58. 追跡! 地下世界
デッシュの雷魔法は、こけおどしどころか相手の神兵を怒らせてしまった。
神兵が剣を抜いてデッシュに斬りかかる。
「ふざけやがって!」
青ざめたデッシュがUターンする。
「あばばば! 交代! 交代でしゅ!」
だが、神兵の剣先が『ザクリ』とデッシュの脳天にめり込んだ。
そこでミカポンが「えい♪」と、ひと声。神兵の手から剣が『ぽふん』と、消失した。
「ん? 剣が消えた?」と、戸惑う神兵。
「それならミカポンが盗ったよ? ミッ♪」
デッシュが頭を擦りながら文句を言う。
「痛っいでしゅ……どうせなら当たる前に盗むでしゅよ。このバカ女」
「ミ? アンタが鈍いだけでしょ」
「やっちまえ!」と、残る2人の神兵達が同時に斬りかかってくる。
「しょうがねえなぁ」
選手交代。あんまり気乗りはしないが軽めの会心連撃。
『ズバズバズバ』
「グゴッ!」「ウゴッ!」「ホゴッ?」
3体の神兵はあっけなく昇天する。
神兵が背にしていた扉を開けると、そこは部屋ではなく通路になっていた。
「さっさと追うぞ。ほれ」
邪魔者を排除したと思ったのも束の間、今度は一本道の前方に巨大な盾を構えた神兵が行く手を塞いでいる。
「盾使いか。面倒なんだよな」
まあ、会心で盾ごと斬り捨てるだけだが。
「ミッ♪ ここは任せるピョン♪ 盾が邪魔なら盗っちゃうよ!」
『ポフン』と、神兵の盾が消失する。
盾を失った神兵は唖然としている。
「悪ぃな。会心!」
『ズバズバズバ』
可哀そうに。盾の防御力に依存しているのに、その盾を奪われてはひとたまりもない。
ダメージ表示は『9999』だが、実際はその何倍もダメージを負ったことだろう。
消えゆく神兵いをしり目に、俺達はさらに通路を進む。
細い通路は、段々下がっているように思えた。
教会から続く隠し通路。どうやら地下に向かっているらしい。
「この先がやけに明るいな。どこかに出るみたいだぞ」
通路を抜けたところ……てっきり隠れ家みたいな地下の小空間を想像していた。
「ちょっと待て! なんだこれは?」
通路の先は教会の地下室だろうと予想していた。
だが、そんなちゃちなものではない。まるで地下帝国のよう巨大な空間がそこにあった。
「地下、じゃないのか?」
デッシュが唸る。
「地下でしゅが……異常な広さでしゅね」
高さも相当なものだ。だが、見上げると空は見えない。
ほんのりと明るい灰色と茶色が混在した空は、天井のようにも見える。
しかも、鍾乳洞のような突起物が無数に生えている。
ということは、やはり、ここは地下空間なのだろう。
ミカポンが巨大な地下空間の中央部分を指さして喜ぶ。
「ミ! 凄ぉい♪ ピラミッドだよ!」
平べったい四角錐のそれは、低層の建物が密集する地下帝国の真ん中に鎮座している。
「あばば、ピラミッドでしゅね。よく地下にこんなものを……」
「ああ。こいつら暇なんかな?」
わざわざ地下をくり抜いて作った地下帝国。こんなものを地下に隠しているとは驚きだ。
だが、圧倒されている場合ではない。
デッシュが断言する。
「司祭はあのピラミッドに逃げ込んだでしゅよ」
「分かった。あのピラミッドだなか」
何が潜んでいるか分からない。が、司祭に止めを刺さなければ!
このまま、大通りを真っすぐ進めば目的地までは最短距離だ。
しかし、大通りを走り抜けようとした時だった。
通りに面した無数の建物からNPCが次々と出現した。
1軒あたりから数十体。それこそ蜂の巣を突いたみたいにワラワラと湧いてくる。
その数、数百! いや、千は下らない。
「マジかよ! 凄え数だぞ」
試合後のスタジアムから人が溢れてくるのとはレベルが違う。
人の波というか「人海」が押し寄せてくる。それもひとりひとりが全力で走ってくる。
「ミ!? キモ~イ!」
「あばば! 人がゴミのようでしゅ」
通りを直進しようとした俺達は、あっという間に囲まれてしまった。
会心連撃でバッサ、バッサと斬り倒すが、NPCの人波は次々と流れ込んでくるのでキリがない。
「くそ! 追い付かねえ!」
デッシュは頭を抱えて座り込む。
「あばば! いやん、来ないでぇ!」
こいつ、現実逃避しやがった!
俺一人では捌き切れない。剣を振り続けるが、休む暇もない。
「おい! お前も戦え!」と、肘でミカポンを突く。
だが、ミカポンの能天気な返事。
「無理! ミカポンは平和主義者なのだ。ミッ♪」
こ、こいつら使えねえ!
そうこうしている間に、タックルしてきたNPCに抱きつかれて、そのまま押し倒されてしまった。
「しまった!」
俺の身体に覆い被さったNPCの上に次々とNPCが乗りかかってくる。
その数はどんどん増える。まるで崩れた人間ピラミッドの下敷きになったみたいだ。
重い! 息苦しい! 真っ暗で身動きが取れない。
隙間なく人で埋まった空間。その最下層に押し込められてしまった。
ヤバイ。これじゃ剣が触れない! 潰される……。
このまま圧死か? いや、転移者の超回復でそれは無い。
てことは、死にもせず延々とこの状態が続くということだ。
「ぐええ……地獄だ」
どれぐらいのNPCが俺の上に乗っているんだろ? 重すぎて想像もつかない。
「あばば……く、苦しいでしゅ……」
デッシュの微かな呻き声が耳に入った。近くにミカポンも居るはずだが……。
「ミィィ……もう無理ポ……」
流石にミカポンの「ミッ♪」にも力は無い。
こういう時に魔法が使えれば……。
デッシュが最後の抵抗をみせる。
「こうなったら……魔法で……吹き飛ばすでしゅ……か、カミナリ……」
無理だ! あのジジイのションベンみたいな雷魔法ではどうにもならない。
しかし、次の瞬間、目の前が「カッ!」と白くなり、ふっと圧力が消え失せた。
と同時に重力が消失して、強い浮遊感に包まれる。
『バリバリバリ!』
全身に刺すような痛みと痙攣が生じた。息が止まる。
『バリバリバリ! ズバーン!』
電撃? 爆発? 訳が分からない。
だが、俺は吹っ飛ばされた。いや、周囲がすべて吹っ飛んだ。
これは……爆弾でも落とされたかな?
「にしても痛え……てか、ビリビリする」
圧倒的な重みからは解放された。けど、その代償として全身が痺れる。
消失していく周囲のNPCを眺めながら、ゆっくりと起き上がる。
隣でヨロヨロと立ち上がったデッシュが呻く。
「痛ったいでしゅ。ボクチンの『カミナリ、どーん』はチートすぎて自爆してしまったでしゅよ」
「嘘だろ? 今の、お前の魔法なのか?」
「我ながら恐ろしいでしゅ。自分の才能が怖いでしゅ」
デッシュが格好をつけたところで、「んなワケないでショ!」と、いう突っ込み。
そんなセリフが空から降ってきた。
見上げると、建物の屋根に人の姿がある。
「あれは……」
見るとビッチが腕組みしながらこっちを見下ろしている。
「今のはアタシの雷魔法だヨ」
「ああ、やっぱりビッチの魔法か。どおりで強烈なわけだ」
ビッチの横からミルクと師匠がひょっこり顔を出す。
師匠は呆れたように言う。
「なにやってんの? 突入するの早すぎ。指示を待ちなさいよ」
かくいう師匠は仮面をつけている。
それは仮装パーティで貴婦人が着けているような、鳥の羽で縁取られた白の仮面だった。
ちょうど顔の上半分が隠れている。
「え? 師匠、何で仮面?」
「決まってるでしょ。NPCのお尋ね者にならない為よ」
「ああ、そういうことか」
そういえばそんな話をしていたのを思い出した。
NPCはネットワークを介して情報を共有している。
なので、下手に顔を覚えられると厄介なことになる。
ビッチは蝶々みたいなピンクの仮面、ミルクはアニメ風のウサギのお面を被っている。
「ムィィ」と、ウサギのお面が唸った。
隣のビッチが通訳する。
「ミルクちゃんが『待たせたな!』だってサ」
いや、助かったのは事実だけど、その子供番組的なお面で決め台詞言われてもなあ……。
3人の後ろからもう1人。
「いやはや。遅れて申し訳ございません」
「オッサンも来てんのか。けど、なんだ? それは」
「いやはや、わたくしも一応、変装を……」
オッサンは白のターバンを顔に巻いてサンングラスをかけている。
しかも、おでこに三日月のアクセサリをつけている。
「オッサンのそれは……何なんだ?」
「え!? ご存じない? これは、その、月光仮面……」
そう言われても誰も分からない。時代が違い過ぎるのだろう。
「まあいいや。で、この後どうする? 司祭はあのピラミッドに運ばれたみたいだぞ」
師匠がピラミッドの方向に顔を向けながら言う。
「あなた達は、そのままNPCに紛れて司祭を追って! 敵は私たちが引き受けるわ」
前方からはNPCの群れが第二波として押し寄せてくる。
「分かった! 奴らは任せる。行くぞ!」
「あばばば! ず、ずるいでしゅ! 師匠しゃん達だけ顔を隠すなんて! ボクチンも顔を覚えられたくないでしゅ!」
うろたえるデッシュをミカポンが冷ややかな視線で見る。
「ミ? 誰も見ないピョン。アンタみたいな不細工」
「むきーっ! このバカ女! バカバカバカのアンポンタン!」
「やめろって! モタモタしてないで行くぞ!」
デッシュが気を取り直して、NPCのフリをするための『偽装の術』を発動する。
が、NPCの証である逆さ三角錐のマークが、ミカポンだけウンコになっている。
「へけけ。あんたしゃんには、それがお似合いでしゅ」
まったく……デッシュの奴は幼稚だな。
ミカポンが民家の窓ガラスに映った自分の頭上を見てウンコマークに気付く。
「ミ! やったな! チンチクリンの癖に。それならこれで……えい!」
ミカポンが『ポフン』と盗むのスキルを使った。
するとミカポンの頭上には三角錐が、その代わりにデッシュの頭上にウンコマークがついた。
「エヘン♪ 入れ替え成功、ミッ♪」
「あばばば! な、なんてことをしやがるでしゅか!」
「お前等なあ……」
やっぱ、このチームは最低だ。
もたもたしている間にもNPCの集団が大通りになだれ込んでくる。
その数、数千! まるで人が鉄砲水のようだ。
「ムィ!」
屋根の上でミルクが、いきんだ。そして背中のカタパルトからドローンを発射する。
ドローンは一直線に飛んでいくと、NPCの群れにナパーム爆弾を炸裂させた。
『ドムッ、ドム、ドムン!』
豪快な火柱が次々とNPCを飲み込む。
「うええ、相変わらずエグい火力だな」
ミルクの攻撃を横目に俺達は迂回してピラミッドを目指す。
振り返ると、師匠が屋根から飛び降りて、敵の注意を引き付けようとしているところだった。
「来なさいよ! 私が相手よ!」
ナパーム爆撃を生き残ったNPC達が師匠めがけて突っ込んでいく。
「はいっ! やあっ!」
師匠は華麗に舞う。器用にレイピアを扱いながら、的確にNPCをなぎ倒していく。
ところが、NPCの群れは次々と大通りに面した建物から湧き出してくる。
某ゾンビゲームみたいに大群が押し寄せる。
まるで大雨の道路で雨水が排水溝に殺到するように、暴徒と化したNPC達が師匠達に向かって流れていく。
「凄い数でしゅ!」
デッシュにつられてミカポンも顔を顰める。
「ミィ……人がゴミのようだー、なんてね♪」
デッシュと同じことを言っていやがる。
「お前ら気が合うんじゃね? さっきデッシュも同じこと言ってたし」
「ミ! そんなワケないでしょ!」
「あばばば、冗談じゃないでしゅよ!」
ムキになる2人のやりとりをかき消すかのように爆音が響いた。
『ズドドドド!』
暴徒の群れを迎え撃つようにミルクのガトリングが火を噴く。
即死必至の機銃掃射が人込みを抉っていく。血しぶきとか、肉体欠損とかは無い。
ミルクの攻撃は相手を一瞬で煙に変えてしまうからだ。
ビッチの魔法も容赦ない。
炎に電撃、時々水攻め、おまけで氷や風魔法。『まるで魔法のデパートや!』状態。
しかも、どれも一発がデカい。
吹き飛ぶ、燃える、流される。刺される、切られる、潰される。
遠目には人体実験を集団で行っているようにしか見えない。
なんだかNPCが気の毒になってきた。
彼等はミルクやビッチの攻撃を辛うじてかいくぐったとしても、師匠に退治されてしまう。
まあ、あの様子だと、あっちは心配なさそうだ。
「俺達は今のうちに接近するぞ!」
俺はミカポンとデッシュを引き連れて遠回りでピラミッドを目指した。
途中、NPCの集団とすれ違ったが、偽装の術でNPCのフリをしているので簡単にスルーできた。
そして何とか戦闘を避けてピラミッドまで到達した。
「どこかに入り口があるはずだ! 探せ!」
そこでデッシュが目の能力を発揮する。
「あっちでしゅ! 司祭の反応がありましゅよ!」
デッシュは無能だが透視能力がある。
前に囚われたミルクを難なく発見したことがあるように、今回も司祭の居場所が分かるらしい。
「よし! じゃあ突入すんぞ!」
「あばばば! ちょっと待つでしゅ! ボクチンたちも変装するでしゅよ」
「そうだな。けど、顔を隠せるようなアイテムあったっけな?」
「それならボクチンのコレクションがあるでしゅ。サングラスでも仮面でも付け髭でもアクセサリは豊富でしゅよ」
そう言ってデッシュが取り出したアイテムボックスには、装飾用アクセサリがぎっしり詰まっていた。
ミカポンが乱暴に中身をポイポイ放り出しながら文句を言う。
「ミ~! センス悪~い! これ、ゴミ箱じゃないの?」
「むぎぎ! 失敬なことを言うでしゅね! アンポンタン女のくせに!」
デッシュの抗議を無視してミカポンはゴミ箱、もといアイテムボックスを物色する。
そして、ようやく納得できるものを見つけたらしい。
「ミ♪ これでいいや。ミカポンは何でも似合うのだ! ミッ♪」
そう言ってミカポンはヒマワリの花びらで縁取られたサングラスを装着した。
「くううぅ! アホでしゅか、アンタしゃんは! 目立ってどうするんでしゅか!」
「フンだ。顔が隠れてればいいのだ! ミッ♪」
ミカポンの場合は顔を隠す以前に、そのリオのカーニバルみたいな衣装を何とかした方が良いと思う。
俺はスキー用のゴーグルに黒マスクで顔を隠す。顔が隠れれば十分だ。
「完璧でしゅ!」
そう言って胸を張るデッシュを見てズッコケた。
「な、なんだ? おま、それ……」
デッシュは真っ白いラバーマスクですっぽり顔を覆っていた。
大昔の覆面レスラーというか、犬神家のスケキヨさんというか……。
「キモいぞ、デッシュ」
「はああ? 完璧でしゅよ? 絶対にボクチンとバレないでしゅ。今なら渋谷交差点の真ん中で脱糞できるような気がするでしゅ!」
「お前、流石にそれは駄目だろ……」
一応、突入の準備は整った。
「よし! 突入するぞ!」
俺が先陣を切って、ピラミッド内部に突っ込んだ。
顔さえ隠してしまえば幾ら暴れたって構わない!
「やべ、なんかテンション上がってきたぞ!」
仮面をつけて突入するとか、なんだか楽しくなってきた。




