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51. 美少女怪盗ミカポン④

 露天商に金を貸しているというヤクザは、ミカポンが盗んだアイテムを横取りすると宣言した。

 しかも、それは利子の分では元本《がんぽん》は借金としてそのまま残るという。


 その無茶な要求に師匠がキレた。

「酷すぎる! そんなの絶対に許さない!」

 パンチパーマは顎をしゃくる。

「ほお。文句あるならワシ等と勝負せいや。どや? やるんか?」

「望むところよ! バトルなら幾らでも相手してあげるわ!」


 啖呵を切った師匠に対してパンチパーマは余裕ありそうに答える。

「おうおう。随分と威勢のええ姉ちゃんやな。おもろい。ボコられても知らんぞ?」

「それはこっちのセリフよ! その代わり、私たちが勝ったらこの人の借金はチャラにしてもらうからね」

「アカン。それは出来んな」

「え……なんで?」

 師匠が戸惑う。


「当たり前やろ。借金は借金や。それとこれとは別もん。これはお宝をかけての戦いや。甘いで、姉ちゃん」

 師匠は目論見が外れて唇を噛んだ。

 けど、それは仕方がない。相手はプロだ。

 ゲームの勝ち負けで600万を簡単に諦めるはずがない。


「にしても600万は借りすぎだろ?」

 呆れて俺がそう言うと露天商が頭を掻く。

「借りたのは200万や。230万ぐらいは返したんやが……利子がな」


「は? それだけ返してまだ600万も残ってるのか? ボッタくりだろ! 過払い金請求《かばらいきんせいきゅう》しろよ」

 そこで師匠の聞き間違い。

「カピバラ君、センキュー?」

 すかさずビッチが頷く。

「カピバラ、可愛いよネ。癒してくれて、ありがとう。だネ」

「違ぇええ! 請求とサンキュウしか被ってねえ!」

 過払い金とカピバラ君は遠すぎるだろ……なんか緊張感が失せた。


 しらけた空気の中、無言で経緯を見守っていた女狩人の麻耶がズイッと前に出た。

「仕方がない。私がやる」

 慌ててミカポンも一歩前へ。

「ミ! ミカポンだって! 戦うピョン!」

 露天商はオロオロしているだけだ。もともと彼は戦闘向きではない。


 3対3でやるなら……俺が出るしかなさそうだ。

「分かったよ。じゃ、俺も入る」

 ミカポンがそれを聞いて俺の腕にしがみ付く。

「きゃいん♪ ありがと、ダーリン♪ 嬉しいピョン!」

「お、おい、くっつくなって!」

 師匠達の視線が痛い。

 それにオッパイが二の腕に押し付けられて……いかん、いかん! 


 結局、成り行きでバトルに参加することになった。

 ただ、今までとは勝手が違う。敵が強いかどうかは問題じゃない。

 ややこしいのは倒した後だ。おそらく彼等は、やられたらやられたで現実世界で露天商達に報復してくるだろう。

「うーん。困ったな……」


 考えがまとまらない間にバトルが始まってしまった。

 開始と同時に、手下の小太り男がダッシュで突っ込んできた。

 そして、『ドンッ』と、体当たりをかましてきた。


 本塁突入のクロスプレーが失敗したみたいに正面衝突になった。

「あ?」

 近接攻撃かと思いきや、ただの体当たりだって?

 

 が、遅れて痛みがやってきた。

 腹の辺りに激痛が生じる。まるで、漏らすことが約束された便意のように。

「うぐっ!」

 俺が腹を押さえて前屈みになった。


 小太りの男がそれを確認して数歩下がる。その手には小刀が握られている。

「刺されたのか?」

 ただの体当たりかと思ったが、そういう攻撃だったか!


 パンチパーマがニヤニヤしている。

「どや? よう覚えとけ。刺すんやない。体重を乗せて押し込むもんなんや」

「知るかよ。てか、覚えておくも何も、普通は死ぬだろ」


 あまりダメージを食らっていない俺の反応を見て小太りの男が「嘘やろ?」と、驚いた。

 表示されたダメージはたったの『2』! それに痛みもさっと引いた。

「ああ、痛かった。油断したぜ」

 俺は刺された箇所を撫でながら真っすぐ立つ。


 パンチパーマも流石に驚きを隠せない。

「んなアホな!? 効いてないやと? くそっ! 素人に舐められてたまるかっ!」

 そう言ってパンチパーマは日本刀を抜く。

 もう一人のチンピラは拳銃を構える。

「ミ! させないピョン!」


 そこでミカポンの『盗む』が発動した。

 非接触系の完璧に盗むスキルで彼等の武器は『ぽよん』と消失してミカポンの手にワープした。


「な、なんやと?」と、手ぶらのパンチパーマが、きょとんとする。

「嘘やろ! い、いつの間に?」と、チンピラも自分の手の平を見つめる。 

 そこでミカポンが胸を張る。

「ミ♪ 武器は使わせないピョン!」

 ミカポンの手には日本刀と拳銃。


 パンチパーマが状況を理解して歯ぎしりする。

「クソが! どういうカラクリか知らへんけど、やめへんで!」

「ミ♪ 無駄だよん♪ 別な武器、出しても全部、盗っちゃうピョン」


 なるほど。ミカポンの盗むは、そういう使い方ができるんだ。

 敵の攻撃手段を片っ端から奪って、攻撃力を下げる。

 ついでに防具も盗んでしまえば、防御力ダウンも狙える。

「これであっちの攻撃力は下がったな。やるじゃねえか!」

 俺に褒められてミカポンが、ぴょこんと飛び上がる。

 まるで幼い子供が喜びを表現するみたいで可愛い。


 ところが、油断したところを『ガスッ!』と、殴られた。

 いつの間にか接近してきたパンチパーマの拳が俺の顔面に食い込む。

「いでっ!」

 続いて右の脇腹に『ズボッ!』と、ボディブローを食らった。

「うぐっ!」


 さらに膝蹴り、アッパー、肘打ちと連続攻撃を食らってしまった。

 しかも一撃がやたらと重い。身体が変な風に歪む。

 無意識に出る防御姿勢ぐらいでは喧嘩慣れしている人間の攻撃は凌げない。


 そこからは袋叩きだ。奴等3人で俺を集中攻撃してきやがる!

「ヤクザ、なめんなよ!」

「ワシら、これで飯食うとるんや!」

「素手でぶっ殺したるわい!」

 武器を奪われたといっても結構な攻撃力だ。こいつら、素手でも十分に強い!


 受けるダメージの痛みは少なくない。が、数値としては一桁前半かゼロの表示に過ぎない。

 リンチされながら考えた。

 いい加減、反撃してもいいよな?


 そこで俺は、窮屈なまま軽く剣を振った。

「会心!」

 潰されながらの攻撃なので、奴らの足元を小さく斬る形になった。


『ズパズパ!』

「ぐがっ!」「ごあっ!」

 同時に悲鳴を上げた手下の2人が動きを止めた。

 与ダメージ表示は『9999』だ。しかし、それ以上のダメージが入っていると思われた。


 さすがのパンチパーマも攻撃の手を止めて、信じられないといった表情で俺を見た。

 手下2人はもちろん、そのままゲーム・オーバーだ。


 ひとり残されたパンチパーマが俺を睨む。

「くそっ! 一撃やと!? なんでそんなに強いんや!」


 そこで前から使ってみたかった関西弁を口にする。

「知らんがな」


 パンチパーマが腕組みして吐き捨てる。

「もうええわ。早よ殺れや。その代わり覚えとけよ! 現実世界に戻ったら容赦せえへんからな! 慰謝料も貰うで!」


 このまま斬り捨てるという手もあるが、それでは解決にはならない。


 俺は剣を収めた。

「ちょっと待った。取引だ」

「なんやと? 取引って何や? 条件、言うてみい」

「こいつの借金600万円。チャラにしてやってくれ」

「なんやて!? 寝言こくなや! それはアカン言うたやろ!」


 俺には考えがあった。というか咄嗟に出たアイデアだ。

「嫌ならいいよ。その代わり、おたくのシノギ。このゲーム内に拠点が幾つもあるんだろ? それ全部、潰すから」

「な!? そ、そないなこと……やらせるわけないやろ!」

「俺の力、さっき見ただろ? このゲーム内じゃ最強なんだな。せっかくのシノギが全滅したらどれだけの損失になるか知らないよ?」


「あ、アホ抜かせ! そないな脅しにビビるかい! 現実世界に戻ったらお前ら……」

「俺の身元は知らないだろ? 言っとくけど現実世界でやり返すのは不可能だよ」

「ギギギ……」

「そっちが約束を守れば、俺もおたくらのシノギには手を出さない。それでOK?」

「くそっ……分かったわい」

 交渉成立。なので、止めは刺さずにバトルも中断してやった。


 パンチパーマがブツブツ言いながらログアウトするのを見守ってから、露天商に声を掛ける。

「リアルに戻ったら、さっさと手続き済ませておけよ。どうせ、違法な利息なんだろ。しかるべきところに相談すればいいのに。てか、金を借りる相手ぐらい選べよ」


「あ、ああ、せやな。すまん。すまんかった。ありがとな」

「もし、奴等が約束を守らなかったら俺に言ってこい。心底、後悔させてやっから」

 そう言ってみたものの、ゲームの中で良かった。これが現実世界だったら、こんなに上手くいかなっただろう。チビってたかもしれない。


「そうだ。師匠、アレあるか? アタタタ・ドラゴンの肝《きも》なんとか」

「え? ああ、アルティメット・ドラゴンの活性肝《かっせいたん》ね」

 そのやりとりを聞いてデッシュが驚く。

「あばば、なんで通じるでしゅか。耳が悪いと逆に間違いを補正するんでしゅかね?」


 他にも適当なレア・アイテムを師匠に見繕って貰い、露天商にあげた。

「俺達には不要だからやるよ。売って借金の足しにしろ」

「ほんまに、ええのんか?」

「いいよ、別に。それから、ゲームの運営会社に連絡すれば入院代は負担してくれるだろ」

「重ね重ね申し訳ない。ほんま、感謝するで」


 ふと、ミカポンと目が合った。

 ミカポンが「カコイイ(はぁと)」と呟いた。

 と、次の瞬間、俺に飛びついてきた。

「素敵! 抱いて!」


 ミカポンは両腕を俺の首に回して身体を押し付けてくる。

 そして、思い切りチュウを迫ってきた。

「ちょ、おまっ……」


 ぶちゅうぅううう……


 唇が塞がれて、頭に血が上った。

 振りほどく気力なんて無い。ただ、なすがままにミカポンのキスを受け入れるしかなかった。


「なっ!?」と、いう声は師匠?

「なにソレ?」は、ビッチだ。

「ムィィ?」と、ミルクの唸り声。


 ヤバイ。てか、みんなの前で何てことを……。


 ようやく落ち着いてきたところで、ミカポンを押し戻す。

「あ、あふっ、てか、お前……」

 今更ながら息苦しさに気付く。どんだけ強く唇を押し付けてきやがったんだよ。


 恐る恐る、師匠達の方を見る。


 目を吊り上げた師匠と目が合う。

 その隣のビッチは般若の顔。

 ミルクは頬を膨らませて不機嫌そう。

 デッシュは他人事のように口笛を吹いている。


 気まずい。超、気まずい。

 見られて恥ずかしいよりも、とんでもないところを見られてしまったという焦り。

 背中に嫌な汗をかいている。


 ミカポンは俺の首に手を回したまま、勝ち誇ったような顔で師匠達に顔を向ける。

「ミ? どうしたピョン? ひょっとしてジェラシー?」


 ミカポンの挑発に師匠が真っ赤になる。

「だ、誰がジェラシーなんて! 違うんだからねっ!」

 ビッチは何ともいえない恨めしそうな目でこっちを見ていたが、プイと顔をそむける。

「ムィィ……」と、ミルクは、お気に入りのおもちゃを横取りされた幼女の反応だ。


 ミカポンは余裕ありそうに師匠達に向かってウィンクする。

「ミッ♪ 好きなら態度で示さないとね? ミカポン、盗るのは得意なのだ。」


 何という雰囲気……俺にはどうすることも出来なかった。


 露天商は気まずい空気を察してミカポンを促す。

「ほ、ほな、サイナラ。行くで、ミカ!」

 狩人の麻耶も察したようで、一礼して「行くよ」と、ミカポンの手を強く引く。


 2人がミカポンを引き離してくれたおかげで俺は解放された。

 が、師匠達の視線を痛いほど感じる。


 露天商達が徒歩で北に向かうのを黙って見送る俺達。

 ミカポンはいつまでも手を振っている。

「ミミッ♪ 絶対、会いに行くからねぇ~ダーリン♪」


 困ったことにフラグを立てられてしまった。フレンド登録でアクセスが可能に……。

 これでは、いつ襲撃されるか分からない。

 その度にこんな気まずい空気になるのは困る。パーティ崩壊の危機だ!


 ミカポン達の姿が見えなくなったところで、恐る恐る師匠に声を掛ける。

「師匠、そろそろ俺達も……」


「うるさい! 話しかけないで!」

 師匠はプイと顔を背ける。

「え、いや、だからさっきのは……」

「黙りなさい。今、口を開いたら張り倒すわよ」


 ダメだ。今の師匠に何を言っても無駄だ。

 諦めてビッチに話し掛ける。

「ビッチ、次はどこに向かうんだ?」

 ところが、ビッチは完全無視を決め込んでいる。

 まるで俺の言葉など聞こえていないといった風に知らん顔だ。


 ミルクも同じようなもので、俺が頭を撫でようとしたらスッと避けてしまった。


 助けを求めてデッシュに話を振ろうとしたが、デッシュは冷たい目で避難する。

「フン。いい気味でしゅ。自分だけおいしいところを持っていくからでしゅよ」

 なんてこった……デッシュにまで見放されるなんて……。


 結局、その日は夜まで誰も口をきいてくれなかった。


 なりゆきとはいえ、人助けをしただけなのに。

 なんなんだ? この仕打ちは!

 いまひとつ納得しかねたが、俺達の旅は続く。


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