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35. お仕置は念入りに

 主催者のクソガキに幻術でリア充のイチャコラを見せられて頭に来た。


 剣をぐっと握り直してガキに向かってダッシュする!

「あばばば!」と、奴が慌てる。

「会心連撃!!」

『ズバズバズバッ』と、小気味よい連続斬りが決まった。

「いっ、痛いでしゅ!」


「もういっちょ喰らえ!」

『ズバズバズバッ』と、縦横斜めに追い討ちの連撃。

「あばば! くっそ痛いでしゅ!」

 ダメージ表示は……『43』『32』『40』と、意外に低い。

「何だこいつ、固いぞ? なら、これでどうだ!」

『ズバズバズバッ』


 ガードも反撃もなく、なんだか一方的に斬っている感じだ。

「痛いでしゅ! いったいでしゅ!」

 まともに喰らっている割にはうるさいだけで、倒れるでもない。

「おかしいな?」

 やはり与ダメージは全部二桁。

「全然足りねえ! 会心連撃!」

『ズバズバズバズバ!』


「いったいでしゅ! やめて! やめるでしゅ!」

 やっぱり会心が出ない。二桁続きの与ダメージに困惑する。

「なんでだ? 調子悪ぃな。どうして会心にならない?」

『ズバズバズバ! ズバズバズバ!』


「あばばば! 痛いでしゅ! クソ痛いでちゅ!」

「ほーん、まだまだか」

『ズバズバズバ! ズバズバズバ! ズバッ! ズバズバズバ!』

「痛い痛いでしゅ! 止めれ! あ! 今の特に痛ってぇでしゅ!」


 おかしい。こんだけ斬って未だ会心ゼロ? 

 もしかして、コイツには会心攻撃を回避するスキルがあるのか?


 俺が一方的に切りつけて、主催者のガキが痛がる構図。埒《らち》が明かない。

 そこで師匠のストップが入る。

「待って! ちょっとおかしいわ!」

 攻撃の手を止めて困惑する。

「だよな。なんで会心が出ないんだろ?」

 まさか、会心のスキルが失われてしまったのか? 少し不安になった。


 師匠は主催者のガキに尋ねる。

「ね? ひょっとして、あなた。転移してるんじゃないの?」

 師匠の言葉に皆が固まった。

「……マジかよ、こいつが?」

 そう言われてみればそんな気もする。

 師匠が頷く。

「そうよ。オレ君の会心が一発も出ないんじゃなくて、転移者だからダメージを受けないって考えた方が自然だわ」


 ボロボロになった主催者のガキが師匠を見上げる。

「実は……そうなんでしゅ」

「やっぱり、ね」と、師匠が首を竦める。

「エエ~ 嘘ォ」と、ビッチが驚く。

「プモォ」と、ミルクも感心する。


 師匠は奴に向かって尋ねる。

「いつからなの?」

「よ、4週間ぐらい前でしゅ」

「こっちの時間で4週間ね。てことは現実世界では3週間前ってことね」

 師匠の計算ではそうなる。こちらの世界は現実世界の3分の4倍の速度で時間が経過する。ということは俺より少し前に、こいつは転移したことになる。


「寂しかったんでしゅ! 仲間が欲しかったんでしゅ! 許してくだちい!」

 奴は必死で訴える。小学生のなりをした相手を一方的に凹るのも気が引ける。

「仕方ねえ。見逃してやる。けど、師匠。こいつどうする?」

「そうねえ。この前の転移者と同じで、貴重な情報は持っていないかもね」


 師匠は、期待外れだったダークマターのことを言っているのだろう。確かに、ダークは、俺達より長くこの世界で転移生活を送っていたにもかかわらず、ろくな情報を持っていなかった。


「だろうな。こいつ、ボッチみたいだし、転移の原因究明もしていないだろうな」

「私もそう思うわ。けど、置いて行くのもどうかしら……」

 師匠が情けを見せたところで、主催者のガキが救いを求める。

「つ、連れて行ってくれるんでしゅか? アンタしゃんが神……」


 師匠は少し迷っている。

「そうねぇ。どうしよっかな。それより、名前も聞いてなかったわね」

 そこで奴がすっくと立ち上がり、キリっとキメ顔を見せる。

「エドガード・コナン。コナン君で良いでしゅ」

 青色の半ズボン・ブレザーに蝶ネクタイの小学生。見た目は子供、頭脳は中年。メガネこそかけていないが……。


 師匠が冷たい目で「却下」と、吐き捨てる。

「そりゃ駄目だろ。著作権的に」

「無理だネ」

「プィイ」

 俺達全員にダメ出しされて奴が泣きそうになる。

「なな、なんででしゅか? コナン君って呼んで欲しいでしゅ」

「無理よ。だって、あなた、頭悪そうだもの。それに赤ちゃん言葉だし」

 師匠の言葉に奴が落ち込む。


 そこでビッチが助け舟を出す。

「そうだネ。じゃあ呼び名は『でしゅ』でいいんじゃない?」

「い、嫌でしゅ! お断りするでしゅ!」

 師匠が提案する。

「じゃあ『でしゅ』がダメなら『デッシュ』でどう?」


 奴はしばし考えて納得する。

「ああ、それならまだ、いいでしゅね。お皿の『ディッシュ』みたいでしゅけど」

「デッシュか。まあ、そんなもんだろう。けど、何でそのキャラなんだ?」

 子供のフリをすることに何のメリットがある?

 するとデッシュは得意気に答えた。

「弱そうに見える奴が実は強いっていうのが恰好いいんでしゅ」

「何それ?」と、師匠が首を捻る。

「美学……でしゅ」

「でも、お前、弱いじゃん」

 俺の指摘にデッシュが落ち込む。

「しょ、しょんなぁ……酷いでしゅ」


 可哀想に思ったのかビッチがフォローする。

「ア、でも、分かるヨ。ホントは強いのに、あえて実力を隠してるンだよネ」

「そ、そうなんでしゅよ。能ある鷹は爪隠しゅ、でしゅよ」

 そこで師匠の聞き間違い。

「ノンアルコールは冷やしておく?」

 それにビッチが真顔で反応する。

「ウン。アタシもお酒は飲めないから、ノンアルを冷やして飲むヨ」

「違ぇえええ!」

 相変わらずのコンビネーションだ。


 デッシュも呆れ顔。

「アンタしゃん、どんな耳してるんでしゅか。本当はババアで耳が遠いんでしゅね」

 師匠がデッシュの頭を『スパァン』と張り倒す。

「誰がババアよ!」

「いってえでしゅ!」


「ところで師匠。こいつを仲間にするとチームバトルの時に一人余るんじゃないか?」

 残りメンバーはサポートできるとはいえ、チームバトルは4人制だ。

 師匠は口元に拳をあてながら言う。

「うーん。まあ、いいんじゃないの? 交代制にすれば誰か休めるし。それに、この子の能力はサポート向きよ」

「くっそ使えねえ能力だけどな」

「酷いでしゅ! ボクチンのスキルはこんなもんじゃないでしゅよ!」

「てか、お前、何でずっと赤ちゃん言葉なんだよ。リアルでもそうなのか?」

「ち、違うでしゅ! こ、これはボイス・デバイスの故障なんでしゅ」


 ボイス・デバイスは、ゲーム内で会話する為のマイクで、ボイスチェンジャーと翻訳の機能がついている。デッシュはそれが故障しているせいで赤ちゃん言葉になってしまうのだという。

「普通に喋ってるつもりなんでしゅ。これは機械のせいなんでしゅよ」

「だせぇ~ で、リアルは何してんだ? 歳は?」

「に、27歳でしゅ。が、が、外資系エリート・サラリーマンでしゅ」


 そのぎこちない回答に師匠が顔を顰める。

「正直に答えないと仲間に入れてあげないわよ」

「わわ、う、嘘でしゅ! ホントは38歳、家事手伝いでしゅ」

 一同、沈黙。


「……家事手伝い? ニートじゃねえか!」

「そ、そうとも言うでしゅ」

 ビッチが腕組みして唸る。

「ウーン、一緒に行くのはちょっとネ。態度悪いし」

「改めましゅ! 改心するでしゅ! ホントでしゅから、一人にしないで!」

 一同、熟考。


 デッシュは親指を咥えながら上目遣い。

「お願いでしゅ。さみしいんでちゅ」

 子供キャラならではの甘える仕草。けど、中身が分かっているだけに可愛いとは思えない。


 デッシュは何とか俺達に気に入られようとアピールする。

「損はさせないでしゅ! ボクチンを連れて行くといいことがあるでしゅよ」

「ほーん。例えば?」

「ハーフのじゅちゅで、消費MPが半分になりましゅ」

「マジックポイント? 要らねえな。ビッチはMP関係ねえから」

「え? う、嘘でしゅよね?」

「ホントだヨ♪ てか、もともとMP残量が表示されないんだよネ」


「げ、幻術もできましゅよ? 敵の動きを止めて、有利に闘えましゅ」

「それも要らねえな。俺等、超火力でゴリ押しだから」

「もおぉぉ! 何なんでしゅか! アンタしゃん達は! 贅沢でしゅねぇ」

「仕方ねえだろ。俺等も転移者なんだから」


「あばばば! あ、アンタしゃん達が転移!? ま、マジでしゅか?」

「気付けよ! てか、会話の流れでなんで分からない?」

「だ、だ、だったら、尚更、連れて行って欲しいでしゅ! 転移したもの同士、仲良くするでしゅ!」

「そう言われてもなぁ。戦力的には間に合ってるからなぁ」

「とにかく連れて行って欲ちいでしゅ! 何でも言うこと聞くでしゅから!」

「なんか必死だな」


 そこで師匠が、スッと俺に近付いて囁く。悪だくみする時の顔で。

「いいんじゃない。使い道はあるわ。いざという時は身代わりで」

「ああ、そうか。失っても惜しくない駒としてね。それもありだな」

「もし、死んじゃったとしても結果が分かるわ」

「そうだな。ダークの時はしくじったけど、あれは知らねえ奴だったからな」

「仲間にしておいて、リアルの身体を運営の人に管理してもらうのよ。それなら確実に結果が分かるわ」

「だな。なんなら積極的に死んでもらった方がいいかもな」

 師匠と俺のヒソヒソ話はデッシュには聞こえていない。


 不安そうなデッシュに向かって師匠が言う。

「いいわよ。付いて来なさい。仲間にしてあげるわ」

「ホ、ホントでふゅか!? あ、嬉しくで噛んじゃった」

「お前の場合は全部、台詞を噛んでいるようなもんだろ」


 仲間に加わると決まって余裕ができたのか、デッシュはミルクの頭に手を乗せて言う。

「フフン。アンタしゃんには勝てそうでしゅね。なんなら弟子にしてやってもいいでしゅよ?」

 ミルクは不思議そうに首を傾げる。

「ムィィ?」


 調子に乗ったデッシュがビッチに向かって鼻を鳴らす。

「フフン。まったく、発情寸前の身体つきでしゅねぇ。ま、そのうち調教してやるでしゅよ」

 ビッチが露骨に嫌な顔をする。

「ハ? なんで上から目線?」


「マウントを取るんでしゅよ。群れの中での順位に関係しましゅから」

 デッシュは調子こいて胸を張る。

 が、それを聞いてミルクが『ガッシャン』と、デッシュの足を踏む。

「ふぎぇ!?」と、デッシュが悲鳴をあげる。

 ビッチが無表情に『サンドガ』と小さく呟く。すると雷の筋が一本、デッシュを貫いた。

「あぎょーん!」と、デッシュが真っ黒焦げに感電する。


 ボロボロになったデッシュが仰向けに倒れ込んで痙攣《けいれん》する。

「な、なんなんでしゅか……痛すぎでしゅよ」

「あのなあ。たぶん、みんな、お前より強いと思うぞ?」

 俺の言葉が聞こえているかは不明だが、デッシュもこれで思い知っただろう。

 ただ、こいつはあんまり賢くないのかもしれない。余計な事を言って孤立するタイプだ。


 結局、新たな転移者を連れて旅を続けることになった。

 にしても、只でさえ、変なパーティだというのに、さらに変なのが加わって、ますます珍道中になってしまいそうだ。


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