45. ランカーとの死闘
俺達はデッシュの導きで真っ直ぐにミルクの居る場所に向かった。
ミルクが囚われているビルは、この辺りでも際立って大きかった。
コンクリートはところどころ豪快に崩れていて、飛び出した鉄骨は折れ曲がって錆びついている。
まるで遠い昔に廃棄された集合団地のようだ。
周囲に人影はない。
しんと静まり返った廃墟の中を俺達は進んだ。
そして壁をすべて取っ払った広いスペースに出た。
もとはアパートかマンションだったものを強引に壁や床を抜いた空間は、体育館ぐらいの広さだった。
俺達がそこに足を踏み入れると、突如、青白いスポットライトが点灯した。
「な!?」
複数の青白い光は一か所で交錯している。そして、その中心には白い幼女!
「ミルクか!?」
ミルクが両手両足を鎖で繋がれてぐったりしている。
武装や防具などの装備はすべて外され、足元に無造作に積まれている。
「やっぱりミルクだ! 畜生、何てことしやがる!」
眠らされているのか?
ミルクの馬鹿力なら、そのくらいの拘束は軽く振りほどけるはずなのに……。
近づくために走っていると『パシッ!』と、見えない壁にぶち当たった。
「うあっ! なんだこれ?」
手を伸ばすと固い物に触れた時の抵抗がある。なのにそれは透明で、俺達の行く手を遮っている。
師匠が直ぐに気付く。
「結界ね。侵入者を阻む為に、結界を張っているんだわ」
そこでデッシュが一歩前に出る。
「そういうことでしたらボクチンの得意分野でしゅね」
そう言ってドヤ顔のデッシュが深呼吸をする。
「この程度の結界、ボクチンの手にかかれば……んんん……解≪かい≫!」
『プッ』
だが何も変化はない。それどころか微妙に臭い。
冷たい視線がデッシュに集中する。
「あれれ~? おかしいぞ?」
首を捻るデッシュの頭を師匠が叩く。
「どさくさに紛れておならしたでしょ!」
「痛いでしゅ! ちょっと、力みすぎただけでしゅのに……」
ええい。もどかしい!
「こんなもん! 会心連撃!」
『ガンギンガン!』
ガラスを擦るような高音が耳についたが手応えはある。
すると『メキメキッ』と、どこからともなく何かがひび割れる音がして、一呼吸おいて『パンッ! バキバキバキ!』と結界が崩壊した。
「なんだ。ゴリ押しでいけたじぇねえか」
師匠が呆れる。
「滅茶苦茶ね。普通、結界は物理攻撃でなんとかなるもんじゃないんだけど」
この際、結果オーライだ。
俺は先頭でミルクに駆け寄ると、剣で鎖を切ってやった。
「ミルク! 起きろ! 助けに来たぞ」
俺に揺すられてミルクが目を開ける。
「フィィィ」
ミルクは寝ぼけ眼で俺の顔を見る。そして泣き出す。
「ふぇええ」
こういうところは、まんま幼女だ。
ミルクを抱きしめて頭を撫でてやる。
「良かったネ。無事で」
「いやはや、心配しましたぞ」
俺達の姿を見て安心したのか、ミルクは泣き止んでコクリと頷く。その仕草が可愛い。
「とにかく、防具を着た方がいいわ」
師匠に促されてミルクがいそいそと防具を身に着けようとする。
ところが、長時間拘束されていたせいで、お着替えに手間取っている。
幼女の着替えを補助するわけにもいかないので見守るしかないが、寝起きの幼女が一生懸命に服を着ようとチャレンジする姿は微笑ましくもあり、正直、萌える。
その時、上の方から何かが落ちてきた。
『ザンッ!』『シュタッ!』『ズシン!』
現われたのは斧使い、黒剣士、ハンマー使いのランカー3人組だ。
「野郎! 出たな!」
ランカー3人組は着地体勢から同時にスックと立ち上がると、悪びれる風でもなく、背筋を伸ばしてポーズを取り、俺達に対峙した。
俺は剣を構えた。
師匠達も警戒する。
「待って! 様子が変よ!」
師匠の指摘するように、武器を担いだ3人組はオーラを纏っている。
紫色の蛇のオーラを纏う黒剣士が口を開く。
「我、最大効能の薬、過剰摂取! 攻撃すること、守ること、速いこと、どれも劇的向上!」
龍の形をした黄色のオーラに包まれたハンマー使いが胸を張る。
「我ら、3組へと分散します。それぞれの寄り合い、協力者が支えます。戦うは独り。他の所属する人は、技、術、魔法を駆使します」
オレンジ色の鳳凰のオーラに身を包んだ斧使いが俺達を順番に指差す。
「男の剣士は剣士と対等に戦うこと、求めます。私は、幼女と露出する女、戦います」
それを聞いてビッチが変な顔をする。
「エ? 露出する女ってアタシのこと?」
「お前以外に誰が居る……」
斧使いは師匠とデッシュを指差して続ける。
「女騎士とインチキな少年探偵は、彼と対戦となります」
「誰がインチキでしゅか! イケメンなら分かりましゅけど!」
「騒ぐこと、やめろ。破毛!」
「ハ、ハゲ!? だ、誰がハゲでしゅか!?」
憤るデッシュの頭頂部を横目に俺が教えてやる。
「デッシュ、お前、結構、きてるよ。ビッチの雷、喰らいすぎ」
「はぁ?」と、頭に手をやったデッシュが頭頂部をゴシゴシして顔色を変える。
「な、なんでしゅか、これは!?」
「自覚が無かったのかよ。再生が追っつかないんじゃねえか?」
「し、ショックでしゅ! まさかゲームの中でもハゲるとか、悪夢でしゅよ」
「現実世界でもハゲとるんかい……」
デッシュのカミングアウトはこの際、置いておくとして、状況を整理する。
日本語が不自由な翻訳のせいで違っている部分があるかもしれないが、奴等は3手に分かれて、それぞれがパーティを作るらしい。しかも、戦うのはランカーだけで他はサポートに回るという。
で、俺達は3つに分断されて奴等3組のパーティとそれぞれタイマンを張ることになる。ということは、2対4とか1対4で戦うことになってしまう。
「なんかフェアじゃねえな」
こっちは頭数が足りない。あっちは腐るほど仲間がいる。アウェイとはいえ、これは酷い。
師匠が警戒する。
「各パーティともランカーにサポートを集中させるつもりね。そこにサブメンバーのサポートも加わるとなると……かなりの底上げになるわね」
オッサンが冷や汗を拭う。
「いやはや、それに彼等は惜しげもなく高価な薬でドーピングしておるようですぞ」
師匠がオッサンに耳打ちする。
「オジサンは、あの子と準備しておいてね。形勢が不利になった時のサポートをお願いするわ」
「承知いたしました。お任せください」
師匠は、ルサの能力を切り札と考えているようだ。
とにかく、なし崩し的に3チームに分かれたパーティバトルが始まった。
俺は黒剣士との対戦になる。師匠とデッシュはハンマー使い、ビッチとミルクは斧使いとそれぞれ対峙する。
「なるべく早く片付けてフォローしないとマズイな」
火力という点では師匠チームが一番、心配だ。
『他所を見る行為、隙、生じます!』
黒剣士がさっそく飛び掛かってきた。
奴はダッシュしてフェンシングのような鋭い突きを繰り出してきた。
「おっと」
奴の剣先を交わす。速い攻撃だが避けられない程ではない。
が、剣先から視線を戻した瞬間に驚いた。
「消えた!?」
正面に居たはずの黒剣士が忽然と姿をくらました。
それを認識するより早く、背中に『ザクッ!』と一撃を喰らった。
「痛っ! いつの間に背後に!?」
なんという速さだ! それはドーピングの効果なのか?
『遅い反応、嘲笑います!』
俺が振り向いた時には、その声だけが残されていた。
「ちょ、見えねぇ!」
奴の動きを目で追うどころか、知覚することすら出来ない。
『見る方向、誤りです!』
今度は左斜め前方で声がした。と同時に左の肩口にビリッと刺すような痛み!
「グッ! こいつ!」
被ダメージは『18』とか『22』で大したことは無い。
だが、反撃しようにも、こちらの剣が届く前に奴は姿を消してしまう。
残像に斬りつけたみたいに剣が空を切る。まるで瞬間移動しているみたいだ。
俺の会心連撃は超火力の攻撃力を誇るが、当たらなければ意味が無い。なので、スピードに特化したこいつは天敵だ。
『ハイヤッ!』
黒剣士の声。しかし、声はすれど姿は見えず。直後に後方から斬りつけられる。
「痛っ!」
右の肩甲骨あたりに刺さった感触。
目で追っても無駄だ。カウンターしかねえな。
『ソイヤッ!』という敵の掛け声でタイミングをる。
「会心!」
一回転しながら剣を振るった。
奴の剣先が顎を掠めていったが、同時に俺の回転斬りにも手応えがあった。
『ザクッ!』
「よし! やっと当たったぞ!」
だが、黒剣士はニヤリと笑う。
「なに!? ダメージ表示が出ない?」
黒剣士はノーダメージでピンピンしている。
代わりに『アイヤー!』という声が、少し離れた場所で発せられた。
「もしかして……身代わり!?」
そういうことか。身代わりは、自分を犠牲にして仲間のダメージを吸収するスキルだ。
黒剣士の代わりに奴の仲間が俺の攻撃を喰らって死んだのだろう。
足を止めた黒剣士が感心する。
『肉を切ること許します。代わりに骨を分断すること、意図しましたね?』
「何言ってんだこいつ?」
ひょっとして、肉を切らせて骨を断つ、とでも言いたかったのか?
しかし、攻略の糸口は見えた。
相討ち覚悟で、接近してきたところを狙う。広い範囲で斬り裂けば攻撃を与えられる。
これを繰り返していれば、こっちが有利だ。一発当たりの与ダメージは会心攻撃が上だし、転移者仕様の自動超回復もある。長期戦にはなってしまうが……。
その時、黒剣士が剣を構え直し、気合を入れた。
それに反応するかのように『ゴゴゴゴ』という地鳴りが発生した。
黒剣士を包む紫のオーラが荒ぶる。
『攻撃の手段、増やします! 久方ぶりの全力攻撃を差し上げます!』
確かに強キャラの雰囲気はある。その迫力に俺は息を飲んだ。
『覇王は狂ったように踊ります!』
「へ?」
それは技の名前なのか?
と、拍子抜けしたのがまずかった。初動がワンテンポ遅れてしまった!
『セイヤッ!』
真っ直ぐに突っ込んで来る!?
黒剣士の姿がダブッた。いや、その姿がコピーされたみたいに左右に広がった!
「分身!?」
いや、どうみてもすべて実体! 何体あるんだ?
四方八方から斬りつけられる!
『ズバズバザクザクッザザッガッ!』
回転斬りのモーションに入る前に第一波を喰らった。まるで、集団リンチだ。
「てっ! やめれ! くそっ!」
何人もの黒剣士に斬られ、突き刺された。どれも一発が重い!
「ぐぅおおい!」
変な声が出た。それぐらい痛い。
というか全身を同時に攻撃されて、どこに痛みがあるのか分からない。
『終わりではありません! 続けられます!』
俺を袋叩きにした黒剣士の集団は、残像ではない。実体を持ったまま、攻撃を継続してくる。
『ズバズバザクザクガッガッ!』×?
「ぐあああああ!」
さすがに回復が追いつかない。三ケタのダメージ表示がせわしなく俺の周りでフラッシュする。
「会心連撃!」
ヤケクソ気味に剣を振り回す。
『ザクッザクッザザザッ!』
何体かに攻撃がヒットした。攻撃が当たった黒剣士は『ボン! ボボン!』と、消失する。
分身の術か!?
俺に纏わりつく黒剣士の団体を闇雲に斬りつけて、ようやく波状攻撃は収まった。
「くそ……痛すぎて……」
気が遠くなりそうな中、隣で交戦中の師匠の姿が目に映った。
師匠と目が合ったような気がした。
ハンマー使いの攻撃を交わしながら師匠が呼ぶ。
「オジサン! あの子は!?」
「も、申し訳ございません! 蝶を追いかけてどこかに行ってしまわれました!」
「なんですって!? 肝心な時に!」
マジかよ! ルサの奴、どこに行ったんだ?
こういう時こそ、超クロック・アップが必要なのに!




