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24. ダークマターとの対戦

 新たに出現した扉の先は広々とした謁見の間だった。


「ほええ……」と、ため息が出る。

 どこぞの宮殿か? ギリシャのパルテノン宮殿みたいな柱、天井いっぱいに描かれた楽園、ツルツルの大理石の床は歩くとビッチのパンツが映り込みそうだ。


 オッサンが強張った笑いを浮かべる。

「いやはや、ここは随分と豪勢な造りになっていますな。時代考証は出鱈目ですが」


 確かにRPGのラスボスが出てきそうな部屋だが、どうもバランスが悪い。

 オッサンの説明では柱周りはギリシャ風、壁や天井の装飾は旧制ロシア、天井の絵画はルネッサンス、彫刻は旧制ローマだそうな。オッサン、良く知ってんな。


 師匠が鼻で笑う。

「ふふん。どおりで趣味が悪い訳ね」


 ビッチはモデル歩きで大理石の床をコツコツ踏み鳴らす。

「ウフフ。なんかお姫様になったみたい♪」

 うん。見えてるね。ビッチの足元にはくっきりとピンクのパンツが映ってる。


 ミルクは足元が滑るのか、恐る恐る歩を進める。まるで幼児が初めてプールに足先を挿し込むみたいで可愛い。


 ルサは相変わらず物珍しそうに室内を観察している。感心するでも喜ぶでもなく、ひたすら見るだけ。

 その美しい横顔を眺めながら我に帰る。そして戸惑った。

 まさか目を奪われてた? NPC相手に?

 ずっと見ていたい。けど、目を逸らす。バレそうで怖いから。


 ルサは何かが違う。

 師匠もビッチも綺麗な顔をしている。そりゃゲームの中なんだからルックスなんて幾らでも弄れる。けど、ルサに惹かれてしまうのはなぜなんだろう?


 と、その時、前方で乾いた拍手が発生した。見ると誰かが玉座に座っている。

 それを見て師匠が苦々しくその名を口にする。

「ダークマター……」


 ダークマターは両手を広げて俺達を歓迎した。

「ようこそ! 我が館へ!」

 それは外国人がホームパーティに友人を迎えるみたいなテンションだ。

 一方、俺達のテンションは低い。


 ダークは俺達の反応が薄いことに気付いて顔が強張る。

「あ、ああ、見せて貰ったよ。実に素晴らしい。流石は転移者だ!」

 どうやら彼は俺達の戦いっぷりを見ていたらしい。高みの見物という訳だ。


 師匠が「趣味悪っ!」と、苦い顔をする。

 念のために聞いてみる。

「で、約束通り色々と聞かせて貰えるんだよな? ここまで来たんだからさ」

 ダークが神妙に頷く。

「ウム。分かる範囲でなら」


 一番の疑問。それを確かめたい。

「じゃあズバリ聞くけど、何で俺達は転移しちゃったんだ? 原因は?」


 俺の質問をダークは神妙な面持ちで聞く。そして答える。

「うむぅ……正直、それは分らぬ」

「戻る方法はあんのか? 現実世界に」

「むむぅ……今は、まだ不明だ」


 俺達のやりとりを聞いてビッチが口を挟む。

「ぜんぜんダメじゃーん!」

 ダークは頭を掻く。

「いや、そう言われてもだな……」

 確かに歯切れが悪い。

 

 何が真実を知りたければ来い、だよ。

「おい。真面目に答える気あんのか?」

「いや。隠している訳では無い。正直、自分も困っている。出来れば同じ境遇の人間を見つけて協力したい。それで何とか突破口を……」


 そこで師匠が「運営に会ったわ」と、ダークの言葉を遮る。

 ぎょっとしてダークが「なんだと!?」と、師匠の顔を眺める。

 彼の反応を見て師匠が呆れる。

「貴方、この館で引きこもってるんでしょ? あんまり外に出てないんじゃない?」

「し、し、失敬な! な、何を根拠に……」


 だが、師匠はダークの質問には答えずに考え事をする。そして首を振る。

「やれやれね。貴方が会ったことが無いってことは、アレが本物の運営かどうかはまだ分からないのね。それに、運営の人が他にも居るっていう転移者は貴方じゃなかった……」

 なるほど。師匠がガッカリするわけだ。


「そうだよな。じゃ、アイツが本物の運営か確かめるには他の転移者を探せってことかよ?」

「そういうことになるわね」

 師匠は諦め顔でそう言うがビッチは納得できない様子だ。

「エエ~ がっかり。苦労してこんなトコまで来たのにィ」


「お前、大して苦労してねえじゃん」

 俺に突っ込まれてビッチが「プン!」と、頬を膨らませる。


「フィィ……」と、ミルクが疲れた顔で座り込む。

「だよネ。ミルクちゃんも『骨折りソングのくびれたもーけ』だってヨ」

 骨折り『ソング』って何だよ。

「相変わらずお前の通訳は無茶苦茶だな」


 俺達の会話に「あのう……」と、ダークが恐る恐る入ろうとする。

「あの、なんか蚊帳の外なんだけど?」

 心細そうに言うダークのラスボス感は完全に失われていた。


 師匠が冷たく言い放つ。

「じゃあ、サヨナラ。お邪魔したわね」

 ダークが慌てる。

「ちょっ、待てよ!」

「使えない人に用は無いわ」

 師匠の冷たい言葉にダークが食い下がる。

「帰るんかい!? ここまで来て戦わんのか!?」


 師匠は、きょとんとしてダークの顔をしげしげと見つめる。そして素の反応を示す。

「戦う? 何の為に?」


「ええい! 我が館から生きて帰れると思うな! 来いっ!」

 この人は何を熱くなっているんだろう?


 俺も半ば呆れている。

「いや、だってさ。アンタのところに来たら転生のことが分かると思ってたのに、アンタ何も知らないじゃん」

「ソーヨ、ソーヨ! 嘘つき! 詐欺師! ド変態!」と、ビッチも口を尖らせる。

「ぷいぃ」と、ミルクもムクレ顔だ。


 そこでオッサンが間に入る。

「まあまあ、先生方もダークマター殿も落ち着いてくだされ。ここはひとつ、転移した者同士で前向きに今後の対策を協議するのは……」


 だが、ダークが険しい表情で「それは出来んな」と、きっぱりと断る。

「し、しかし、ダークマター殿にもメリットが……」と、戸惑うオッサン。

 それを押しのけて師匠がダークを睨む。

「いいわよ。どっちかが死ぬ。それでどうなるか……試してみましょうよ」


 おお、その手があったか!

 そうだ。ゲームオーバーになれば元の世界に戻れるかもしれない。

 前にビッチと相討ち狙いでそれを試そうとしたことがあった。あの時はお互いに火力が足りなかったので失敗してしまった。しかし、ダークの攻撃力なら……ワンチャンあるかも!

 

 ダークは冷たい微笑を浮かべて頷く。

「面白い。転移者同士で殺し合う。死ねば現実世界に戻れるかもしれんという訳だな。なるほど、その発想は無かった」


 それを見てビッチが意地悪そうに指摘する。

「ウソばっかり。『ぼっち』だから思いつかなかっただけでしょ」

「うっ!」

 ビッチの指摘はグサリとダークの痛いところを貫いたらしい。


 ダークは激怒した。

「おのれ! 侮辱しおって! 後悔するなよ!」


 さて、となると誰が先陣を切るかが問題だ。

「んじゃ、俺が斬られるわ」

「エ? オレ君ずるーい! アタシが先だヨ」

「なんだよ。このアイデアは俺が最初に思いついたんだぞ」

「アタシが先だヨ! こういう時はファースト・レディーでしょ!」

「ボケ。それをいうならレディー・ファーストだろ」


 ビッチと言い争ってると師匠が肘で俺の脇腹をツンツンと突いてきた。

「ね、貴方達。どっちが先に死ぬかでケンカなんてバカバカしくない?」

「あー、けどこのクソビッチが……」

「誰がクソですって!? オレ君、お下品!」

「止めなさいってば。いい? ホントに死ぬかもしれないのよ?」

 師匠の言葉に息を飲む。

「へ? 死ぬって……俺等が?」


 師匠は、やれやれといった表情で頷く。

「そうよ。ここにある意識が元の身体に戻る保証なんてないのよ?」

 それも一理ある。

「そっか。この世界で死んだからといって、必ずしも元通りにはなんねえかもしれないってことか……」


 俺達の身体は現実世界では意識不明の重体。けどそんな自覚は無い。この自我と元の身体との繋がりがあるかどうかも怪しい。


 そこで師匠が不気味な笑みを浮かべる。

「フフ。何も私達が実験台になる必要ないじゃない。代わりがいるでしょ? 目の前に」

 師匠の視線がダークに向いているのを見て理解した。

「なるほど! あいつをぶっ殺せばいいのか。で、どうなるか試してみると?」

「そういうこと」

「うぇぇ。流石、師匠! 可愛い顔してエゲつないなあ」

 可愛いと言われて師匠が頬を赤らめる。

「で、でも、油断できないわよ。相手も転移者なんだからね」

「ああ。分かってる」


 ダークが待たされてイライラしている。

「おい! なんだ、さっきからゴニョゴニョと身内だけで相談しやがって……」


 そこでビッチが舌を出す。

「ベエだ。やっぱ、アンタを実験台にすることにしたのヨ!」

「なんだと? フン、面白い。ならば返り討ちにしてくれよう」

 そう言ってダークが剣を抜き、構えを見せた途端、背筋に冷たいものを感じた。


「うっ……なんだ、この感じ……」

 師匠の顔からも笑みが消えた。

「分かる? 私もよ……嫌な予感がする」

 ミルクが「ムィィ……」と、低く唸る。ビッチだけはキョトンとしている。


 ダークがバトルを宣言する。と同時にバトル・フィールドが展開した。


 俺もゆっくり剣を抜いて備える。

「さてと。お手並み拝見といきますか」

 そう言って一歩前に出たところで師匠が警告する。

「気を付けて! 下手に突っ込まない方がいいわ」

「けど、時間かけすぎるとマズくねえか? 奴には溜め攻撃がある」

「分かってる! でも、あっちの出方を見てからよ」


 先頭は俺。師匠がその後ろに続く。その後方、やや離れて右にビッチ、左にミルクの陣形だ。俺が斬り込むところを師匠がサポートして、魔法と砲撃で援護射撃を狙う。


 臨戦態勢の俺達を見るダークはニヤニヤしている。そしておもむろに口を開く。

「済まぬ。言い忘れてたが、我は剣士ではない。魔剣士だ」


 思わぬ告白に絶句した。

「嘘でしょ……」と、師匠が驚愕する。


 冗談じゃない。はじめて奴と遭遇した時、暴走する大型モンスターを真っ二つにした奴の剣技を思い起こす。

「あんだけ剣が強いのに本職が剣士じゃないだと!?」

 つまりそれだけスペックが高いということだ。


 しかし、奴の剣の威力に魔法が乗ったら……どれだけの火力が出るんだ!?


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