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37. ランカーとの遭遇

 決まったと思った会心連撃がキャンセルされてしまった。


 見ると、ブラッド・デーモンの分厚い胸の部分から無数の触覚が生えている! それが剣を出迎えるように絡みついている。

「そんな防御があんのか!」

 くせ毛に絡まった櫛のように剣が重い。思うように振れない。

「クッ! こいつは厄介だな」


 もう一体のデーモンと交戦中の師匠が「弱点は氷属性よ!」と、叫ぶ。


 すかさずビッチが「あいヨ! ブリザージュ!」と、氷の全体魔法でデーモンを攻撃する。

 急速に周囲の温度が下がり、ウネウネしていた触手の動きが冷気で鈍る。


 触手が絡まる剣の向きを変えて、剣先をデーモンに向けた。そして、グッと押し込んでみる。

 すると無理に振るよりも、すんなりと剣が進んだ。

「あれ? 刺せばいいんじゃね?」

 ふと思いついた。斬りにくいなら突きを連打すれば良いのでは?

「よし! やってみっか!」

 剣先を垂直に……刺す!

『ズボッ!』

「よし! 入った!」

 しかも会心のダメージ『2802』


「なんだ。突きでも会心は出るんだ。だったら、ここは刺すべし!」

 刺すべし! 刺すべし!

『ズボッ、ズボッ!』

「会心! 会心っ! 会心っ!」

『ズボッ! ズボッ! ズボッ!』


 いいぞ~ これ! 

「会心! 会心っ! 会心っ!」

 リズムに合わせて『ズボッ! ズボッ! ズボッ!』と、いつもと違う音が生じる。

「あ、それ、会心っ! 会心っ! 会心っ! 会心っ!」

 祭りの掛け声みたいなリズムで突きを叩き込む。三千前後のダメージ表示が連続で表示される。


 途中で『グワボゥ!』と、デーモンが吐血した。

 すると、師匠と交戦していたもう一体のデーモンが、こっちのデーモンを助けに来た!


 そこでデッシュが土を掴んで投げつける。

「目潰しのじゅちゅ!」

「術じゃねええ! てか、技でも何でもねえ」


 しかし、助太刀に来たデーモンが目を庇う仕草をみせた。

 師匠の指示が飛ぶ。

「ミルクちゃん! 胸を狙って!」

「ウィ!」

 ミルクが一点集中の砲撃をデーモンに喰らわせる。

「オレ君! 突撃!」

「へいへい!」


 爆発の煙を掻き分け、デーモンの分厚い胸に飛び込む!

「会心連撃!」

『ズバズバズバ!』×4

 今度は快調に斬撃が決まる。


 俺がデーモンに張り付いて斬りまくっていると、ビッチの声が聞こえた。

「援護射撃だヨ! ブリザードン!」

「なんだ? おい」

 手を止めることなく真面目に斬り続けていると、急に暗くなった。そして、次の瞬間、頭上から突然の豪雨、ではなく大量のツララが『ズドドドド!』と、降ってきた。


「うわっ! 痛ぇっ! 冷た!」

 刺さる刺さる。ツララが俺にも刺さる。冷たいし痛いし、クソ迷惑な援護だ。

「アホか! 俺にも当たってるぞ!」


 俺の会心連撃とビッチの氷魔法でデーモンへの与ダメージは目で追えないスピードで蓄積していった。

『グェゲッシュ!』と、絶叫するブラッド・デーモン。


 何とか2体目を倒した。


「おい! クソビッチ! 俺を巻き込むな!」

「ゴメーン。氷が弱点って師匠が言うから、張り切っちゃった」


 苦戦というほどではないが、連携プレーでブラッド・デーモンは片づけた。何となくデシュだけは役に立っていないような気がしたが……。


 師匠が気を引き締める。

「まだよ。あと2体、残ってるわ」

 そうだった。全部で4体居るんだった。

「あっちで交戦してるぞ!」


 俺達を囲んでいたうちの2体は、さっき別なターゲットに向かって行った。それが百メートルぐらい先の野原で3人組のプレイヤーと交戦している。


 ビッチが感心する。

「ホエェ、あの人達、やるねえ。互角じゃん!」

 師匠が目を凝らしながら唸る。

「いいえ……遊んでるように見えるわ」

「確かに余裕がありそうだな」

「行ってみましょう」


 苦戦しているようなら助けに急ぐところだが、あの様子だと急いで駆け付ける必要はなさそうだ。


 歩きながら彼等の戦いぶりを観察する。

 2体のブラッド・デーモンは大きなモーションでパンチと引っ掻きを繰り出す。そして、時々、ジャンプしてからの急降下で広範囲の回転攻撃を見せる。


 それに対峙する3人組は反撃するでもなく、ほぼ密着する形でデーモンの攻撃を寸前で交わしている。完全に動きを見切っているような具合に。


 師匠が頷く。

「うん。やるわね。あの人達。けど、あの動き。どこかで見たような気がする」

「だな。俺もそう感じてた。いわゆる、デジャヴね」

 すかさず師匠の聞き間違い。

「デブじゃね?」

 ビッチがそれを受けて首を捻る。

「そうかナ? あの人達、スリムに見えるけど?」

「違ぇえええ! デジャヴ! 見たことがあるような感覚のことだよ!」


 師匠が何か思い出したように手を打つ。

「そうだわ! ダークマターって人の部下よ。アルティメット・ドラゴンのイベントの時に会った人達!」

「ああ、居たな。そんな奴。けど、こいつらの方が洗練されてる。無駄な動きが一切ない」

「そうね……え? 笑ってる!?」


 彼等の表情が読み取れる距離まで近づいてみて驚いた。

 確かに、奴等はブラッド・デーモンで遊んでいる。

 3人組は、黒の剣士と赤の斧使い、黄色のハンマー持ちのようだ。


 黒っぽい剣士は、流線形のスリムな鎧に、龍を模した兜を装備している。その姿は、黒とグレーで統一されたスタイリッシュなスニーカーを連想させた。


 赤の斧使いは熱帯林に生息するカラフルな鳥、黄色のハンマー持ちは、近未来的なフェイスガードに肩パッド、複数の菱形を組み合わせたような鎧を纏っている。


 奴等は中国語のような言葉で会話している。そして、緩急をつけた動きでデーモンを翻弄している。

「外国人みたいね」と、師匠が言う。そして、奴等のステータスを調べる手が止まった。

 師匠の顔色が変わる。

「レベル87?」


「なんだ? その数字? 間違いじゃないのか?」

 師匠が目を瞬かせる。

「ま、まさかランカー? 本当に居たなんて……」

「なんだそれ? 有名なのか?」

「そうよ。ランカーっていうのはね……」


 師匠の説明によると、このゲームには常人離れしたコアなプレイヤーが存在する。

 彼等はレベル・ランキングの上位者として名が知られている。ランキング争いは過酷な世界で、このゲームが始まってもう8年になるが、レベル80を超えるプレイヤーは全世界で20人も居ない。

 

 なぜなら、レベル80を超えると、レベル1上げるのに2000時間はかかるといわれているからだ。それも、休むことなく強敵と戦い続けての時間でだ。軽く廃人コースといっていい。


 デーモンをからかっているように見えた連中が動いた。

「始まるわよ」と、師匠が身を乗り出す。

「だな。どうやって倒すつもりなんだろ?」

「フォーメーションに注目よ」

 彼等のポジジョンを観察する。


 まずは斧使いが、しゃがんでデーモンの足元に張り付く。

 少し離れてハンマー持ちが腰を落として力を溜めている。

 その後ろで剣士が青竜刀を構える。彼はもう一体のデーモンを牽制しながら、正面のデーモンを挑発する。


 デーモンが動く。すかさず斧使いが低い体勢でデーモンの膝に一撃を加える。

 ダッシュをキャンセルされ、つんのめるデーモン。

 そこにハンマーが回転しながらの溜め攻撃! それが複数回ヒットしてデーモンはスタンする。

 さらにハンマーを足場に剣士が大ジャンプ! ジャンプ斬りをデーモンの顔面に連続で叩き込む。併せて、斧使いとハンマーも小刻みな攻撃を加える。


「結構なダメージが入ってるわね」

「ああ。手数重視の攻撃だけど1000前後のダメージが安定して入ってるな」


 デーモンの気絶状態が解除される。素早く元のポジションを取る3人。

 怒ったデーモンが突進を試みる。が、斧使いの転ばせる膝攻撃、ハンマーのスタン攻撃、剣士のジャンプ斬り。そして袋叩き。


 一連の流れを見てビッチが目を丸くする。

「アレ? さっきと同じじゃん!」

 まるで同じ動画を再生するみたいな攻撃だ。

 それどころか、デーモンのスタンが解けると彼等は三度、同じコンボを叩き込んだ。

「ハメじゃねぇか!」

 何のことは無い。彼等の攻撃はパターンが確立されたコンボを繰り返しているだけだ。


『ギャワォウ!』

 3人にタコ殴りされていたデーモンが絶命した。


「倒したわ……あっさり」と、師匠が溜息を漏らす。

「ネ。あの人達も転移者なのカナ?」

「どうかしら。ただ、彼等はレベル80オーバーのランカーよ。ひょっとしたら転移者より強いかもしれない」


 残るブラッド・デーモンは1体だ。だが、最後に残されたデーモンが逃げ出した。

「あ! 逃げたぞ!?」

「ふう。何とか追い払ったみたいね」

「強敵だったネ。あの人達がいて助かったヨ」


 取りあえず場違いに強力な大型モンスターは撃退した。これで一安心と思いきや……。

「え? 追うの?」と、師匠が驚く。


 その言葉通り、3人組は逃げるデーモンを追いかけた。そのスピードたるや、弓矢より速いんじゃないかと思われた。

「速っ! なんだ、あの脚力!」


 デーモンは四足で熊のように疾走する。だが、3人組はあっさりとそれに追いつき、追い越すと、デーモンの前に立ちはだかった。

 そして、次の瞬間、デーモンの身体がふわりと宙に浮いた。


 師匠が驚く。

「あの魔法! グラビデルだわ!」

「エ? あれって結構、難易度高い魔法だヨ!」

「げげ、あいつら魔法も使うのか」


 グラビデルは重力を操る魔法だという。その魔法で宙に浮かされたデーモンは走ることを止めない。が、足が空回りして前に進むことが出来ず、ジタバタしている。

 

 そこに『パシッ!』という破裂音。それを合図にデーモンが硬直した。

 すかさず、3人組がそれぞれの武器を大きく振りかぶってデーモンに飛び掛かる。

 無抵抗のデーモンに容赦ない攻撃が叩き込まれる。

「うわ……フルボッコだな」

「公開処刑でしゅね」


 見ていると可哀想なくらいにワンサイドだった。

 まるで空中に貼り付けにされたみたいなデーモンは、彼等のサンドバッグに成り果てていた。

 そして、手足をもがれ、ついには身体が八つ裂きにされて、バラバラになってしまった。


 ビッチがうんざりする。

「ウゲェェ、グロいヨ」

「ゲロォォ」と、ミルクもドン引きだ。

 師匠の表情が曇る。

「やりすぎよ。残酷だわ」


 結局、ブラッド・デーモンは原型を留めないぐらいにバラバラにされ、宙に晒された。

 血まみれの肉塊を見上げながら3人組はゲラゲラ笑っている。


 師匠が憤然とした様子で歩き出す。

「一言いってやらなきゃ!」

「ちょ、放っておけよ! 相手にすんなって」

「いいえ! いくら敵モンスターだからといって、アレは無いわ。あんなの、ただの虐待よ」

「真面目か! 師匠、優等生すぎるぞ」

「は? どういう意味? 私、間違ってる?」

「正義感が強いのは分かるけど、好き好んで危ない連中に絡むと面倒だぞ」


 俺と師匠が押し問答していると、やがて3人組の方が俺達の方に近付いてきた。

「あらら、あっちから来ちゃったぞ。どうすんだ? これ」


 若干、引き気味の俺達。ニヤニヤしながら歩いてくる3人組。


 会話できる距離まで近づいてきた黒い剣士が、翻訳機能で話し掛けてきた。

『まさか、こんな場所、会えること、幸運、ことです』


 翻訳されたカタコトの日本語に、俺は師匠と顔を見合わせた。

「会えて幸運だって? 師匠、知り合いじゃないよな?」

「知らない」と、師匠は首を振る。


 すると黒い剣士は腕組みしながら口角を上げた。

『噂、あります。転移した者、倒した人間。驚くべき経験値、獲得すること、許されます』


 こいつら、俺達が転移者だと気付いていやがる!


 俺は身構えた。

「俺達とやろうってのか?」


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