第313話 旅立ち
神殿造りが着工し、3日が過ぎた、プレスカットされた木材が組立られて、神殿下部の軸組みが完了し、上部への組立に移行するため、順次、各階の床組と外部作業のための竹を使用した足場の組立が始まっていた。この神殿は木造建築として、この時代では最も高い50M【現代のビル15階ぐらいに相当】近い高さになる予定で、まさにこの世界の神が鎮座する神殿として申し分ない建物である。これは、イブが考えたことだが、中途半端な建築物はすぐに壊され、消えてしまう。なぜなら、何度でも造り治すことが可能だからだ。だが、この神殿はおそらく現代の技術を持ってしても簡単には造ることは難しいほどなので、この時代はもちろん、この先、この神殿を壊してしまおうと考えられないほどに大きく、美しくなければならない、そしてこの倭国安寧のため、降臨された神がおわす場所であることをここに来た全ての者に理解させる必要もあった。
「すごい。ここは、未来で私が知っている出雲神殿より、ずっと大きいな」
マリは、大きな神殿が造られているのを楽しそうに見ていた。
そこにユウキと共にレナードとドニーズが森から歩いて来た。
「局長!」
マリはドニーズ達を笑顔で迎えながら、
「レナード、だいぶ調子が良くなったようね」
レナードは、苦笑いをしながら
「まったく、この時代に来てから、色々とありすぎて、80歳の老人には、こたえました。ですが、しばらく休んだおかげで、体調も良くなりました」
「それは良かったわ」
レナードの隣で、久しぶりにあった局長に早く現状報告をしたいと思っているドニーズは少し前に出た。
「ところでドニーズ、倭国の現在の状況はどう?」
「はい、特に異常ありません。、我々の軍の強さのうわさが、さらにうわさを呼び、争いごとを起こすと天照の神軍が来ると信じられるようになっています」
「そう、それなら、安心ね。倭国、各所に配置している軍はどう?」
「もちろん、予定通りに機能しています。当初の計画通り、天照の神軍として、現地に入り、その地の民にさまざまな技術や医療などの援助をしながら、信頼を深め、力ではなく、共に力を合わせて生きていくことで、安定した国造りを始めています」
天照の神軍とは筑紫島(九州)で別れ、本当に倭国の平和維持ができるか、とても心配であったが、さすが、イブやユウキとの事前打合せにより、考案された国造りが、しっかりと機能し始めたことにマリは、ホットした。
ドニーズやレナードは、辺りを見渡しながら、未来に戻るための地下に設置される施設のことは聞いていたが、まさか、その上に、これだけの資材を利用して造られている神殿を見て、とても驚いた様子で
「それにしても局長、この神殿はとんでもなくでかいですね。しかも何ですか、この人数は、いったいどこから集めてきたんですか。しかも、森を広大に伐採して、周辺には神殿の材料が山のように置いてありますね」
その話を聞いていたイブが勝ち誇ったように
「どうだ、すごいだろう。この時代の木造建築では最大級の神殿建築だ。我々が眠る場所としてはいいカムフラージュになる」
レナードとドニーズは、中途半端なことを嫌うイブを見て、『まあ、こうなるよな』と思った。
「さて、今晩、みんなには地下の睡眠装置に入ってもらう。装置の起動は私が確実に行うから何も心配することはない」
マリは1800年近くも装置内にいることがとても気になるようで
「イブ、やっぱり、服を脱いで、中に入ったほうがいいんだよね」
「いや、服を着たままで問題ありません。装置内は、無重力のようになっており、体に全く負担をかけない仕組みになっています。また、装置内に入り、徐々に装置から発生される時空停止の機能がゆっくりと体に浸透し、そうですね。簡単に言うと、装置内だけ時間を止めるような感じになります。それと、装置内に入り、密閉されると、しばらくの間、意識があるため、ストレス軽減のため、中は360度スクリーンにしており、広大な草原の中にいるようにセットアップしてますから、閉所恐怖症の者でも、全く心配ありません。そして、装置に入っている者は、意識を失った瞬間に未来に着いたように感じるはずです。それなので、安心してください」
イブは、次から次へと質問されると思ったため、一気に装置の説明をした。
マリ達は、イブの装置が想像を超えていることに驚いた。
「すごいね。私はてっきり、裸になって、氷漬けにされて、眠るのかと思っちゃった」
イブはあきれた様子で
「数十年程度なら、問題ないかもしれませんが、数千年以上、装置内で生命を生かすのであれば、そんなことをすれば体内の細胞組織は破壊され、死んでしまいます」
「ふ~ん、そうなんだ。現代で、随分、冬眠装置の研究が進んでいるけど、考え方が基本的に間違っているんだね」
イブは、またマリの質問が始まらないうちに遮る様に、皆に説明を進めた。
「それと戻る時間ですが、この世界では、同一時間に同じ人間が存在することができない絶対的な法則があります。そのため、あのワシントンでの爆発事故から、ちょうど1か月後に目覚めるようにセットしておきます。そうすれば、我々を狙った襲撃者の部隊も解散しているでしょうから」
イブはユウキをちらっと見て頷くようなしぐさを見せて
「それと、歴史通りの世界であれば戻ったら、1年もしないうちにエイリアンの大軍勢が地球を侵略するために向かってきます」
イブは、このまま、全てを話しても良いのか、一瞬ためらったが、我がサターン人はもう存在しないのに、何をためらうことがある。今ではマリ達こそが我が仲間であろう。と自分に言い聞かせながら話を続けた。
「おそらく、地球人の兵器では全く太刀打ちができませんから、ユウキと私に考えがあります。それは、未来で再会してから、お話をします」
マリ達が、弥生時代で残した功績は、未来ではほとんどの人が知ることもないだろう。
時代と共に、かつての王や英雄、または争いの歴史、そして、倭国最大の、この出雲王国も人々の記憶から忘れさられていくだろう。だが、どんなに時が流れようが、その時代に、実際に起きた出来事は事実であり、現実である。人が人として生きていくためには、どんな困難にも、家族や仲間のために命をかけて立ち向かうのは、人間の本能である。ただ、便利な道具を手にした現代人には理解できないことかもしれない。
その日の、小夜にマリ達は静かに弥生時代から姿を消した。




