25. 本気のダークマター
ダークの本職は『魔剣士』だった。
それはあまりに想定外だった。
てっきり剣士だと思っていた。魔剣士は魔法と剣技の両方を使いこなす分、剣技は剣士に遠く及ばない。
師匠が呆れ顔で呟く。
「通常攻撃であの威力なのに……魔法が乗ったらどんだけ?」
ビッチは対抗心まる出しで口を尖らせる。
「プン! 魔法勝負なら負けないんだからね! 兼業なんて許せない!」
ビッチは何に怒ってるんだ?
「お前、なんで『兼業』を目の仇にしてるんだよ?」
「アタシ、女優と歌手の両方で成功しようなんて子が大嫌いなのよネ」
「は? なんだ、その例えは……」
「分かる? 中途半端なクセに、それで売れちゃうなんて納得できる? ずるいでショ?」
「知らんがな……」
ビッチはロッドを振って攻撃を仕掛ける。
「サンダロイドでお仕置きだヨ♪」
ロッドのヘッドが小さく翻ったところで『バチンッ!』と強烈な破裂音!
耳が痛い、というか轟音が腹に響く!
『バリバリバリッ!』
ビッチの手元を起点に前方の視界を稲光が覆い尽くす。
暴力的な雷光の密度! その向こう側で「うぬっ!」という呻き声。
ダークは剣を構えたまま、雷の魔法に耐えている。
奴の周囲で二けた数字のダメージが幾つか表示された。
そこは流石に転移者。ビッチの魔法を食らっても立っていられるようだ。
ビッチが感心する。
「やるジャン! ミルクちゃんもやっちゃって!」
「ウイ」
ミルクは両肩に背負った砲台をダークに向ける。
『ズドドドッ!』
ミルクの主砲が火を噴いた。それも絶え間なく連発で。主砲なのにマシンガン並の連射だ。
集中砲火を浴びるダーク。その様子は閃光と爆発音のカオスで見ることが出来ない。
熱を帯びた爆風がこちらまで押し寄せてくる。
「フィィ」と、ミルクが座り込む。クタクタになるまで砲撃を続けたせいで眠くなったらしい。
師匠がダークの居ると思われる方向を見て呟く。
「どれぐらい効いてるかしら……」
風が噴煙を薙ぎ払うように流れ込んできた。
煙の向こうに人影がうっすらと浮かび上がる。それはダークのシルエットだった。
「極溜め≪ごくため≫!」
キラーン、と何か光った。と同時に顔の辺りに衝撃が走った。顔が縦に割れる感触!
「ぎっ!」
あまりの痛みに視界が真っ赤に染まる。反射的に剣でガードする。
『ガッ! キィン!』
腕ごと持って行かれそうな衝撃! と同時に身体を縦に引き裂かれる感覚!
「いっでぇ!」
被ダメージは608。これまでに経験したことの無い数値。それだけの痛みはある。
気が付くとダークが目の前に居た。振り下した剣を構え直しながらダークが笑う。
「フハハ! 面白い! 実に面白い!」
くそっ、余裕じゃねえか!
「我の極溜めで即死せぬとは! やはり転移者は違うな!」
何か言い返そうとするが顔が痛くて言葉が発せない。
「はっ!」と、ダークが縦切りで俺の左腕を狙ってきた。
左半身を後ろに引きながら右手の剣で応戦する。
『ガチッ!』
今度は剣と剣が交錯したまま、互いに固まった。
剣の腹で押す。ダークが押し返す。
負けじと強く押す。右足を踏み込んで押す。
するとダークの剣圧がフッと消失して、俺の剣が宙を泳いだ。
すかさずダークが手首を返して「喰らえっ!」と、突きを繰り出してきた。
「きたっ!」
間一髪、左に避ける。
危なかった。押し込もうとして右半身が前のめりになったところを狙われた。
バックステップでダークの剣先を交わし、反時計回りに奴の背後に回り込んで、会心連撃をカウンターで叩き込む!
「会心連撃!」
ダークが半回転してショートレンジの突きを繰り出す。こちらの一撃目より早い!
「極溜めっ!」
こちらの剣を当てるより先にダークの剣先が届いた。
『ズバッ!』
「ぐあっ!」
奴の剣先は浅かった。だが、強烈な痛みで目の前が真っ白になる。
表示されるダメージは624。
こちらのカウンターにカウンターで合わせくるのは流石だが、溜める時間は無かったはず。
なぜだ?
ダークは俺の思考を読み取ったかのように笑う。
「フフ。なぜ1回きりだと思った? 溜め攻撃は一発限りというのは思い込みだ」
「な、なんだと!?」
「我が溜め斬りは、エネルギーを放出し終えるまで継続するのだ」
「マ、マジかよ!?」
普通、溜め斬りっていうのは一発の火力を上げる為のものじゃないか? なのに、コイツのはダラダラと連発できるってことか……。
師匠も驚愕している。
「なにそれ? チートすぎじゃない?」
師匠の口からチート非難とはね。
「俺等が言うなってトコだがな」
師匠が爪を噛む。
「おまけに魔法も使うんでしょ。ますます厄介だわ……」
そこでダークがニヤリと笑う。
「安心しろ。我が使う魔法はたった3つ。魔法防御、物理的防御、そして剣技に被せる攻撃魔法『Death≪デス≫』!」
それを聞いてビッチが訝る。
「エ? なんで最後だけ丁寧語?」
意味が分からず5秒、考えた。
ビッチが続ける。
「さっき『攻撃魔法です』って言ったよネ? 何で『ですます調』なの?」
「違ぇよ! デスって魔法の名前だよ」
緊迫した場面で何すっ呆けたことを……。
それにしても魔剣士でありながら攻撃はデスだけだと?
「即死の魔法だけかよ。それしか使わねえってことは、必ず一撃で殺すってことか。たいした自信だぜ」
そう口にしてみたものの冷や汗が出てきた。
ダークがクイッと顎をしゃくった。
「さて。手加減はここまでだ。そろそろ本気でやらねばな。最大限にエネルギーを溜めさせてもらう。決着は速やかに。最後は冷静に、だ」
師匠が驚嘆する。
「うそ……でしょ? 今まで本気じゃなかったってこと?」
イチイチ頭にくる野郎だ。手の内を小出しにしてくるところが憎らしい。しかも、都度こちらを萎えさせる。おまけに堂々と『溜め宣言』だ。その間はご自由に攻撃してくださいと言っているようなものだ。
「そうはさせるか!」
ダークが溜めているところを一方的に斬りまくる。一発当たりのダメージは会心でも50前後。やはりガードの魔法も転移者仕様のようで、やたらと固い。
「くそっ! くそったれ!」
一方的に凹っているはずなのに手応えが怪しい。まるでビニール製の刀でポコポコ殴っているような感覚だ。
「いい加減くたばれ! くたばってくれ!」
連続攻撃を全力で叩き込んでいるのに、追い込まれているのはこっちかもしれない。
ダークがピクリと動いた。
「ヤバイ! 来る!」
慌てて飛び退く。
ダークの目が光った。「フン」と、剣を横に振る。その薙ぎ払いから生じた衝撃波が迫ってくる。
「うあっ!」
「きゃっ!」
「イヤン!」
「プイッ!」
「ぬおおお!」
なぜか控えのオッサンまで吹っ飛ばされてしまった。
ダークは、すっくと背筋を伸ばしてこちらを一瞥する。
「さて……と。これでMAXだ。一撃必殺のデスを乗せた極溜めで楽にしてやろう」
これはヤバイ。
奴の剣に黒いオーラというか炎みたいなものがバチバチとまとわりついている。
急速に周りの空気が冷え込む。
なんだろ? 腹の底が冷える。冷え切った痛み。
「やべえな。なんか腹いてえ。出る訳じゃないけど」
ダークの周りで『ゴゴゴゴ……』と、不気味な音が生じた。
「我がデスは全体魔法。皆で仲良く成仏したまえ」
師匠がペタンと内股で座り込んだ。
「甘かった……ゴメン。みんな……」
ビッチが泣きべそをかく。
「師匠のせいじゃないヨ。頑張ろうヨ。そんなこと言わないでサ……」
ミルクも戦意喪失で膝を抱える。
「フィィ……」
戦意喪失の仲間達を鼓舞する。
「おいおい、なんだよ? なに、簡単に諦めてんだ?」
師匠が涙目で見上げてくる。
「だって死ぬかもしれないんだよ?」
ビッチがお漏らししそうにモジモジする。
「いやぁだ。まだ死にたくないヨ」
「ふざけんな! 俺等だって転移してんだぞ。一方的にやられるわけにはいかねえ。それに考えがある」
俺の会心スキル。会心は敵の攻撃を受ける時にも有効だ。
おそらくは相手の攻撃が持つエネルギーを打ち消す効果があるのだろう。
ダークの極溜めが600ぐらいの被ダメージに収まったのは、多分、剣でブロックしたおかげだ。
「ビッチ! 俺に魔法をかけろ! スピードアップだ!」
震えながらビッチがクイックの魔法をかける。
「よし! 俺が前面で受ける。会心連撃でダメージ軽減を狙う!」
それを聞いて師匠が必死に立ち上がる。
「分かったわ。私達も全力をぶつけるわ!」
ミルクは主砲を構え、ビッチは攻撃魔法の呪文を唱える準備をする。
しかし、ダークは「無駄、無駄、無駄」と馬鹿にしたように首を振る。
そしてゆっくりと剣を頭上に翳すと「終わりだ!」と、宣言した。
師匠の「みんな一点集中!」の号令で一斉攻撃が発動する。
「ムイィィ!」と、ミルクの全砲門解放!
「ギガフレア♪」と、ビッチの最強火力の魔法攻撃!
「天来滅失、豪力覇斬!」と、師匠の剣技による衝撃波!
俺はいつもの「会心連撃!」を、全力で繰り出す。
ありったけの火力を前方のダークに注ぎ込む!
どれだけのエネルギーになるか見当もつかない。それぐらいみんな本気で技をぶつけた。
が、ダークの姿がフッと消える。そして奴は大ジャンプでこっちに飛び込んで来る。
「げっ!」
一点集中が裏目に出た。ダークは攻撃の圧をジャンプで避けやがった!
ダークが「貰った!」と落下してくる。
目の前に奴の剣が降り注いできた。
下がらなくては! いや、会心連撃が間に合わない!
目を瞑った。
さすがにこれは無理だ!
「ちっくしょー!」




