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49. 美少女怪盗ミカポン②

 建物内の敵を超遠距離からのヘッド・ショットで倒す技術。

 障害物をガン無視した貫通力もさることながら、透視もできるとは驚きだ。

「信じられねえスキルだな」


 師匠が苦笑いを浮かべる。

「まあ、転移者でしょうね……」

「師匠、てことは、転移者はあのイカレた女じゃなくて、その相棒だってことか?」

「そうなるわね」


 そこに露店商が口を挟む。

「いいや。ミカポンも転移者や。間違いないで!」

「は? あいつが? 今のところ何のスキルも発揮していないけどな」


 師匠がジト目で露天商を睨む。

「あなた、やけに詳しいわね。ひょっとして、知り合い?」

 師匠の質問に露天商が慌てる。

「い、いや! ちゃうで! 怪盗と知り合いとか、色々まずいやんけ」

 何だろう。その妙なリアクションは……怪しい。


 舞台の前ではデッシュがミカポンと言い争いを続けている。

「ブスで金の亡者とか最悪でしゅ! そんなに整形のお金が必要なんでしゅか?」

「ミ! うっさいハゲ! そっちこそリアルもハゲなんでしょ? やーい」

「うるさいでしゅ! 好きでハゲてるんじゃないでしゅ!」

「ミ♪ ハゲは甘えだピョン!」

 

 そして、ミカポンの視線が、一瞬、デッシュから逸れた。

 その視線の先を目で追うが、露天商が突っ立っているだけだ。


 ミカポンは「あっ」という表情を見せてデッシュに向き直る。

「もうおしまい! ミカポンは去るのだ。ミッ♪」

「あ! 逃げるでしゅか!?」


 ミカポンが舞台の右手に向かって急に走り出した。


「俺達も一応、追ったほうがいいのかな?」

 師匠が、やれやれといった風に首をすくめる。

「仕方ないわね」


 俺達は、舞台袖に姿を消したミカポンを追い掛けた。

 が、あまり気合は入らない。


 ミカポンの逃げ足はさほど早くはない。それに、彼女の背中にはでっかいクジャクの羽がついていて、それが前方で揺れている。

 派手な後ろ姿を視認しながら、チンタラ後をついていく。

「やっぱ、あいつアホだな。あれじゃ見失いようが無い」

 自ら追跡を容易にしてしまうコスチュームは怪盗としては致命的だ。


 ゆるい追いかけっこだ。

 ミカポンはお尻フリフリ、羽をワサワサさせながら階段を上る。

 やる気のない俺達は、ウーミングアップ程度の駆け足でチンタラついていく。

 追い付かない程度の追跡。まるでアニメにありがちな出来レースだ。


 しばらくして屋上に出た。

 何も無い屋上では隠れる場所もない。

 というか、そもそもミカポンは隠れるような格好をしていない。


 逃げるのを止めてミカポンが振り返る。

「ミ! しつこいなぁ。邪魔するとバキュンするぞ♪」

 そう言ってミカポンが指のピストルで撃つマネをする。

『ヒュン』

 左から何かが目の前を過った。空気を切る音を伴って。

「うわっ! 何か飛んできた?」

 

 左方向に目を移す。だが、湖畔までの距離は相当ある。ここからでは緑しか見えない。

「マジであそこから撃ってきたのか!?」

 師匠が何かが飛んできた方向を睨む。

「銃弾じゃないわね。弓矢かしら」

「嘘だろ? 弓矢の射程じゃねえよ!」

「普通……ならね」

 やはり撃ってきた奴は転移者に違いない。

 

 ミカポンが腕組みしながらフン、と鼻を鳴らす。

「ミ! 今のは警告だピョン。今度はオツムに穴が開くよ? ミッ♪」


 ようやく追いついてきたデッシュが怒鳴る。

「ミーミー、ミーミー、あんたシャンは蝉《せみ》でしゅか!」

「ミ? またアンタ? チンチクリンのカッパ小僧には言われたくないピョン!」

「はあ? イカレポンチのバカ女が何を言うでしゅか?」

「ミ? 誰がイカレてるって?」

「そのダッサい格好でしゅよ? まるで宝塚の出来損ないでしゅ」 


 ミカポンがデッシュと低レベルな言い合いをしている間に、師匠が耳打ちしてきた。

「飛んでくる方向は分かってるけど気を付けてね。転移者の身体に傷をつけられる攻撃よ」

「ああ。デッシュの穴だろ? 当たってしまうと回復しない攻撃のようだな」

 ミカポンと対峙するデッシュの頭部には、ぽっかり穴が開いたままだ。


 師匠が警戒する。

「転移者を倒すほどの火力は無いみたいだけど、身体の一部を削ることはできるみたいね」

「おう。せいぜい気を付けるさ。指先の動きには注意する」

「指を向けられたら直ぐに避けてね」

「了解。タイミングを見計らって飛び退くようにする」

「とにかく、彼女を説得してね。戦うことが目的じゃないんだから」

「分かってるよ。とりあえず、やってみる」


 師匠との打ち合わせが終わったところで、小学生のような言い合いをしている2人の間に入る。

「ストップ! ストップ! まあ、落ち着け、お前等」


 ミカポンとデッシュの争いがピタリと止まる。


 ミカポンの厳しい視線を受け止めながら切り出す。

「お前が何を盗もうが知ったことじゃない。用があるのはお前とお前の仲間だ」


 ミカポンは拍子抜けした顔で言う。

「ミ? ウチと摩耶《まや》に用があんの?」

「そうだ。転移者だから。俺達と同じ」


 俺の言葉にミカポンが目を丸くする。

「ミ? ホント? アンタ達、転移者なん?」

 ミカポンは目を丸くして、しげしげと俺のことを眺める。

「ああ。俺達も転移者だ」


「ミ♪ そうなんだ。けど、待って! ひょっとして、その下品なカッパ小僧も転移者?」

 ミカポンが心底嫌そうな顔をする。

「あばば、だ、誰が下品なカッパ小僧でしゅか! ノータリンの腐れ女のくせに!」

「デッシュ、止めろって! 話が進まないだろ! で、お前も仲間のスナイパーも転移者なんだよな?」

「そうだよ♪ ミッ」

 ミカポンはあっさりと認める。

 露天商の言った通りではあるが、正直、俺は半信半疑だ。


「マジかよ……なんか、同類だと思われたくないな。ただの泥棒にしか見えねえ」

「ミ~? 失礼だピョン! それってドラムの人に向かって鼓笛隊って言うのと同じくらい失礼だピョン! プンッ」

 なんだ、その例えは?


 戸惑いながら尋ねる。

「だったら、その、証拠というか、転移者ならホラ。何かあんだろ?」

「ミ? あるって何が?」

「だ・か・ら! 特殊な能力があるんじゃねえのか? 転移生者なら凄えスキルがあるだろ」


「ミ? ああ、それならあるよ。ホラ♪」

 ミカポンはそう言って、すっと腕を上げた。

 その手の平から『ポヨン』と小さな煙が出て、何もない空間から出現した剣が彼女の右手に収まった。


 まるでマジックだ。

 けど、その剣、なんだか見たことがあるような……。

「え!? おまっ、それ! 俺の剣じゃねえか!? いつの間に?」


 背中に手を伸ばすがあるはずのミスリルソードが無い。

「ミ♪ ミカポンが盗ったピョン」

「ど、どうやって盗った? 全然、気付かなかったぞ」

 というか接触すらしていない。

「ミミッ♪ それが、イメージしたら盗れちゃうんだな。ミッ♪」


 師匠が呆れたように言う。

「まったく接触しないで盗めるの? 信じられないスキルだわ」


 物理的に接触しなくても確実に盗めるスキル。

 ミカポンは胸を張る。

「ミ♪ なんでも盗めるピョン。モンスターの素材も楽勝。戦わなくても盗めるんだよ♪ 視界に入るものなら何でもオーケー、ミッ♪」


 ちょっと待て。

 そういう、ぶっ壊れた『盗む』のスキルがあるなら、なんでオークション荒らしみたいな真似をする必要があるんだ?

 剣を返して貰いながら思ったことを口にする。

「だったら、こっそり盗めば良くないか? わざわざ予告して盗みを行う意味が分からない」


「ミィィ。そ、それは……ちょびっと事情が……あのね。なんていうか、あれ? 言っちゃまずいのかな?」と、ミカポンの歯切れが悪い。


 そこにドヤドヤと屋上に人が上がってきた。

 その中には、ミルクとビッチ、露天商やオークションの主催者の姿があった。


 ミカポンがそれを見て慌てる。

「ミ、とにかく、予告通りお宝は頂いたわ。ばいちゃ!」

 なんだか棒読みのようなセリフだが、彼女が指をパチンと鳴らすと、それを合図に飛竜が滑空してきた。


 大きな翼の青い飛竜はギリギリまで下りてきて、建物に接近する。

 ミカポンは建物のヘリにダッシュして移動すると、ひょいと屋上から飛び降りた。

 ちょうど、そこに飛竜が通過して、ミカポンを拾い上げる。


 結局、ミカポンは飛竜に飛び乗った形で、あっという間に去っていった。

 彼女の通過した後には、彼女の背中から抜け落ちた羽根だけが数枚、ヒラヒラと置き去りにされた。


 屋上では野次馬がオークションの品が奪われたと大騒ぎする中で、主催者と露天商がヒソヒソ話をしている。

 なんか怪しいと思って、こっそり奴等の背後に回った。


 主催者がオロオロしながら露天商に尋ねる。

「おいおい。本当に持っていくのかね?」

「心配おまへん。アリバイ作りや。保険会社の奴も見てるやろうからな」

「ほ、本当に戻ってくるんだろうな?」

「大丈夫やって。信用してや。それよか支払い、早う頼むで」

「分かっている。保険金が入ったらすぐに払う」


 こいつら、何の話をしているんだ? 

 俺が2人の話に聞き耳を立てているそばで、オークション客がスタッフに詰め寄っている。

「なんで返金できないんだよ? おかしいだろ!」

「と、申されても既に決済は済んでおります」

「アイテムが手元に無いんだぞ? あんたらには引き渡しの義務があんだろ!」

「ですが、約款《やっかん》では決済と同時に所有権と危険負担はお客様に移転しております。したがいまして、決済後に盗難があったとしても、当方には賠償の責任はございません」


 客とスタッフの押し問答に、神経質そうな眼鏡の男が割り込む。

「ほ、保険は? 盗難保険に入っているんだろ? だったら二重取りじゃないか!」

「仕方がありません。そういう規約ですから! それに、保険会社と弊社の契約はお客様には一切関係のないことですので!」

 必死に言い訳するスタッフを複数の客が取り囲み、吊るし上げる。

 中にはNPCも混じっている。


「あれ? NPCもオークションやんのか?」

 俺の疑問に師匠が答える。

「それだけ貴重なアイテムなんじゃない?」

「NPCにも物欲があるんだな……」

 屋上の一角は客と主催者側スタッフの揉み合いで大変な騒ぎだ。


 露天商と話し込む主催者は、その様子を横目に口元が緩んでいる。

 露天商も心なしか顔がニヤけている。

「あんさんもワルどすなぁ。一石二鳥というか三鳥とか、よくばりでんな」

「そういうおたくもボロ儲けなのでは?」

「いやいやいや。金はなんぼあっても困りまへん」


 なるほど。話が読めてきた。つまり、狂言ってわけだ。


 おそらくミカポンは露天商達とグルだ。

 主催者がオークションで売買を成立させたのを見計らってミカポンがごっそりそれを盗む。

 だが、保険をかけているので保険金が下りる。

 おまけに決済後の盗難ということで落札者に代金は返さない。

 さらに露天商経由でミカポンからアイテムを後でこっそり返して貰う。

 だから一石三鳥というわけだ。


 つまり、俺達は利用されたわけだ。

 少しムッとしたので露天商の肩を強めにポンポンした。

「ほーん。つまり、マッチ・ポンプってことか?」


 ぎょっとして露天商が振り返る。

「え? あ、おったんか? いや、その……」

「ミカポンはアンタの仲間なんだろ?」

「う! いや、し、知らんで。なんのことやら……」

「そっか。じゃあ、俺達は、あいつを追うことにする。でもってボコる。アイテムも回収するよ」

「な、なんやて?」

「俺達を警備に引き入れたのはアンタだろ? 盗まれた品を取り返すのも任務の一環だ」

 主催者の男が情けない顔をして言う。

「い、いや、それほど無理なさらずとも……」


 読めた。

「フン。どうせ、強力な助っ人が居るから大丈夫って、保険屋を安心させたんだろ? 盗まれるリスクが高いと保険屋は受けてくれないからな」

 俺の指摘が図星だったのか、主催者と露天商はバツが悪そうに顔を見合わせる。


「よし! 師匠! 追いかけるぞ」

 と、宣言したもののアシが無い。水竜では飛竜には追い付けない。

 すると、客の一人が「そういうことでしたら、飛竜を提供します!」と、申し出があった。

「お願いします! あのふざけた怪盗を倒してください」

「俺達のアイテムを取り返してくれ!」


 客達の声援を受け、俺達は飛竜を借りてミカポンを追うことになった。


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