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34. 主催者の企み

 絆《きずな》選手権という妙な名称の意味がようやく分かった。


 師匠達は、俺のことをモンスターだと思い込んでいる。

 なので、俺の声は届かない。おまけに、俺は暗闇のステータス異常で周囲が見えない。

 この仲間割れの状況をどう切り抜けるか? 

 絆が強ければ、こんな状況でもクリアできるということか……。


 問題はどうやって師匠達に気付かせるかということだ。

 主催者のガキは幻術をかけたと言った。

「幻術を解くには……ショックを与えるとか?」

 会心連撃でぶん殴れば正気に戻るかもしれない。ただし、視界が奪われているので当てるのが難しい。

「けど、ホントにそれでいいのか? 絆、だよな……」


 ミルクは動くたびにガシャガシャ音がするので位置が特定しやすい。

「まずはミルクだな」

 殴るか他の方法で目を覚まさせるか? 

 考えがまとまらないまま、とりあえず音のする付近に向かってダッシュする。


「うりゃ!」

 近付いて軽く捕まえる。腰の辺りにポフンとミルクの感触。たぶん、頭が当たった。

 この状態で頭に会心をぶち込む……訳にはいかないよなぁ。

「ミルク、止めれ。良い子だから」と、頭を撫でてやる。

「ふぃいい」

 それはミルクのいつもの反応だ。そして「ムイ?」と、小さく呻く。

 構わず頭を撫で続ける。ミルクは抵抗することなく、大人しい。


「え? 何で?」と、師匠の声。

「ウソ? ミルクちゃんがブサイクに懐いてるヨ?」と、ビッチの戸惑った声。

 そうだよ! 俺だよ!


 今度はビッチの位置に見当をつけてダッシュ。

 ぶつかって押し倒す。

「痛ァい! イヤン!」と、ビッチの甘い声。


 俺が上になる形で、足と足が絡み、ほよっとしたビッチの身体に体重をかける。

「ん? これは!?」

 右手の感触。柔らかい。

 この体勢は? おそらく、ビッチを押し倒して胸に手を当てている。

「ヤダ! オレ君のエッチ!」と、ビッチが身体をくねらせる。

 そして『スパーン!』と、後頭部を張り飛ばされた。

「いつまでやってんのよ! この変態!」

「え? 師匠、幻術が解けたのか」

「幻術? 私が?」

「てか、見えるのか? 俺が?」

「見えるも何も、ビッチちゃんに乗っかってる変態しか見えないけど?」


 そこでパッと視界が開けた。

「眩しい! 目が、目がぁ!」

 と言っているうちに目が慣れてきた。

 そしてビッチの顔がすぐ目の前にあって驚いた。

「あ! わ、ゴ、ゴメン」

 慌てて身体を離す。

「ヤ、ヤダ、もう! なんでオレ君が?」

 どうやらビッチの幻術も効果が切れたようだ。


 師匠がジト目で非難する。

「変態行為をするために、モンスターのフリするなんて最低!」

「ち、違うって! 幻術だから! それに、暗闇のステータス異常で俺の視界が……」

「言い訳はしないの!」

 師匠の喝に気圧《けお》されて思わず「ハイ」と、頷いてしまった。


『パンパカパーン♪』

 そこで陽気なファンファーレが鳴り出した。


 どこからともなく『パン! パン!』というクラッカーの鳴る音。

 カラフルな紙テープに紙吹雪。それらが賑やかに俺達を包む。

「なんだ、なんだ?」

 戸惑っていると主催者のガキが、披露宴のようなゴンドラに乗って下りてきた。

「素晴らしいでしゅ! 合格でしゅ!」

 ガキは拍手しながら笑顔で俺達を見下ろす。


「合格って……なんだ? このクソみたいなイベントは!」

 俺の悪態など気にする素振りも無く、主催者のガキは笑顔でゴンドラから降り立つ。そしてゆっくりと俺達のもとに来ると「グッ、ジョブでしゅ」と、親指を立てた。

 なんかムカつく。


「おい、これが絆選手権かよ? まさかこれで終わりじゃねぇだろうな?」

「は? 終わりでしゅよ?」

「なに? こんなしょうもないのが選手権だと? 舐めてんのか!」

「アンタしゃん達の優勝でしゅ。いやぁ、素晴らしいでしゅ。あそこで、アンタしゃんが仲間を攻撃したら失格にするつもりでしゅた」

「ああ、攻撃で幻術外しはダメだったてことか」

「そうでしゅ。これぞ仲間のきじゅな! 信じ合う仲間でしかクリアできない試練なんでしゅ!」


 主催者のガキの意図は分かった。しかし、こんな奴に試されていたというのはムカつくし、そもそも何でこんなイベントをやるのか、腑に落ちない。

 師匠が、やれやれといった風に首を振る。

「まあ、いいじゃない。優勝できたんだし」


 そこで唐突に主催者のガキが俺に向かって言う。

「アンタしゃん、現実世界では『陰キャラ』でしゅね?」

「ち、違わい!」

「学生さんでしゅか?」 

「そうだよ」

「彼女はいるんでしゅか?」

「い、今は居ない……」

「そうでしゅか。その割には、女の子の扱いが上手いようでしゅけど?」

 そこでビッチが口を挟む。

「童貞だけどネ」

「ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」


 そのやりとりを見てガキがゲラゲラ笑う。見た目は小学生なのに下品なジジイみたいな笑い方だ。

 師匠が腕組みしながら顎を突き出す。

「ねえ、頂く物を頂いたら、さっさと帰りたいんですけど?」

 それは主催者のガキに向かって言った台詞だ。だが、それを聞いて奴の顔が一変した。

「まだでしゅ。これで終わりではありまちぇん」


 主催者のガキは俺を指差す。

「ボクチンと勝負でしゅ。ボクチンが勝ったら、アンタしゃんには、このパーティを出て行ってもらうでしゅ」

「は? なに言ってんだ? 俺が出て行くだと?」

「そうでしゅ。ボクチンが代わりに、このパーティに入ってあげるでしゅ」

「エエッ!? なんだか嫌! 一緒に旅するなんて恥ずかしいヨ」と、ビッチは容赦ない。

 師匠も怒った。

「なに勝手に決めてるの? そんなの私が許可しないわ」


 しかし、主催者のガキは真剣だ。

「この絆選手権は、ボクチンの仲間を見つける為のイベントなんでしゅ。ようやく理想の仲間が見つかったでしゅ」

「だから、何でお前が決めるんだよ? 仲間にするかどうかは、師匠達が決める事だろ?」

「しょんなの関係ねぇ~でしゅ。男なら力づくで奪うでしゅ」

「なんだと? 俺とバトルで決着をつけるっていうのか」

 望むところだ。その方が話は早い。

「ボクチンは強いでしゅよ? 動物と同じでしゅ。力づくで『群れ』を奪うでしゅよ!」

「ああ、いいぜ。そんじゃ、タイマンで勝負といくか」


 俺は剣を抜いてニヤリと笑った。

 ただ、こいつのスキルは、ステータス異常を与えるものなので、それには気を付けないと。

「それではボクチンも本気を出させてもらいましゅよ」

 そういって主催者のガキは、前髪を掻き上げた。そして「フン!」と、鼻息を漏らす。


「なんだ? おい」

 特に変化はない。と、思いきや、奴の目の色が変わった。右目が赤、左目が緑に変化したのだ。

「な!? オッドアイ!」

 すかさず師匠の聞き間違い。

「オットセイ!?」

 ビッチが真顔で頷く。

「ウン……水族館で芸をするやつ」

「違えぇぇぇっ!」

 ついでに言うと芸をするのはアシカだ。

 相変わらずのやりとりに緊張感が失われる。


 ガキは不敵な笑みを浮かべる。

「この目の能力でやっつけましゅ。覚悟してくだちい!」

 ガキは忍者が印を結ぶ時のような仕草を見せる。そして「お色気のじゅちゅう!」と、叫んだ。


「お色気の術……だと?」

 意味が分からない。どういう攻撃だ? 

 呆れるやら戸惑うやら……固まっていると、ふと、人の気配と視線に囲まれていることに気付いた。

「いっ!? なんだ、なんだ!?」


 いつの間にか美少女軍団に囲まれていた。

 しかも、みんな俺を見ている。落ち着かない。

 制服やステージ衣装、色んな職業のユニフォーム、恰好は様々だが20人ぐらいの美女が熱い視線を送ってくる。というか……こいつら誘っていやがる!

 正直、目移りする。しかも、彼女達が競うように、一斉に服を脱ぎだした。

「え!? ちょっ、ちょっと待て!」


 俺は虚を突かれた思いがした。


 どの子を見れば良いのか! いっぺんにそれは勿体ない! てか目のやり場に……。

「いや、その、これは……ゲフン、けしからん!」

 口ではそう言っても、目の前で服を脱ぐ子を交互に見てしまう。

「いやはや……参るな。これは」

 その時、スパーンと後頭部を張られ、同時に脇腹にズボッと肘鉄を喰らった。

「変態! なにガン見してんのよ!」

「モォ! オレ君のエッチ!」

「い、いや、これは、その……卑怯だよな?」

 完全に意表を突かれた。ガチのバトルと思っていただけに、この攻撃は想定外だ。


「まだまだでしゅ! 今度はこれでしゅ!」

 主催者のガキが「メンタル破壊のじゅちゅ!」と、呪文を唱える。すると、美女軍団に続いて半裸のイケメン集団が突如、出現した。

「げ? なんだ? 今度は男だと?」


 訳が分からない。俺が混乱していると、イケメン集団は美女軍団と次々にカップルになり、いちゃいちゃ絡みだした。

「な、なによ? これ!」と、師匠が真っ赤になって顔を隠す。

「アラぁ~」と、ビッチはオバチャンみたいな惚けた溜息を漏らす。


 もともと脱ぎ掛けていた美女が半裸のイケメンと恋人のようにいちゃつく姿が、次々と目の前で展開する。そんなものを見せつけられるとマジで凹む。

「まずい。これは、精神的にくる」というか病む。


 ただでさえ、人前でいちゃつくカップルを見ると何とも言えない気分になる。それが複数、しかも、どれも女の子が可愛い。その破壊力たるや、胸を抉り、ドリルで穿るような痛みだ。嫉妬? いや、気分はブルーを通り越して気絶しそうな倦怠感だ。 


「うわっ、なんだコレ……倒れそうだ」

 メンタルを完全にやられた。これが奴の術の威力なのか。

「チャンスでしゅ!」 

「しまった!」

 力が入らない。身体がいうことをきかない。気力が無い。まるで、テスト前の朝を迎えるようなだるさ。


 奴は一気に距離を詰めてくると「きえええ!」と、甲高い掛け声を振り絞り、パンチをうってきた。

「ちね!」

 ぽこっ、と殴られる。


「ちねっ! ちんでちまえっ!」

 ぽこ、ぽこん、と軽いパンチが続く。


「えいっ! どうでしゅか! 参ったでしゅか?」

 ポコ、ポコン、スカッ。3発目は難なく交わした。


「全然、効いてねえぞ……おい」

 余りにノロマな連打に呆れる。ひょいと下がれば当たることさえない。

 勿論、ダメージ表示は0。


 ガキが首を捻る。

「あれれぇ? おかしいぞ? どうして喰らわないんでしゅか?」


 そんな攻撃、効くわけがない。確かに精神的にはHPゼロだが、身体は転移者仕様だ。

 徐々に怒りが湧いてきた。くだらない攻撃ばかりしやがって!

「久しぶりにキレちまったぜ」


 俺は剣を構え直して主催者のガキを睨みつけた。

「野郎! 覚悟しろっ!」


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