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33. 試される絆


 普段はクールな師匠が遠足前の小学生みたいに、ウキウキした様子でチラシのようなものを見せてきた。

「ねえ! これ。みんなで参加しましょ!」


 手書きのチラシは、汚い字と下手なイラストで何の広告か分からない。

 目が読むことを拒否する。

「何だこりゃ? 落書きにしては酷い出来だな」


 そんなことは気にせずに師匠が胸を張って言う。

「絆《きずな》選手権の告知よ! これに出るの」

 ビッチが師匠の提案に目を丸くする。

「キズナセンシュケン?」

「そう。絆選手権よ」

 師匠はドヤ顔。俺達はポカン。


「絆? それが選手権だって? 何じゃそら」

 しかし、師匠はニカッと笑う。

「とにかく景品が豪華なのよ。あなたの装備を揃えるのにいいんじゃない?」


 どうも胡散臭い。高価な景品で客を釣る悪徳商法の匂いがプンプンする。

 だが、師匠の提案を無下にするわけにもいかない。

「師匠がそう言うなら参加してもいいけどさ。どういうことをするんだ?」


 師匠はチラシを読みながら答える。

「チームワークが大切って書いてるわね。たぶん、団体戦なんじゃないかしら」

「団体戦て、パーティバトルは団体戦じゃねえのかよ」

「うーん。どうかしら。バトルじゃなくて運動会かしら?」

「運動会!? なんか面倒くさそうだな。俺、好きじゃないんだよな」


 運動会と聞いてビッチが乗り気になる。

「いいンじゃない? 楽しそうだネ」

「ウニィ」

 ミルクも賛成らしい。


 そういうことなら参加するしかないだろう。半信半疑だけど……。


    *    *    *


 絆選手権の会場には、景品目当てのプレイヤーが集まっていた。


「お? 意外と盛況だな」

 街中の噴水広場を埋め尽くすぐらいの人出だ。


 噴水の前にはステージが設けられ、景品が展示されている。剣や斧、槍、弓などの武器、鎧や小道具が景品のようだが、それを覗き込むプレイヤー達のテンションがやたらと高い。一応、チラシの告知内容には偽りなし、ということか。


 しばらくして、子供がひとり、ステージに上がり、中央の演壇に向かってトコトコ歩き出した。

 青の半ズボンとブレザー、白シャツに赤い蝶ネクタイ。見たところ小学生、いいとこの『おぼっちゃん』といったところだ。


 誰も咎めないところを見ると、あの子がこのイベントを仕切っているのかもしれない。

 にしても主催者があんな子供なのは意外な気がした。おそらく、中身は大人のプレイヤーなんだろうが、どういう目的であんなチンチクリンなキャラにしたのか理解に苦しむ。


 そうこうしているうちに、主催者の子供が演壇に立ち、開会を宣言した。

「おまたせしました! 絆選手権のスタートでしゅ!」


 その語尾に違和感。

「でしゅ?」

「そだネ。でしゅって言ったね」

「噛んだのか?」

「分かんない。滑舌が悪いのかもネ」

 ビッチと顔を見合わせながら主催者の説明に耳を傾ける。


「ルールは簡単でしゅ! チームワークでピンチを切り抜けるでしゅ! 皆シャンの絆が試されるのでしゅ!」

 やっぱり赤ちゃん言葉だ。


「あいつ、何であんな喋り方なんだ?」

「さあネ。やっぱり滑舌の問題?」

 俺とビッチは主催者の「でしゅ」が気になって仕方が無い。ちっとも説明の内容が頭に入ってこなかった。しかし、師匠は真面目にメモを取っている。


 主催者の少年がすっと右手を挙げる。

「それでは、開始でしゅ!」


 それを合図に足元がすくわれた。と同時に落下した。

 落とし床!? というか地面がすっと消えたように感じた。


「ほぉおおお」

 落下しながら変な声が出た。なんかそういう遊園地のアトラクションがあったな。


 落ちていたのは3秒ぐらい。だが、着地した時には周囲の様子はすっかり変わっていた。田舎町の噴水広場に居たはずが、何もない空間に放り出されてしまった。

「これは……バトルフィールドか?」

 早速、バトルがスタートということか。


 そこで強烈なフラッシュ! そして暗転。

「うわっ! なんも見えねぇ!」


 360度、完璧な黒、黒、黒。

 闇とは違う。あらゆる光を貪欲に飲み込む物質、それが空間を埋め尽くしている。

 自分の身体も見えない。試しに手の平を顔に近付けてみる。が、それすら見えない。

「暗黒どころじゃねえな。こりゃ、相当なモンだぞ……」


 あまりに黒すぎて宇宙空間に浮かんでいるような感覚だ。重力の存在が危うい。身体が失われて意識だけの存在になってしまったようにすら感じられる。


「こんな状態で戦えってか? 無理じゃね?」

 腕や足の感覚も怪しい。そこにあるはずのものが無い、という強烈な不安感。


 軽くパニクっていると、左方向で、チカッと赤いものが光った! 

 それはほんの一瞬だ。続いて爆発音? 

 そして、間近で『ボフッ!』と熱気に左頬を張られた。

「熱っ!」

 焼き印されたような熱と痛みが頬に走った。


「ちょっ!? な、なんだ!?」

 何が起こったか分からない。すると今度は同じ方向で火花が生じて『バリバリバリ!』というカミナリ音。そして『ヒュンヒュン』と、空気をつんざく音が幾つも俺の周りを通過していく。


 そのうち2発が左の肩口と右のわき腹に当たった。

「いで! 痛って!」

 しゃれにならん痛み。身体を削られたかと思った。けど、それを確かめようにも何も見えない。


「多分、死にはしないだろうけど……これはメンタルにくるな」

 まるで目隠しをして危険地帯に身を晒しているみたいだ。目の見えない人は大変だろうなと思うことはあっても、いざ自分が同じ状態になると恐怖しかない。


 ただ、今の音……聞き覚えがある。

「ミルクか?」

 あのカミナリ音はミルクの32㎜バルカンのものだ。


 するとガッシャン、ガッシャンという金属音が近づいてきた。


「やっぱりミルクじゃん。けど、危ねえよ。こんな真っ暗な中で闇雲に撃つなよ」

 近づいてくるミルクの姿は見えないが「おい、ミルク」と、声を掛けた。

だが、返事はない。

「まあ、いいや。とりあえず、師匠たちとハグれちまったみたいだから合流しないと。ついて来いよ」


 金属音が近づいてくるのを待って右方向に歩き出した。

 相変わらず何も見えないので恐る恐る歩く。

 十数歩ほど進んだところで、後ろからついてくるはずのミルクの足音が止まった。

 そして「チネッ!」と、背後でミルクの声。

 すかさず、『ドン! ドゴン!』と砲撃音。続いて『バン! ババーン!』と爆発音。


「ひっ、痛てえっ!」

 背中を撃たれた。

 立っていられないほどの痛み。背中が焼野原だ。

「ミルク? おまえ、何で……」


 暗いから同士討ちになったのか? というか、何で今、撃ったし?

 だが、ガチャン、ガチャンと砲身が動く音。

 まだ来るか!? くそ、この至近距離で喰らうと流石にヤバイ。


 ミルクが「チネッ!」と叫んだ。

『ズドドド』『バリバリバリ』『ドッゴンドッゴン』

 幾つもの轟音が同時並行で荒れ狂う。


 再び集中砲火を浴びてしまった。しかも、近すぎ! 

 耳が潰れる! 全身が弾ける! 身体中で細かく肉が持って行かれる触感! 

 これは軽くミンチになれる……。


 堪らず剣をふるう。無意識にガード。少し火力が弱まった。それでも弾を浴びる箇所は、身体の輪郭というか、外界と境界線が猛烈に部分崩壊していく。

「うぁああ! やめれ! ミルク! 正気か!?」


 ピタッと攻撃が止んだ。

 が、間髪入れずに頭上から「行くわよっ!」と、聞いたことのある声。

「おりょ? 師匠?」


「大真斬≪だいしんざん≫!」

『ズパッ!』

 脳天に激震! 空前絶後の衝撃が、背中から尻に向かって身体の芯を駆け抜ける。


「ぐぽぉうっ!」

 変な声が出た。身体が縦に引き裂かれる感覚。マジで漏らしたかと思った。もし、出てるなら内臓ごと出てる。

「てか、何すんの? 師匠……」

 相変わらず視界は塞がれている。どういう状況なのか全く理解できない。


 混乱していると、今度は右方向で「しぶといわネ!」と、ビッチの声。

 そして「グランド・メテオ!」という呪文。

 ほどなく『ゴゴゴ』と、不気味な低音が生じて、次第にそれが大きくなり、『ドゴ、ドゴゴ!』と周囲が激しく爆発した。当然に俺の身体も爆風に翻弄される。


「ちょっ! ふざけん……うぁ、熱ちっち! うひぃへっ!」

 また変な声が出てしまった。

 しばらく爆発の洪水に飲み込まれ、爆風で宙を転がされ続けた。

 痛いのは当たり前。手足がもげそうだ。首も変な方向にねじ切れようとしてる。

「ギギギ! このクソビッチ!」


 魔法攻撃が一段落、やっと周囲が落ち着いた。まるで乾燥機に閉じ込められて掻きまわされたみたいに頭がグワン、グワンする。

「な、なんなんだ? なんでこんな酷い目に……」


 息切れしながら何とか立ち上がる。辛うじて生きてはいるが、俺の身体がどうなっているのかは見当もつかない。あちこちが過剰に痛すぎて、全身の感覚がまるで他人事だ。


 と、そのとき、どこからともなく声がした。

『幻術でしゅ』


 ふぁっ? 何だって?

「げんじゅちゅでしゅ?」

『げ・ん・じゅ・つ・でしゅ!』


「その喋り方は!? 主催者のガキか?」

『そうでしゅ。直接、頭の中に語りかけていましゅ』

「な!? そんなことが出来るとか……マジかよ!」

『これが試練なのでしゅ。パーティのひとりに暗闇の魔法、残りのメンバーに幻術をかけているのでしゅ』

「なんだと!? それで何も見えないのか」


 暗闇のステータス異常。どおりで不自然に視界が塞がれていると思った。

『他のメンバーから、あんたシャンは敵に見えていましゅ』

「な、なんだって!?」

『それから、あんたシャンの言葉は全部、モンスターの咆哮になってしまいましゅから、説得しても無駄でしゅ』


 OK、落ち着け。整理しよう。

 俺は、暗闇状態で周りが見えない。他のメンバーは俺が見えている。が、俺の姿が敵に見えているし、俺の言葉は伝わらない。


 まずい! このままじゃ同士討ちだ。

「それが狙いかっ!?」


 主催者のテレパシーは途絶えた。代わって、ビッチの声が聞こえる。

「ンもう! オレ君てば、ドコに行ったのヨ? こんな、ぶっさいくなモンスター、会心で一撃なのに」

「ぶさいくって言うな! 誰が不細工だ」

 しかし、ビッチには伝わらない。

「うっさいわネ。なんか怒ってる? その割には攻撃して来ないけど」


 師匠が冷静な口調で言う。

「仕方が無いわね。このモンスターは放っておいて先を進みましょ」

「デモ、このブサイクを倒さないと次にいけないヨ」

「困ったわね。やけにしぶといから、本気でやらないと」

「そうだネ。ブサイクだけど、ギガ・フレア連発で消し炭になってもらおうかな♪」


 おおい! それは止めろ! 

「お前等、分からんのか!? こんだけタフなんだから気付けよ! 俺だよ!」

「ン? また何かフゴフゴ言ってるヨ? このブサイク」

 てか、ビッチは『不細工』言い過ぎ。


 にしても弱った。てか、結構なピンチじゃねえか!?

 試される絆?

 いや、これって無理ゲーじゃねえか? こいつら全然気付かないし……。


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