴!」


 ライオン丸が状況を飲み込んで言う。

「これって兄貴が? 感謝! 感激! 雨あられ!」


 呆れながら尋ねる。

「どうでもいいけど、噛みつき攻撃ってなんだよ」

 さっきのライオン丸の攻撃。噛みついて攻撃するプレイヤーなんて初めてだ。


 メロスがライオン丸の顔を見ながら頭を掻く。

「ああ、こいつの技、『噛みつく』『強く噛みつく』『激しく噛みつく』『噛みちぎる』『あま噛み』しかないんスよ」

「おいおい……最後の『あま噛み』ってなんだよ」

 マジで変な奴だ。


 そんなやり取りをしている間にも戦闘は各所で続く。

 俺とビッチで大分、数を減らしたので敵兵は分断され、形勢は逆転しつつある。

 数的優位の川崎民が若干、押している。


 メロスとライオン丸にはっぱをかける。

「ほれ、もう一息だ。敵を一掃するぞ!」

「へい! 兄貴!」と、2人が声を揃える。

「だから兄貴はやめろって……」


 メロスとライオン丸を引き連れて残党を刈る。

 引き連れてとはいえ、敵を薙ぎ払うのはほとんど俺だ。

 メロスとライオン丸は敵を威嚇するぐらいしか役に立ってない。


 駆け抜けながらの「会心連撃!」

 足を止めて回転しながらの「会心連撃!」

 斬っても斬ってもターゲットは尽きない。

 敵兵を見つけてから斬り捨てるまでの流れが心地よいリズムを生む。


 いい調子だ!

 なんだかこの段になってくるとストレス発散みたいになってしまった。

 無双状態特有の高揚感。注意しないと味方の川崎民まで斬ってしまいそうになる。

 俺の暴れっぷりは、傍《はた》から見たらバーサーカーみたいに見えるかもしれない。


 どれぐらい立ち回っただろうか。

 息が上がることは無いが、精神的な疲れは蓄積する。

 乗りに乗っていたとはいえ、終わりが見えてくると疲労が混じってくる。

「ふぅ。これで終わりかな」


 あらかた片が付いたところでビッチを探す。

 そんなに遠くないところに居た。

「ビッチ! そっちはどうだ?」


 ビッチは敬礼しながら答える。

「エヘ。任務完了だヨ♪」

「こっちも片付けた。師匠達は?」

「ウーン。ホテルで寝るっていってたケド」

「呼んでくれ。呑気に寝てる場合じゃないぞ」


 公園の敵兵は殲滅した。しかし、未だサイレンは鳴り止まない。

 ということは敵兵の襲来が収まっていないということだ。

 そこでメロスに尋ねる。

「説明してくれ。これはどういう状況だ?」


 メロスが神妙な顔つきで説明する。

「スパルタの奴等ッス。奴等、ずっとうちらの領土を狙ってて、時々、攻めてくるんスよ」

「ほお。じゃあ、川崎と戦争中ってことか」

「そうッスね。あっちはバリバリの武闘派。こっちは防戦一方ッス」

「お前らが警戒していたのはこいつらなんだな?」

「そうッス。奴等がいつ攻めてくるか分からないッスから、国境を警備してるんス」


 なるほど。川崎国は、スパルタという武装勢力から何度も侵攻されそうになっているのか。


 公園内の戦闘が収まり、静かになったせいでサイレンの音が耳につく。

「サイレンが鳴りやまないな。まだ攻撃してくるのか」

 戦闘が行われている箇所が他にもあるのかもしれない。

 敵の規模が分からないので、次にどこに向かえば良いのか分からない。


 ライオン丸が東方面の空を見上げて鼻を鳴らす。

「うぅぅ、獣臭いぜぇ! 飛行隊が来るかもしれねぇ!」

「飛行隊?」

 ライオン丸は東の夜空を睨みながら答える。

「そう。ドラゴン飛行隊だぁ!」


 それに倣《なら》って俺も東の空を見上げる。

 東の夜空では幾つものサーチライトが目まぐるしく動いている。

 しばらく目を凝らしていると、チラチラと何か鳥のようなものがライトに浮かんだ。

「なんか飛んでる? お前、よく分かったな?」


 ライオン丸は指で鼻の下を擦る。

「へへッ! スキル、野生の嗅覚発動だぜぃ」


 ひいふぅみぃ……ざっくり数えて20体ぐらい居る。

 あれがドラゴンの編隊だとすると、空からの攻撃が予想される。 

「なあ、こっちは迎撃しないのか?」

 メロスが首を伸ばしながら訝《いぶか》る。

「おかしいッスね。狩人部隊が出撃してるはずッスけど……やられちゃったんスかね?」


 そこにビッチが口を挟む。

「ネ。あれって全部、敵?」

「そうッスよ。メチャメチャ強いんスよ」

 ライオン丸が顔を顰める。

「あいつ等、爆弾とかフンとか落としてくるんだ! とんでもないぜ!」

 いや、爆弾とフンを一緒にするなよ……。


 メロスが爪を噛む。

「マズいッス。あいつ等、やたら強くて伝説があるんスよ……」

「フウン。じゃ、全滅させてもオッケーだよネ♪」

 ビッチが明るく宣言したのでメロスが目を丸くする。

「え? あの、聞いてるッスか? あいつら、パネえッスよ!」


 メロスのリアクションはガン無視してビッチがロッドで前方の空を指す。

 ちょうど狙いを定めるように。

「いくヨ~ ガッテン、サンダラス!」

 呪文と共にビッチのロッドが『カッ』と光る。

 そして太く短い黄色いレーザーが、サーチライトが集まった箇所を目掛けて一直線に飛んで行った。


「うおっ、ここからでも届くのかよ」

 その飛距離に呆れていると前方で魔法陣のような平べったい光の環が投げ網のようにバッと拡がった。

 その大きさはあっという間に町全体を覆うぐらいに拡大し、しばらくその場に留まった。

 電撃と思われる光の筋は毛細血管のように空間を埋め、その表面では無数の細かい光が跳ねている。


「あ、落ちたぞ」

 まるで突然死した蚊のように飛行物体がボトボトと落ちていくのが見えた。

 ビッチの雷魔法はクモの巣みたいに広がって、敵の飛行隊に大打撃を与えたらしい。


 メロスが唸る。

「うぇ、エグいッス。あの一撃で……マジッスか」

 ライオン丸が鼻をヒクつかせる。

「なんか焦げ臭いのが漂ってくんぞ!」

 彼がそう言うということは、本当にビッチの魔法が効いたのだろう。


 とりあえず大通りを東方面に移動していると、前方の路地からデッシュが出てくるのが目に入った。

「あれ、デッシュじゃねえか?」

「ソダネ。何であんなトコから出てくるンだろ?」


 ビッチが首を傾げているとメロスがニヤっとする。

「風俗ッス。あの辺りは『青春通り』って、女の子とまあ、いちゃこらと……」

「ナニそれ! やらしーナァ、もう」

 そう顔を顰めるビッチだが、そういう俺達も……未遂だけど。


 デッシュは俺達の姿を認めると、頭と尻を掻きながらトボトボと寄ってきた。

「もう、なんなんでしゅか」

 デッシュは半ズボンから白シャツがはみ出しただらしない恰好で口を尖らせる。


 その時、前方の上空から何かが迫ってくるのがチラリと見えた。

「なんだ?」

 それはフラフラと蛇行する飛行物体だった。しかも、どんどん高度が下がってくる。


「危ね! こっち来んぞ」

 墜落しそうな状態とはいえ、そこは飛行物らしく、あっという間に接近してくる。

 しかもその進路は俺達の立ち位置に被っている。


「おっと」

「アララのラ」

「危ねッス!」

「うがああ!」

『ドスン!』


 飛行物体はドラゴンだった。それが俺達の目の前で墜落した。

「なんだ? このドラゴン、ボロボロじゃねえか」


 そこで道路に突っ伏すドラゴンから声が漏れた。

「お、重いでしゅ……」


 メロスがビビる。

「ひっ!? ドラゴンが喋ったッス!」

「いや、今のは……」

 俺が説明するより先にビッチが答える。

「変態ハゲカッパだヨ」


 予想通りデッシュはドラゴンの下敷きになっていた。


 4人がかりでドラゴンをどかしてデッシュを救出しようとしたが、翼を広げたドラゴンは結構、重くて難儀する。


「無理ッス。全然、動かないッス」

「あ、そうだ。おーい、デッシュ。ハーフの術を使え」

 ドラゴンがデカいなら小さくすればいい。

「うぐぐ、了解でしゅ……それじゃ、ハーフのじゅちゅ」

 圧迫されているせいかデッシュが苦しそうに術を発動させる。


『ポフン』

 術は発動した。ところがドラゴンの大きさに変化はない。


「あれ? デッシュ。失敗してんじゃねえか」

「しょんなことないでしゅ……うう」

 変だなと思っていたらライオン丸が「ウホッ!?」と、声を上げた。

「アララ」と、ビッチも異変に気付いてゲンナリ。


 見るとメロスの下半身が丸出しになっている。ハーフの術がメロスの服に効いてしまったようだ。

 気付いていないのはメロスだけ。彼はドラゴンを観察しながら首を捻る。

「なんか、スースーするッス」


 救出に真剣なメロスがお尻丸出しで、本人がそれに気づいていないさまは実にシュールだ。


 結局、ハーフの術をやり直して、8分の1サイズにしたドラゴンをどかしてデッシュを救出した。

「あばばば、死ぬかと思ったでしゅ」

 土埃まみれのデッシュを見下ろしながらビッチが言い放つ。

「死ねばよかったのにネ。残念ながら転移者は死なないケド」


 それを聞いてメロスが目を見開く。

「て、転移者ッスか!? この汚ったねえクソガキが?」

 ライオン丸も驚きを隠せない。

「こんなチンチクリンの臭っさいハゲが転移者!」


 ビッチが不本意そうな顔で頷く。

「そうなンだよネ。同じ転移者として恥ずかしいケド」

 ビッチの言葉を理解したメロスが俺とビッチの顔を見比べて仰天する。

「マジッスか! まさか、兄貴達、全員ッスか?」

「ああ。一応な」


 そこでメロスがライオン丸に耳打ちする。ライオン丸もそれに応えてヒソヒソ話。

「なんだよ。なにコソコソ相談してんだよ」

「え? あ、失礼したッス。実は……会って欲しいんッス」

「会うって誰に?」

「王様ッス。この国の王、PPMさんッス」

「王様だって? PPMってのはここを創った投資家だよな?」

「そうッス。ぜひとも兄貴達に会って欲しいッス!」


 なんで俺達を会わせたいのか知らんが、なにやら事情がありそうだ。


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