第312話 スサノ村の巫女
戦いが終わり、血みどろだったスサノ村は、王国からの支援と和解した周辺の村の強力もあり、みるみると復興していった。特に出雲王国の王となったスサノ村の元村長の力もあり、スサノ村は、かつての聖地として認められる場所に戻りつつあった。
また、巨大な神の神殿造りが始まったこともあり、村から王国の中心地としての発展も予定されるようになった。
マリとユウキはイネを仲間にするべく、スサノ村に訪れた。この前まで、戦場で、見るに耐えない状況であったが、たくさんの救援のおかげで、見違えるようにきれいになり、
特に新しくできた住居や救援物資などにより、村の人々は活気に満ち溢れていた。そして、この村を救ってくれた天照の神には、とても感謝していた。そこにフラッとマリとユウキが村の中に入ってきた。それを見つけた村の者は大声を出して、村の者を呼び、あっという間にマリ達は村人に囲まれてしまった。
「マリ様が来られたぞ~皆はやく出迎えだ~」
「マリ様、本当にありがとうございます。見てください。村もこんなにきれいになって」
イネのところに早く行きたいのに、村の歓迎する人が多すぎて、身動きができなくなってしまった。でも、みんな、あんな死にそうな顔をしていたのに、とても元気になって良かったとマリは、たまらなくうれしかった。
「これじゃあ、前に進めないなあ~」
「まあ、時間もあるんだし、少しは、みんなの気持ちに答えてあげなよ」
ユウキもマリに劣らず、村の歓迎を受けた。二人に対する村の歓迎ぶりはすごすぎて、いつまで経っても、終わりそうにないので、マリは3Mほどジャンプして、歓迎されている人だかりを飛び越した。すると村人は人では考えられない跳躍力に驚いた。
皆を見渡せるように大きな岩の上に着地したマリは大きな声で
「みんな~元気になって良かった。これからも、平和で安心して暮らせるところになるように、これからできる大きな神殿が、いつも見守っているからね」
群衆に埋もれてるユウキも岩の上に引っ張り上げて二人で皆に笑顔で手を振った。しかし、村人はマリ達に会えたのがうれしすぎたのか涙を流してうずくまるものや、急に踊りだす者や、ひざまずき頭を下げる者など、いつまで経っても興奮が止まらなかった。すると群衆のうしろの方から村人達に大きな声が響き渡った。
「いいかげん、みな、仕事に戻りなさい!」
村長の長女であるイナダがそこに仁王立ちしていた。現在は村長として、スサノ村をまとめており、以前はかわいらしい女性だったが、村の責任者になってからは、人が変わったように皆に厳しくしていた。自分が弱く無知だったため、いとも簡単に敵に連れ去られ、あと少しのところで村が全滅するところだった。そのため、イナダは統率者としてあらゆることを学び、皆を守れるように日々努力をしていた。イナダは出雲の王の娘であり、この村では絶対的な存在として認めれる存在になっていたため、皆はマリ達におじきをして、仕方なく復興作業の仕事に戻っていった。
「マリ様、ユウキ様、お待ちしておりました」
村の統率者として、顔に新しい入れ墨を入れ、きれいに髪をまとめ、白の着物に色どり豊かな勾玉を首から下げ、手首にも銀のブレスレッドをはめ、以前会った時のボロボロの着物とは全く違い、別人のようだった。
「イネ、こちらへ」
姉のイナダのうしろにいたイネが緑色の着物を身に着け、大きな荷物の袋を持って現れた。
以前は真っ白な着物に髪や首に小さな光玉を付けていたが、今は何もつけず、かつての巫女でなく、ずいぶんとさっぱりとした恰好をしていた。
「お久しぶりです。マリ様、ユウキ様」
イネは村人にも負けないくらい、うれしそうに屈託のない笑顔で二人に近づいた。
「元気そうね。イネ」
マリはイネの着物が気になるようで、ジロジロと見て
「なんか、いつもと雰囲気、違うね」
「はい、もう私はスサノ村の者ではなくなりましたから、皆と同じような着物は身に着けられないんです。それに、この着物は皆が、このスサノの森から取れたものを刷り込んでくれました。スサノ村の者ではなくなっても、この着物を着ているだけで心はいつも、このスサノ村とつながっています。だから、誰がなんと言おうが全く気にしません」
マリは、家族のようなスサノ村から引き離し、現代の日本に連れていくことに、あまり気が乗らなかった。そんなマリをイネは見て、誇らしげに
「マリ様、私も、村の皆もあなた様に返しきれない恩があります。それに、あなた様は、なんの見返りもないのに、必死でこの村、いいえ、この出雲を含めた倭国全土に争いのない世界を作り上げたのです。そのお方に仕えることができる私は幸せせすし、村の者も、誇らしげに私を見送ってくれました。だから、そのような悲しい顔をなさらないでください」
イネは現代で言えばまだ中学生ぐらいの年なのに、なんて、すばらしい気質をもった人なのだろう。いや、この時代の子供達は小さい時から親の仕事を手伝い、生きることの厳しさ、つらさを共に共有している。だから、自分が必要とされており、家族や村に貢献できていることに誇りを持っている。現代の日本の子供は勉強ばかりして、本当の意味での生きることについて、知らないものがほとんどであるし、まして、自分が家族や社会から必要とされているなんて感じることもできない。だから、自殺したり、精神的にやんだり、暇つぶしに、いじめをしたりするのだろう。なぜ、こんなすばらしい日本の先祖がいたのにこうも変わってしまったのだろうと、つぐづく考えさせられた。隣で心配そうにマリを見ているイネを見て、とても中学生には見えないし、まるで、歴戦の勇者のように堂々としており、そして、困っている人を自分のことのように思ってあげることができる。マリは、以前、祖母がなくなり、精神的に衰弱して、いじめられていた中学生の時の自分と重ね合わせていた。自分を信頼し、また、自分もその人の期待に応える、どんな厳しい状況になろうと、信頼できる人がいるだけで、どれだけ自分が頑張れたか、隣にいるユウキがあの時、現れなかったら、きっと自分も、どうしようもない人間になっていたかもしれないと思った。そして、マリもイネに負けないくらいの笑顔で
「イネ、これからよろしくね。きっと、あなたが想像もできない世界が待ち受けているけど、どんな時も、私たちは仲間だからね」
イネは、自分を仲間として、認めてくれたことに、感激して、涙を流した。そんな光景を近くで見ていたユウキは
『フ~、マリはどの世界でも、好かれるよな。なにしろ、銀河の英知と言われたイブですら、たらしこまれたんだから、全く、祖母のヤエもすごかったが、マリはもっとすごいな』
ユウキは苦笑いをしたが、自分もマリのことを任務を超えて大切な存在として思うようになっていることには、まだ気がつかなかった。




