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第6話 未来を変えるには


 視界が再び白くなっていく。夢から目覚めようとしている感覚に、ロザリアは今度こそ抗わず身を任せた。


 うっすらとまぶたを開く。ベッドの上に寝転んだまま、窓辺に顔を向けた。今朝は日差しが弱く、厚い雲が空を覆っているようだった。


 ロザリアは目元を拭いながら、ゆっくりと起き上がった。


 二度目だからか、前ほど息は乱れていない。けれど未だに心臓の鼓動は早い。


 同じ夢を二度見たのだ。これが「未来予知の魔術」で間違いないだろう。


 そして今回もロザリアは、自分自身であると認識しながら夢を見ていた。国を滅ぼそうとした悪女は、紛れもなくロザリアだった。


(やはり、そういう魔術、なのでしょうね……)


 この魔術は、自分の未来を予知するものだと考えるのが自然だ。


 誰かの未来を疑似体験している、と信じたかったが、それは都合のいい考えだと、心のどこかでわかっていた。


 天才魔術師たるもの、苦しい未来を恐れて、魔術の本質を歪めてしまってはいけない。


 とはいえ、戒めだとする考えは間違いではないはずだ。ユースが言っていたように、警告という解釈もある。


 予知した未来は変えられないのか?


 ──否。変えられる。そうでないと、何のための魔術なのか。


 魔術とは、人々の暮らしを守り、豊かにするためのものだ。ただ予知するだけで、悲惨な未来を変えられないのなら、何の役にも立たない。


 魔術を役に立てられないのなら、魔術師失格だ。そんなこと、天才魔術師たるロザリアは許さない。


(わたくし自身の未来なら、わたくしが正せばいいことですわ!)


 ロザリアは勢いよくベッドから降りた。





 今日は休日である。青空の見えないあいにくの曇り空だが、一人で内緒の調査をするにはもってこいの日だ。


 ロザリアは王都の街へ出ることにした。



 ──未来を変えるためには、どうすればいいか。


 夢の中のロザリアが国を滅ぼそうとした理由は、セレン王女への嫉妬心。 ひいては、まだ見ぬ誰かへの恋心だ。


 その感情に共感できない以上、今のロザリアに改めるべき欠点はない。


 未来を正そうと息巻いたものの、現状できる対策といえば、「誰かに恋をしてしまわないよう気をつける」などという、何とも馬鹿らしいことだけだ。


 しかし、あのような光景を見せられて、何もせずにいられるロザリアではない。今の自分にも理解のできる部分から、対策を練るべきだろう。


 そう考えたロザリアは手始めに、王都の守りの要──「魔術障壁」を見に行くことにしたのである。



(やはり、ここからでは遠くて、よく見えませんわね)


 屋敷の裏口から出て、ロザリアは空を見上げた。


 「魔術障壁」とは、魔物や魔術による攻撃を防ぐ障壁だ。厳密には、「魔力の塊だけを弾く壁」である。魔物も、魔術による攻撃も、魔力のみで構成されているものだからだ。


 王都はこの国で最も大きな街であり、史上最も巨大な魔術障壁によって、その周囲と空までもが覆われている。


 夢の中では、城のような建物から街を見下ろしていた。あれが王都の街であったかどうかは、はっきりと認識できなかったが、城が建っているような大きな街であれば、まず間違いなく魔術障壁があるはずだ。


 にもかかわらず、魔物が街を襲う未来を見た。


 魔術障壁が魔物か魔術によって破られた、ということになる。一度組み上げられた魔術障壁を解除する方法は他にない。


 数多の魔術師たちの「防御魔術」を寄り合わせて成り立つ大規模魔術であり、今も熟練の魔術師たちによって、定期的に補強が施されている。


 脈々と受け継がれている魔術の結晶。全魔術師の憧れであり誇りとも呼ぶべきそれが、まさか突破されるだなんて……


(……今の魔術障壁、大丈夫かしら?)


 あくまで未来の話。ロザリアしか知らない、夢の中の話だ。


 けれど、どうにも気になってしまって、居てもたってもいられなくなったロザリアは、現在の魔術障壁をこの目で確かめようと決めた。


 王都の中央に位置する貴族街からは確認しづらいが、大通りを抜けて関門まで行けば間近で見ることができるのだ。



 ロザリアは街を歩くのに目立たないよう、一番質素な服をクローゼットから引っ張り出してきた。以前、領地を視察する際に用意してもらった服だ。


 これを着れば、どこにでもいる町娘に見えるだろう。念のため、お守り代わりに魔道具をローブの中に忍ばせて。


 屋敷の誰にも告げず、こっそりと裏口から出てきたのは、今まで、一人で貴族街の外に出たことがないからだ。


(理由を話せば心配させてしまいますもの。少し見てくるだけですから、きっと大丈夫ですわ)


 父に見つかれば間違いなく大目玉。母に見つかれば涙の大洪水ができるだろうが、それでもロザリアの決意は固かった。



 その選択の先に、運命の出会いが待ち受けているとも知らずに──。



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