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第10話 騎士と再び


 ロザリアを気絶させた張本人。さきほど出会った騎士を前にして、ロザリアは、よろよろと後ずさった。


「副団長殿!」


 近くにいた兵士が、ぴしりと姿勢を正す。どうやら彼は、騎士団のナンバー2であるらしい。


 副団長は兵士に目配せを返してから、形のいい眉を深刻そうに歪める。外はまだ良くない状況なのだろうか。彼が声を落として兵士と話す横で、ロザリアは無意識に耳をすませた。


「これから宮廷魔術師の助力を請いに行く。魔術障壁の修復ともなると、私たちだけでは手に負えん」


「魔術障壁の修復ですって!?」


 ロザリアは思わず声を上げた。


 しまった、とすぐに口元を手で覆ったものの、もう遅い。声はホールに響いてしまい、避難していた人々の中にざわめきが生じた。


 ロザリアのほうを向いた副団長の眼差しは鋭い。


「……声が大きい」


「すみません……」


 呆れたような声に、そう返すほかなかった。ロザリアは俯いて小さくなりながら、熱くなっていく頬を隠した。


 そんなロザリアを横目に、彼は兵士のほうへ向き直る。


「私が戻ってくるまでの間、手の空いた者には東門へ向かうよう伝えてくれ」


「はっ!」


 兵士の礼に見送られ、副団長は外套を翻し、足早に正面の扉から出ていく。


 あぁ、行ってしまう……。


 彼の背中を目で追いながら、ロザリアの胸は何故だか、きゅうっと締め付けられた。


(あの方と出会ってから、どうしてしまったのでしょう、わたくしは……って、いけない! ぼうっとしている場合ではありませんわ!)


 またもや目的を忘れかけていたロザリアは、我に返って彼の背中を追いかけた。


「お待ちになって!」


 ロザリアの声に、彼は立ち止まってくれたものの、


「すまないが、一刻も早く魔術師を呼びに行かなくては……」


 そう告げるだけ告げて、また歩き出そうとする。ロザリアは駆け足で彼の前に回り込み、行く手を阻んだ。


「それには及びません! 魔術師ならここにおりますわ!」


 胸に手を当てて己を指し示す。


「あなたが? しかし、一人では……」


「それも、お任せ下さい!」


 自信満々に言い切ると、副団長はようやくしっかりと足を止め、不思議そうな顔でロザリアを見下ろした。


「どうするつもりだ?」


「すぐに、お分かりいただけるかと」


 魔術障壁を直すために優秀な魔術師を呼びたいというのなら、手っ取り早い方法がある。わざわざ副騎士団長が王城まで走っていく必要はない。


 ロザリアは彼の視線を感じながら、早まっていく鼓動を何とか静めた。今は、魔術に集中するときだ。


 心地よい緊張感の中、ロザリアは両手を胸の高さまで持ち上げた。目の前の何もない空間を切り取るように、丸い輪郭を撫でていく。手の中に魔力を込めながら、ある動物の形を思い浮かべる。


 すると、魔力が光の塊となって、手の中に浮かび上がってくる。粘土で像を作るように、あるいは砂で城を作るように、輪郭を何度も指でなぞって、魔力の形を整えていく。


 そして仕上げに、ふうっと息を吹きかける。ロザリアが手を離すと──白く輝く一羽のフクロウが、透き通る羽をばさりと広げた。


 それは空中で一回転をして、ロザリアの差し出した腕に止まった。


 この場で「使い魔」を作り出したのである。


 使い魔は、術者の魔力をぎゅっと固めて動物の形にしたものだ。術者の意思に従って動き、戦わせたり、仕事をさせたりすることもあるが、それができる使い魔を作るには、それなりの魔力や時間が必要だ。


 今は小さな豆フクロウで十分である。ロザリアは、腕に止まらせた丸っこい使い魔に向かって告げた。


「『東門にて魔術障壁の修復にご助力願う』と、『魔術学院長』に伝えなさい」


 フクロウは「ホー」と一声だけ鳴いて、目的地へと真っ直ぐに飛んで行った。


 王国一の魔術教育機関の長ともなれば、もちろん宮廷にも顔が利く。そんな学院長── つまりはロザリアの父なわけだが──を呼ぶと聞けば、副団長も文句はあるまい。


「東門、でしたわよね?」


「あぁ……」


 彼は、ぽかんとした表情でロザリアをまじまじと見ながら答えた。鼓動が再び騒がしくなった。


「そ、それでは、わたくしたちも行きますわよ!」


「あ、おい!」


 照れ隠しに駆け出したロザリアの後ろから、副団長の咎める声が飛んでくる。


「私はまだ、あなたの助力を認めたわけではないぞ」


「でも、魔術師の助けが必要なのでしょう?」


 東門へ向かう道を足早に歩きながら二人は言い合う。


「魔物が潜んでいる可能性がある。さっきのように、また気絶させたくはない」


「あ、あれは決して魔物のせいでは──」


 そう言ったそばから、道の先に魔物が現れた。彼がすぐさま庇うように前へ出たが、ロザリアは隣に並んで立った。


「ここは、わたくしにお任せ下さい。天才魔術師の実力を見せて差し上げます!」


「しかし、武器も持たない市民に戦わせるわけには……」


 未だ渋る声に、ロザリアは顔を見上げて、得意げに笑った。


「ご安心なさって! 武器なら、ここに!」


 そう言ってロザリアは、ローブの袖をまくった。


 あらわになったのは、銀色の腕輪。赤い宝石が散りばめられたそれは、まさしく魔術師にとっての武器──魔道具であった。



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