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第11話 魔術師として


 腕輪型の魔道具が、ロザリアの手首でキラリと光る。魔道具というと杖や本が昔からの主流である中、これは発明されたばかりの最新型だ。


 魔道具とは、魔力の消費を抑える道具である。魔力の高いロザリアにとって、魔道具を必要とする場面は少ないが、やはり魔術を愛する者として技術の進歩は見逃せない。


 手首にぴったりとフィットするように作ってもらった特注品である。魔道具を身体の一部のように認識していなくては、ただの飾りと化してしまうのだ。


 ゆえに──ロザリアは、この新しい魔道具に一刻も早く慣れるため、寝ている間も身につけていた。だからこそ、高難度である「未来予知の魔術」に必要な魔力を、実現可能な範囲まで抑えることができたのだった。


(せっかくですもの、出し惜しみなしで参りましょう!)


 ロザリアは腕輪をつけた手を前に突き出し、魔物に狙いを定めた。


 体内の魔力を巡らせると、腕輪にはめ込まれた赤い宝石が輝きを増す。


 ロザリアの気迫を信じてくれたのか、副団長は剣の柄に手だけを添えたまま、動かないでいた。


 魔物を滅し得るものをイメージする。


 彼の隣にいる今ならば、この魔術の威力を最も引き出せるだろう。標的を真っ直ぐ睨みつけ、ロザリアは叫んだ。


「──炎よ!」


 手のひらから赤い炎が放たれる。魔物へ向かって一直線に走った炎は、獰猛な獣のように口を開け、獲物を頭から飲み込んだ。


 さきほどからロザリアを、おかしくしている熱っぽさ。顔を火照らせ、鼓動を早まらせている何か──。理由はまだわからないけれど、そこから炎を連想することは容易かった。


 魔物を包む炎が消えたときには、僅かに残った灰が風に吹き飛ばされていくところだった。


「ほら! ご覧になりました?」


 ロザリアは声を弾ませながら隣を向いた。しかし、


「──危ない!」


 短い叫びとともに、素早く剣が抜かれた。


 視界の端で切っ先がきらめく。目の前の魔物に気を取られているうちに、他の魔物が迫ってきていたようだ。


 魔物が霧散したのをしっかりと確認し、副団長はロザリアに向き直った。


「油断するな」


 突き刺すような鋭い声音に、思わず肩がびくりと跳ねる。そんなロザリアを見た彼は、ハッとした様子で「すまない」と声を落とした。それから、気まずそうに咳払いをして続ける。


「……確かに、あなたが魔術に長けているのはわかった。だが、戦いには慣れていないのだろう? 見たところ、まだ若い」


 お説教だ。もしここで、しおらしくなってしまえば、騎士団本部に連れ戻されるだろう。そう察したロザリアは、負けじと言い返した。


「注意不足であったことは認めますわ。けれど、熟練の魔術師であっても、戦いに慣れていない方は多くいらっしゃいますわよ?」


 現代において、戦いに慣れている魔術師というのは存外少ない。様々な魔術を会得し、自他ともに魔術師であると認められる者の大半は、貴族だからだ。


 血筋から、高い魔力をもって生まれるのは貴族が多い上、財力のある貴族なら、魔術を学ぶ機会に恵まれている。そして、大概の貴族は危険な場所に身を置かない。


 王都にいる魔術師は皆そうだ。彼が助力を請おうとしていたのも、そんな魔術師たちである。


「……」


 副団長は言い返そうと口を開くも、何も言わずに目を逸らした。ロザリアは、ここぞとばかりに追い打ちをかける。


「それに、あなただって、『副団長』と呼ばれるにはお若いように見えますが?」


 背が高くて少々威圧感があるものの、まだ20代ではなかろうか。彼は痛いところを突かれたように苦々しい顔をする。図星のようだ。


 若くして副騎士団長などという騎士団数千人の中のナンバー2になるには、よほどの剣術の才と人望が求められただろう。そして彼がそれに足る人物であろうことは、出会ったばかりのロザリアにも感じ取ることができた。


 若いことが、ロザリアの助力を拒む理由にはならない。魔術の腕を認めてくれたのならば、わかってくれるはずだ。


 副団長殿は難しい顔をして、しばし唇を引き結んでから、渋々といった様子で目を合わせた。


「…………わかった。だが、決して私のそばから離れないように」


「は、! はい……!」


 真っ直ぐに告げられ、返事が裏返る。


 彼の言うことすること全てに、調子を狂わされてしまう。この人とは相性が合わないのだろうか。そう考えてはみたものの、胸がぎゅうと締め付けられて、心が勝手に否定してくる。


 他に理由があるとすれば──。


(人を、狂わせるもの……まさか、これが……!)


 ロザリアは息を呑んだ。いや、違う。そんなことを考えてはいけない。初対面の男性に慣れないだけだ。


 これが、恋、だなんて──。


「どうした? 行かないのか?」


 足の止まったロザリアを振り返り、彼が問いかける。


 もし、行かないと言えば、彼と会うのは、これきりだろう。これ以上調子を狂わされることも、きっとなくなる。そうすべきなのだろうか。ドキドキと、うるさい心臓の音が、警告を発しているかのようだった。


 けれど──


「……いえ、行きますわ」


 せっかく同行を許してくれたのだ。いち魔術師として、彼の信頼に応えなくてはならない。


 ざわつく感情に蓋をしながら、ロザリアは彼の後ろをついて歩いた。



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