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67. 夢の国、それは川崎

 大男がいきなり角材で殴りかかってきたので、剣で軽く払う。


 弾かれた角材が『バキャッ!』と、大男の顔面を直撃。

 そしてまさかの4800ダメージ。会心で弾いたらそうなった。


 唖然とする2人組。

「え? なんで? およ?」と、角材で自爆した大男はおでこを撫でながら首を傾げる。

 メロスが心配そうに大男に声を掛ける。

「だ、大丈夫かよ! ライオン丸」


 ライオン丸? こいつも変な名前だ。

 確かに全般的に毛髪量が異様に多い。

 長髪、揉み上げ、顎髭、それらが茶色く繋がって、ライオンの『たてがみ』に見えなくもない。

 たぶん、そこから付いた名前なんだろう。


 とりあえず、2人とも少し冷静になったようで何よりだ。

 そこで、KKKを創ったとされる男の素性について聞いてみた。

「なあ、そのPPMってのは何者なんだ? トレーダーとか言ってたよな」

 

 メロスがハッとして答える。

「え? ああ、株のデイ・トレードで稼いでる人だ」


 それを聞いて師匠が驚く。

「カブ? カブで稼ぐの?」

 ビッチが同調する。

「ウン。でっかいカブなんだろうネ。みんなで引っ張るンだヨ」

 カブは合ってる。だけど、お前等が想像してるのは絵本の『大きなカブ』だ。


 さらに師匠が聞き間違いの追い打ち。

「ゲイ・トレードって儲かるの?」

「ウン。ホモの人に需要があるンじゃないカナ」

 うん。トレードする物が違うね。それじゃ人身売買だ。


「ああ痛かった」と、目をぱちぱちさせるライオン丸。

「大丈夫か? 冷やすか?」と、それを労わるメロス。

「平気、平気。ありがとな。メロス」

「いいんだよ。無理しなくていいぞ」

 こうしてみると、仲が良い普通の兄ちゃん達なのかもしれない。


「なあ、で、許可が無いまま通ったらどうなるんだ?」

 俺の問いにメロスが答える。

「あ、ああ。アンタ等は大丈夫ッス。敵じゃねえ」

「敵? それで監視してんのか」

 そう言った俺の顔をライオン丸がニコニコしながら見ている。


「ん? 俺の顔になんかついてるのか?」

 するとライオン丸が表情を綻ばせる。

「アンタ、強えな。兄貴って呼んでいいかい?」

「な、なんだ? 急にどうした」

 ズッコケる俺に対して、なぜかメロスが握手を求めてくる。

「ライオン丸を許してくれてありがとうッス。アンタ、いい人だな。その気になれば秒殺できたのに」


 どういうロジックか知らないが、彼等は俺達を敵ではなく良い人と認定したようだ。

 なんか勘違いしているようだけど、まあ結果オーライ。


「敵よばわりして申し訳なかったッス。勘弁して欲しいッス、兄貴!」

「まあ、兄貴ってガラではないけど、町まで案内してくれるならいいよ」

 メロスが嬉しそうに敬礼する。

「よろこんで! KKKへようこそ!」


 どうやら揉め事にならずに済んだ。

 とりあえず、メロスとライオン丸の案内でKKKの町に向かうことになった。


 左手は崖、右手は山。小石混じりのゴツゴツした山道を行く。

 メロスとライオン丸は仲良く徒歩。俺達はユニコーン馬車でのんびりと着いていく。


 しばらく右カーブが続いたところで、進行方向に緑と青が見え始めた。

 山道が下りに差し掛かる頃には、広大な森を見下ろす形で一望することができた。

 その真ん中に大きな町が見える。


 ガタゴト進むにつれて町の全容が徐々に姿を現す。

 川だろうか。右方向の山から町まで続く美しい青のラインが、町の輪郭を縁取っている。

 その外郭にはモコモコの絨毯みたいな緑がどこまでも広がっている。

 ここからだと平たんに見える森の表面は、太陽の光と雲の影を緑の濃淡として映している。


 その光景に師匠が感嘆する。

「凄いわ……」

 綺麗な町だ。それは、自然の川を堀にして、ぽつんと緑に埋め尽くされた大地に収まっている。

「あれがKKKか……」

 まるで砂漠のオアシスのような存在感だ。


 ビッチが荷台から身を乗り出してミルクの肩を叩く。

「みてみて! お城だヨ! あっちはスタジアム? それから……あれってまさか!?」

 身を乗り出しすぎてパンツが丸見えになっているのも気にせず、ビッチが興奮している。

「嘘でショ? 遊園地じゃなぁい? きゃああ♪」


「え? ホントに?」と、師匠まで荷台の前方に移動する。

「絶対そうだヨ! アレって絶対ジェットコースターだもん」

「ホントだ。観覧車もあるわ!」

「ヒュポォイ♪」

 女組は随分とテンションが上がっている。


 馬車に並ぶ形で歩く2人に尋ねた。

「なあ、本当に遊園地なんてあるのか?」

 メロスは得意げに頷く。

「もちろんッス。コロシアムもあるし、飛行モンスターのレース場だってあるッス」

 ライオン丸が相槌をうつ。

「そうそう。デパートもあるし、市場も交易所も充実してる。それから夜は夜で……」

 なぜか俺の顔を見てニヤニヤするライオン丸。


「夜がどうした?」

「きっと兄貴も満足すると思いやすぜ? いい娘が一杯ですぜ?」

「え? そんなモンまであんのか」

 いわゆる夜のお店というやつか。


 デッシュが鼻の下を伸ばして惚《ほう》ける。

「ほほぅ、そいつは楽しみでしゅねぇ。人の集まるところに性欲あり、でしゅよ」

 俺だって全く興味が無いわけではない。

 ただ、クソ真面目な師匠が許すはずもない。

「デッシュ。そんなトコに行ったら師匠にぶん殴られるぞ?」


「ヘケケ。女どもは遊園地とか買い物に夢中になるでしゅ。その隙にボクチン達は男同士、楽しむことにするでしゅよ」

「なるほど、別行動か」


 夢の国、川崎。欲望を満たす為のコンテンツが詰まった夢のような町。


「川崎、最高かよ!」

 なんだかワクワクしてきたぞ♪


     *     *     *


 見て回るところは一杯あった。ありすぎて時間が幾らあっても足りない。

 なんならここに長期滞在したいぐらいだ。


 遊園地ではしゃぎまわる師匠達をみていると、ふと胸がキュッと痛んだ。

 そしてルサの顔を思い浮かべた。


 ルサを連れて来たら喜ぶだろうな……。

 自然とそんな考えが浮かんだことに自分自身、驚いた。


 そのせいで遊園地は余り楽しめなかった。

 まるでガキの頃に、突然飽きてしまった遊びに周りの友達が夢中になっているのを冷めた目で見ているような感覚だ……。


 デッシュは早く別行動を取りたくて、ずっとソワソワしている。

 そんなにエッチな場所に行きたければ独りで行けばいいのに。


 師匠は子供のようにはしゃいでいる。ミルクとビッチもウキウキだ。

 幾つもアトラクションをはしごして、気に入ったものは何度も乗る。

 アイスを舐めたり、ポッポコーンを食べたり、よく体力が続くなと感心する。


 やがて園内がオレンジ色の空気に満たされ、夜へのバトンタッチが密かに行われた。


 夕食も取らずに師匠達は全力で遊び続けた。

 むしろ夜になってからの方が元気が良いようにみえる。

 どうやらイルミネーションは、女の子のテンションを上げる効果があるらしい。


 いつの間にかデッシュが消えていた。

 まあ、もともとデッシュの存在なんて誰も気にしないところに加えて、遊園地の虜《とりこ》になっている師匠達が気にするはずもない。

 今頃は夜の街を満喫していることだろう。デッシュの中身は中年だし。


 なんとなく皆のテンションについていけない。 

 なるべく人の居ないところに行きたくなって、イルミネーションから逃れるように暗い場所を求めて歩いた。

 ぼんやりしていたせいか、気付くと周りに誰も居ない。

 どうやら昼の部しか開いていないアトラクションのゾーンに来てしまったらしい。


「まあ、静かでいいや」

 手頃なベンチを見つけて腰を下ろす。そして考え事をしているうちに眠くなってしまった。


 隣に人の気配を察知して、ガバっと起きた。

「わっ! あれ?」

 ベンチに並んで座っていたのはビッチだった。


「ン?」と、ビッチが俺の顔を見る。

「なんだ。師匠達と一緒じゃなかったのか?」

「あ~ ミルクちゃんが眠そうだったから泊るところ探しにいったヨ」

「そっか」

「ウン。師匠もさすがに疲れたみたいだったし、一緒に寝るってサ」


「オッサンは? 今日は見てないな」

「オジサン、今日は来ないってサ」

 オッサンがアクセスしてこないということは、ルサにも会えない。

「そっか……」

 ガッカリしている自分に違和感を覚える。


「ネ? どうしたの?」

「え? いや。何でも……」

 ビッチが顔を近づけてくる。

「熱があるワケじゃないよネ?」

 そう言ってビッチは、いきなりおでこを俺の額に押し付けた。

「お、おい。近いって」

 ビッチの顏が迫る。反射的に目を瞑ってしまう。

 すると唇に不意の温もりを感じた。

 それが押し付けられる。


「え?」

 目を開けると、目を閉じたビッチの顏があった。

「おま、何を……」


 少し顔を離して、じっと見る。

 ビッチが目を開ける。そして上目遣いで唇を見せつける。さっきの不意打ちはそれか……。


「二人っきりになるなんて珍しいネ」

「そ、そっか? いや、そうかもな」


 ドキドキが止まらない。困惑している自分。理由を探すが、何も思い浮かばない。

 なんでビッチは唇を押し付けてきたんだ?


 ビッチはモジモジしながら足元に目をやっている。

 急に変なことするから何をしゃべっていいか分からない。


「ホラ。あれ」と、ビッミが無人のアトラクションを指差した。

「あれか? ビッグ&スモールってアトラクションだな」

 看板を見ながら俺が答えると、ビッチが無言で小さく頷く。


 昼間、一回入ったかもしれない。確か、バカでかい家具の部屋やミニチュアの町の部屋が幾つか用意されていて、巨人になったり小人になったりを体験できるものだった。

「入りたいのか? けど、夜はやってないみたいだぞ?」


 するとビッチは頬を赤らめながら、俺に向き直った。

「ネ、入ろう?」

「いや。だから誰も……」

 俺の言葉はビッチの人差し指に留められた。


 また、近距離で目が合う。

 そして、彼女の口元に目を奪われる。


 ビッチは妖艶な目つきで口を開いた。

「ネ。エッチしよ?」


「は!? おま、何言ってんだ?」

「そのために頑張ってクラフトしたんだヨ?」

「クラフト?」

 思い出した! デッシュの頭に開いた穴を塞ぐために訪れたイベント。

「お前、そんなことしてたのかよ……」

「そんなコト?」

 ビッチの表情が曇る。

「誰のタメだと思ってンの?」


 どう反応して良いのか分からない。何を言っても地雷を踏みそうで怖い。


 そして散々迷って出た言葉が……。

「いや、ちょっと無理……かな」


「なにヨ! 女の子にこんなこと言わせておいて!」

「あ、ごめん。それはホントに悪いと思う」

「どうせ、他の子のこと考えてたンでしょ!」

 

 ビッチはプイと横を向く。そしてベンチから立ち上がり、歩き出した。

 それも不機嫌そうに無言で……。

 それは女の子特有の怒ってますよ、察してよアピールのように感じられた。女子が良くやるやつだ。


 なんでこうなった?

 なぜ、なぜ、なぜ? 

 どう答えれば良かったのか? てか、チャンスだったのに?

 頭の中がグルグルする。混乱したままビッチの後を追う。


 その時、遠くの方でサイレンが鳴りだした。

「……サイレン?」

 その音は止むどころか次第に大きくなった。

「ネ、なんかうるさいンだけど何?」

「分からねえ。何かの警報かもしれない。行ってみよう」


 人が居そうな方向に進む。すると遠くから爆発音が立て続けに聞こえてきた。

「アラ? 遊園地の花火カナ?」

「違うような気がする」

 明らかに花火ではない。花火ならもっと乾いた破裂音のはずだ。


 いつの間にか遊園地の営業時間は終わっていた。

 無人の園内を突っ切り、外に出て町の中心部へと向かう。


『ズドーン!』『バリバリバリ!』

 所々でそんな音が鳴り響く。時折、悲鳴やら怒号が発生している。


 サイレンに加えて街灯に設置された拡声器から緊迫した放送が流れてきた。

『戦える人は戦ってください! なお、避難を要する方は速やかにシェルターへ向かってください!』


「聞いたかビッチ。なんか物騒なことになってんぞ」

「ウン。なんかヤバそうネ」


 町の中心部と思われる大きな公園に向かうと、爆発音や歓声が一層、大きくなった。


「げ! 凄え数だ!」

 広大な敷地の中央公園には、おそらく数百名を超える人達が合戦の最中だった。


「どういうことだ? 内戦? いや、あの放送からすると……攻められているのか!」

「エ? 襲撃なの? あんなに一杯?」

「おそらく、大軍がここに攻め入ってきたんだろ。メロスが敵って言ってた連中かもしれない」

 となると防戦してるのはKKKの人達だ。


「ネ。加勢した方が良くない? お世話になってるンだから、川崎を守ろうヨ」

「ああ。けど、敵味方入り乱れての乱戦となると、ビッチの魔法は使えないな」


 公園内のあらゆる場所で乱戦が繰り広げられている。

 剣や魔法による凌ぎ合いが、あっちこっちで続いている。

「面倒だけど個別撃破しかないな」

「そうだネ。たぶん、兵隊さんみたいな人達が敵なんだヨ」


 確かに戦闘に参加している連中の半分以上は兵士のようだ。

 軍服が概ね統一されているところを見ると、ある程度、組織化されているのだろう。


「ビッチ、独りで大丈夫か?」

「平気だヨ」

「よし。じゃあ、行くぞ!」


 剣を抜いて突撃する。川崎を守るために!



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