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6月10日(火)
天気 《雨》
【雨が降っていました。あの日の天気も雨でしたが、今日の雨はあの日の雨よりも弱々しく、まるで彼女の涙のようでした。あの日からずっと彼女は後悔していたのでしょうか。ずっと一人で、抱えきれない想いを一人で、必死に自分の内に隠していたのでしょうか。どうしてあの人は】
6月9日(月)
◇――19時12分
「鳴海さん」
「うん」
「大丈夫ですか?」
「うん」
「本当ですか?」
「うん」
「…何食べますか?」
「うん」
「…………」
◇同日――20時24分
「鳴海さん、そこにご飯置いておいたんで食べて下さいね」
「うん」
「鳴海さん、明日また……彼女、森沢乃咲さんに会いに行きますが一緒に行きますか?」
「………」
「あの日の詳しい話を聞いてこようと思います。今日は、あれからろくに話が聞けませんでしたから」
「……そう」
「一緒に行きますか?それとも……やめておきますか?」
「…ここで待ってるよ。ここで、ちょっと一人で考えたい。いいかな?」
「……解りました。そのかわり、部屋の中、探らないで下さいよ」
「ふっ。大丈夫だよ」
6月10日(火)
◇――8時08分―学校、教室内
「ちぃーちゃーーん!」
「何?どうかした、一葉」
「裕太君の友達で伊達梓って子、知ってるよね?」
「知ってるけど…梓君がどうかしたの?」
「ちーちゃん、その子にケー番教えたって」
「そうだね。あ、その時裕太君とも流れでアドレス交換したんだった。ごめんね、一葉に言ってなかったね」
「それは別にいいんだけど、……てか何で謝るの?」
「自分の彼氏が彼女以外の女の子のアドレス知ってるのって嫌なもんなんじゃないの?よく知らないけどさ。あ、そうだ裕太君とは仲直りしたの?」
「あ、うん、まぁ、なんとかね、へへへ。…って、違うって!伊達君のことだよ!」
「なんなの……、一葉、ちょっとあんた落ち着いた方がいいわよ」
「ちーちゃんは何も解ってないっ!!」
◇――12時32分
「ちーちゃん、理解してないでしょ?」
「してるってば。一葉しつこい」
「駄目だよ、ちーちゃん。ちーちゃんだから、まぁ滅多なことは起きないとは思うけど」
「なんの心配よ。一葉、もうその話は解ったからさ」
「解ってないよ!聞けば伊達と会う約束してるんだって!?」
「……何で知ってるのよ」
「さっき裕太君からメールが来た」
「………はぁ」
「ちーちゃんっ、あのねぇ伊達ってのは」
「盛り上がってるねぇ、女子達よ。なんの話?」
「真知ちゃん!」
「何もないわ」
「千春、速効で私をのけ者にしたね」
「ホントに何もないの。このバカが一人で騒いでるだけ」
「ちーちゃん酷いっ!」
「いっちー、可哀想に……。私に全て話してごらんなさい。私だけは味方よ」
「真知ちゃん…、実はちーちゃんが」
「一葉」
「千春。千春が昔、氷の勇者と呼ばれ怖れられていた事は知ってるわ。でも、可愛い可愛いいっちーにその剣を振るってはダメ」
「……どこでそれを。……一葉?」
「えっ!?わ、わたしじゃないよ!違う違う!!」
「ふっふっふ。千春、私の情報網を甘くみないことね」
「おーい、なんやなんや、どーしたん?いつになく盛り上がっとるやん」
「菜美。いいところに」
「登菜美ちゃん」
「もういいって」
「もういいとは失礼やなぁ、ちーちゃん。なにカリカリしてん?」
「……めんどくさい」
「あのね、真知ちゃん登菜美ちゃん。実はちーちゃんに魔の手が迫ってるの」
「「魔の手?」」
「そう。ちーちゃん大ピンチ」
「魔の手て何なん?」
「実は、桜花学園に伊達梓って子がいるんだけど、ソイツがちーちゃんに」
「桜花学園!!!?男子校!!?きたぁぁぁーーーーーっ!!!」
「ま、真知ちゃん、ちょ、ちょっと」
「真知、落ち着きぃ!まだアレと決まったわけやないでぇ!」
「男子校ときたらアレしかないじゃない!燃える燃えるわぁーっ!むしろ萌えるっ!萌えろっ!!」
「…………」
◇――13時47分
「……はぁ」
「どうかしましたか?」
「いや…、もうすぐ放課後だなぁって思って」
「放課後になると何かマズイんですか?」
「マズイって事じゃないんだけど、ちょっと憂鬱な用事が」
「そうですか。頑張って下さいね」
「……頑張るよ………。ね、黒多君。黒多君さ、確か彼女いるよね?」
「いますよ。その節はお世話になりました」
「いえいえ。あのさ、もし彼女と別れたら落ち込むよね?」
「……酷いこと聞きますね。まぁ落ち込むと思いますよ」
「落ち込んだらさ、どうする?」
「どうするって……、ソレ、あんまり考えたくないんですけど」
「私を助けると思って」
「何でそんなんが助けになるんですか」
「今私を一番憂鬱にさせているものだから」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない、かも。どうしたらいいのか解らない」
「……まぁ、人それぞれだとは思いますけど、俺なら」
「そこの後ろ二人!」
「「……っ!」」
「前に出て問題を解け」
「「……はい」」
◇――15時37分
「掃除しなよ、あんた達」
「助けてぇ!ちーちゃんっ!」
「ふふふふふ、逃がさないわよいっちー」
「そうや。お昼の話の続き、聞かせてもらうでぇ」
「ああ、怖いっ。二人が怖いっ!!」
「……はぁ。掃除の邪魔だから一葉、それに登菜美は外に出てて。真知、あんたはちゃんと掃除しろ」
「嫌よっ!というか駄目よっ!何言ってんのよっ!今は掃除とかそんなもんにかまけてる時間なんてないんだから!!」
「そやでぇ。休憩中には聞けんかった、桜花学園男子校の秘密を……聞かなあかんからなぁ!」
「だから、登菜美と一葉は今日掃除当番じゃないんだから向こうでその話してたらいいじゃない」
「ちーちゃんっ!私を見捨てないでぇっ!!」
「一葉、口滑らしたあんたが悪いんだから自分で解決しなさい」
「ぢぃーーぢゃーーーんん」
「よし、いっちゃん。こっちでゆっくり聞こか」
「うぅぅ…」
「ちょっとコラ待て!抜け駆けは駄目よ!私だって萌え話聞きたいんだからっ!!!」
「まーちゃんは掃除やん。ちーちゃんと一緒に掃除しなあかんよ」
「菜美、言ったでしょ。私は掃除とかそんな雑用にかまけてる時間なんてない、って。そう、私には掃除なんかよりも大事なものがあるのよ。命の次ぐらいに大事なものがあるのよっ。そう!私が一番大事なものっ!それは、びぃ…っ痛!!」
「掃除」
「…っあんた、頭叩くとか止めなさいよっ!!しかもソレ、歴史の教科書だしっ」
「ちょうど落ちてたから」
「しかも落ちてたやつっ!?」
「ちーちゃんは最近イライラしとるなぁ」
「昨日が一番変だった。挙動不審ぎみだったし」
「なんなんやろな。なんかあったんか?」
「解んない。ちーちゃん悩みとかあってもあんまり相談してくれないし」
「淋しいんか?」
「どうだろ。淋しいのかなぁ……?」
「いっちゃん……。その話も含めて、こっちで話しよか」
「千春っ!お願い!行かせてっ!萌えが逃げるっ!萌えが逃げるぅぅぅーーっっっっ」
「逃げないし、お願いだから掃除してくれないかな」
◇――16時02分
「あ、良かった。まだいた。………如月っ」
「…何?」
「あ、いや、あの、高橋先生が呼んでる、ぞ」
「……解った」
◇――16時02分
「如月さん…」
「…?黒多君。黒多君も今から帰る所なの?私も今まさに帰ろうとしたんだけど、先生に呼ばれてさ。こっちは急いでるってのに」
「うん。まぁ。…あの、さっきのはあまりにも酷くないですか?」
「何が?」
「何が、って。さっきの田中に対しての態度ですよ」
「……?別に何もしてないけど」
「何も『して』はいないですけど。顔が凄いことになってましたよ」
「え?……あぁ、ちょっと掃除の時間がバカ共のせいで延びちゃってさ。苛々してたからそのせいかな」
「そうなんですか……」
「何?その微妙な顔は」
「あ、いえ」
「じゃ、私、高橋先生の所に行かないとだから。また明日」
「はい」
「………あ、そうだ。……ねぇっ、黒多君っ」
「……どうかしましたか?」
「あのさ、授業中に私が聞いたこと覚えてる?」
「徳川家康が何代目将軍だったか、ってやつですか?」
「や、それじゃなくて。その前の授業の時の」
「………あぁ、もし俺が彼女にフラれたら凄い落ち込むよね?っていう心にぐさっと突き刺さったえげつない質問のことですね」
「…うん、そうなんだけど。黒多君、大丈夫?」
「何がですか?俺がフラれるって事がですか?」
「く、黒多君。大丈夫、例え話であって、決して黒多君の事じゃないから。黒多君のところは大丈夫だって。ラブラブ何でしょ?」
「…………付き合ってても不安はつきないんですよ」
「……そ、そう」
「で、何でしたっけ?落ち込んだらどうするか、でしたっけ?」
「そ、そう!それ。黒多君ならどうする?」
「俺なら……、ふて寝するか気晴らしに何かするか……それか、アルコールとか?」
「アルコールは駄目でしょ」
「冗談ですよ」
「だよね」
「如月さん」
「何?」
「もしかして、彼氏できたんですか?」
「黒多君……、私にありえると思う?」
「ですよね…。いえ、万が一ってことがあるのかなぁ、と思いまして」
「万が一、ね。ありがと黒多君。参考になったよ。多分」
「多分ですか」
「じゃ、ホントにありがと。引き止めてごめんね。あ、まだ雨降ってるみたいだよ。じゃ」
「…………あっ、如月さんっ!」
「なにー?」
「あの、さっきの続きなんですけど……っと。あの落ち込むやつ」
「フラれたら?」
「それです。それ、ちょっとまだ続きと言いますか別口があるんですけど」
「何?」
「あの、」
―――――――
6月10日(火)
◇――16時40分
「すみません、森沢さん。少し遅れました」
「大丈夫よ。私も今来たところだから」




