2.5
「鳴海先輩、彼女いますよ?」
「だから狙っても無駄ですよ?」的な、私がいかにも『鳴海狙いの女』みたいな勘にさわる言い回しで梓が言った。
だから何?
それ、私にはなんの関係もないから、と梓を睨み付けてやりたい衝動をなんとか抑え「彼女?」と一応聞いてみる。
「はい。わりと長い付き合いなんじゃないかなぁ。結構なラブラブぶりみたいで」
「そうなんだ」
「だから鳴海先輩ってそんなに騒がれないんですよねぇ。ラブラブな彼女がいるから狙っても無駄、ってな感じで。まぁ、アレで彼女なしだったら絶対ランキングにはもっと上位に食い込むと俺は思うな」
「ランキングって何だよ?」
裕太が梓に聞く。
私も気になる。
だが、梓は誤魔化した。
「んー、まぁ、あれだ。あ、そうだ。如月さん、でしたっけ?鳴海先輩の事詳しく知りたいんだったら俺が鳴海先輩に色々聞いておきましょうか?直接本人に聞いた方が色々解ると思いますし」
「あ、いや、それは」
無理だと思う。
しかも本人、今ここにいるし。私は小さな小さな小人になってしまった鳴海をちらりと横目で窺う。
「ちゃんと然り気無く聞くから大丈夫ですよ」
「え?あー…と、そういう事じゃないんだけど…」
にこにこと笑う梓に、どうしたものかと困りながらも、じゃあ、と私はお願いすることにした。
ただし、鳴海本人には聞けないので鳴海の友人に聞いた方がいいとオブラートに包み、然り気無く臭わせておいた。
梓と連絡先を交換し、ついでというか流れで裕太とも連絡先を交換した。
できれば明日にでも連絡してくれれば嬉しい旨を伝え、その場を離れていく裕太と梓の背中を見送った。
その後、鳴海が起きるまで待つことなく私は鳴海をたたき起こし、まだ寝たりないのか目を擦り寝惚けている風な鳴海に家に連絡するように促した。
だが、「何で?」と眠気眼でぼんやり聞く鳴海に、まだ寝惚けているのかとひっぱたいてやりたくなる気持ちを抑え、能天気な鳴海に今の状況をちゃんと理解していないのかと説明。
すると、鳴海は家に住んでいるのではなく桜花学園の寮に住んでいる、という事がその時初めて判明した。
寮での生活なので家に連絡する必要はない、との事なのだがそれならそれで寮の方に連絡する必要はあるんじゃないのか、と鳴海に聞いた所、「大丈夫じゃない?」と、これまたあっけらかんとした口調で笑う鳴海に「連絡して下さい」と強く言い家に帰ってから私の携帯で連絡してもらった。
番号を覚えているか心配だったが、意外にも鳴海は寮の番号をちゃんと記憶していた。
電話の内容は解らないが、鳴海が寮に帰ってきていない事は騒ぎにはなっていなかったみたいだ。同室の子が上手く誤魔化してくれていたらしい。
「な?大丈夫だったろ?」
「そうですね。同室の方に感謝しないとですね。怒ってましたか?」
「うーん、まぁそんなには?俺が寮に帰ってないのは木曜からだし、すぐ週末だったからな。どっか泊まりに行ってるんだろうって思われたんだろ」
「タイミング良かったってことですね」
「ちぃにも会えたしな。タイミングばっちりだな」
にっこりと笑いこっちを見てくる鳴海に構わず「そういえば」と話題を変える。
「鳴海さん、高校2年生らしいですね」
「あれ?何で解ったの?」
「鳴海さんが寝てる時に桜花学園生に会って。その時聞いたんですよ」
なんとなく裕太や梓の名前は伏せておいた。
「その時一緒に聞いたんですけど、鳴海さん。彼女がいるらしいじゃないですか」
異種返しのつもりでにやりと笑いながら鳴海にそう言ってやる。どんな反応を見せるか楽しみに鳴海をじっと見てやるのだが、鳴海はきょとんとした顔をしたまま首を横に傾ける。
「俺、彼女なんていないよ?」
…………は?
6月8日(日)
天気 《晴れ》
【小人の名前は鳴海彩斗と言うそうです。初めから小人だった、というのではなく、気がついたら小さくなっていたという元は普通の人間の輩。しかも、あの桜花学園に通う生徒なのだそうです。びっくりですね。そしてめんどくさい事になりましたね。
何がめんどくさいのかって?それはもう、ありとあらゆる事がですよ。
まあ、一番はあの人の言っていることが、どこからが本当でどこまでが嘘なのか解らない、ということなんですが。
すべて冗談です。
っていうオチが、一番あり難いなって思ってしまう私は既に現実逃避に走ってしまっているのでしょうか……】
「はぁ……」
日記を閉じ、私は机の上項垂れた。




