第48話 激励
談話室の空気が張り詰める中、テオはユースに向かって続けた。
「あんたに引き留めてほしかったんじゃねぇか? それか、ついてきてほしかったのかも」
……正直なところ、彼の言うことには、ロザリアもその通りかもしれないと思った。
セレンがアメジスト領へ向かう前に、わざわざオブシディアン領へ立ち寄った理由。しかも、セレンにとっては、ユースが帰ってきているかどうかは憶測でしかなかったにも関わらず、だ。
セレン自身にその自覚があったかはわからないが、ユースのことを頼りたい気持ちが少なからずあっただろう。
「……」
ユースも思い当たったのか、俯いて黙り込む。ロザリアはユースに向かい合い、励ますように声を明るくした。
「今からでも遅くはありませんわ! わたくしたちと一緒に、セレン様を追いかけましょう!」
ユースは顔を上げた。けれど、まだ浮かない表情だった。
「……彼女はきっと、僕を見限っただろう」
ぽつりとそんな弱音を吐いた。ロザリアは勢いよく立ち上がった。
「セレン様がそんな薄情な方だとお思いですか!? 卑屈になっている場合ではありませんわ!」
テオに釣られてガツンと言ってしまった。しかし、後悔はなかった。ユースは目を丸くする。そこへ、シュヴェルトも口を添えた。
「ユース、君は強い。私に立ち向かってきたときのことを思い出せ」
その言葉に、ユースの目が輝いたように見えた。
シュヴェルトが言ったのは、ロザリアも聞いた昔の話だ。セレンがシュヴェルトのところへ嫁ぎたがっていると勘違いしたユースが、彼に勝負を挑んだ、と。
シュヴェルトの得意分野である剣術の勝負を挑み、何度剣戟をかわされても立ち向かった。当時のシュヴェルトが、何故そこまで頑張るのか、と疑問に思うほど。ユースはそれほどまでにセレンのことを──。
「……あぁ、よく覚えているとも。木剣の重さも、駆けつけたセレンの声も……君の焦った顔もね」
「む……」
「ふふ」
ロザリアは思わず笑った。シュヴェルトは、ユースをいじめていると思ったセレンに泣かれて、死を覚悟したと語っていた。
「その様子だと、ロザリアに話したようだね」
「まずかったか?」
「いや、おかげで気が引き締まったよ。これ以上、かっこ悪いところは見せられないね」
ユースはそう言いながら、ロザリアとシュヴェルトを順番に見たあと、テオに向かって礼をするように目を伏せた。テオは、ふん、と鼻を鳴らして、またソファにだらりともたれた。
「では、ユースお兄様もご一緒にアメジスト領へ行ってくださるのですね!」
ユースは頷いた。だが、喜ぶロザリアを制するように、
「そうだね……ただし、条件がある。ロザリア、君がアメジスト領へ向かうのは、お祖父様とお祖母様に、ちゃんと事情を話してからにするんだ」
彼はロザリアの目を見つめて、そう言い聞かせた。痛いところを突かれて、ぎくりとした。
「で、でも……心配させてしまうかもしれませんわ」
心配させるのは、もちろん心苦しい。そして何より、反対されるのが目に見えているから、打ち明けることが躊躇われたのだ。
ユースもまたロザリアを心配する側の人間であることを忘れていた。
「何も言わずに行くほうが心配させてしまうよ。お二人とも、アメジスト侯爵がセレンを不自然に呼びつけていることはすでにご存知だ」
領主である侯爵が不審な動きをしているなら、そんな人物の治めているアメジスト領にも、危険があると考えておくべきだろう。それはロザリアも承知の上だ。問題は、ロザリアが自分の身を守れるということを、祖父母が信じてくれるかどうかだ。
「私も、黙って行ってしまうのは感心しないな」
シュヴェルトが声を低くして言った。真面目な彼ならそう言うだろうということは、予想の範疇であった。
向こうの味方が増えてしまい、肩身が狭くなる。ロザリアは、あと一人残ったテオに目を向けるも、彼は我関せずと言わんばかりに肩をすくめるだけだった。
「……わかりましたわ」
むすっと唇を尖らせながら、ロザリアはしぶしぶ頷いた。
「そうむくれないでおくれよ。ちゃんと賛成してもらえるよう、僕もサポートするつもりだからさ」
そうユースが笑った。その顔にはもう、苦しげな曇りはなく、すっかり元気を取り戻したようだった。
(わたくしも、駄々をこねている場合ではありませんわよね)
気を取り直し、ちゃんと誠意をもって祖父母を説得しようと、ロザリアは覚悟を決めた。




