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〔第二部 今日見た夢は〕
如月千春、鳴海彩斗の話。
6月5日(木)
天気 《大雨》
【私は今日とても小さな人間、いわゆる『小人』と総称して呼ばれる者の一人に会いました】
「やあ!」
「…………」
大雨が降る中、小人は濡れ鼠のごとくびしょ濡れになりながらもそれを気にした様子なく、元気に手を上げ私に話しかけてきた。
が、私はとりあえずソレには応えず無視をした。
驚いたり?
勿論した。
だが、こんな得たいの知れないものと関わるのは今もこれからも、この先何年経とうともごめん被りたい。この時は大雨も降っていたので余計にめんどう臭くなりそう思ったのだと思う。
私はその、一見『小さくなった普通の人間』に見えるその小人を見なかった事にしてその場を早々に立ち去った。
6月6日(金)
天気 《くもりのち、雨》
【今日は朝から目覚めが悪く、朝御飯もそこそこに家を出て学校に向かいました。何故目覚めが悪かったのか。それは夢見が悪かったからです】
学校に着いた私はふて寝するために自分の机に突っ伏す。すると、中学からの友達でありクラスメイトでもある橘一葉がゆっくりと不思議そうな顔で近付いて来た。
「ちーちゃん、どうしたの?寝不足?」
「…うん、まぁそんな所」
橘一葉。
少し陽に焼けて茶色がかった黒髪を綺麗に上に結い上げ、お気に入りらしい簪調の留め具で可愛らしく纏め上げている彼女は首を傾ける。
「なんかあった?珍しく塞ぎ込んじゃってさ」
「…………」
「体調、悪いんなら保健室行きなよ?まぁ、体調の問題じゃあなさそうだけど」
私は顔をあげて一葉をチラリと見て大袈裟にため息を吐く。
「誰のせいでこんなになってると……」
「なんか言った?」
「何も。それより、そっちはどうなったの?裕太君とは仲直りした?」
『裕太君』とは一葉の彼氏君で桜花学園というエスカレーター式男子校に通う中学3年生の可愛い系の男の子。少し前、裕太君からの告白で二人はめでたく付き合う事になったのだが、この二人、実はめんどくさい揉め事を抱えている。
「うっ、……まだ」
「ちゃんと話し合えばすぐ解決できる事なんだから、早い所そうした方がいいよ」
心底困った顔をして黙り込んでしまった一葉。
一度スレ違ったことを巻き戻して訂正するのは容易ではない。ましてやそれが一葉の苦手な『色恋沙汰』だなんて、一葉には荷が重いのも無理はないのかもしれない。
一葉がぐったりと体の力を抜いて私の机に顔を伏せてきた。
「……あの日、あんな余計な夢を見なきゃこんなややこしい事にはならなかったのかなぁー……」
『あんな夢』
一葉と裕太君が付き合う事の要因となった一葉の夢であり、『予知夢』と呼ばれる一種の不思議的深層心理体験。
だが、あの一葉の『予知夢』がなかったとしても、二人は付き合っていただろうなとは思うのだが。
「…………」
そして今まさにその『予知夢』が、私を苦しめている元凶の発端でもある。
そう。
私も今朝、予知夢らしき夢を見てしまったのだ。一葉と同じように。
「不思議なことって起きるもんなんだねー」
「…そうね」
できれば起きて欲しくないんだけどね。
放課後。
いつもとは違う帰路を歩きながら、私は先程近くを通りがかった屋店で買った、一つ105円のコロッケに口をつける。ほくほくした大きめのジャガイモがゴロゴロ入った揚げたてのコロッケは、晩御飯までの腹ごしらえにはもってこいだ。
美味しそうだったので買ってみたのだが大正解だった。
上を見上げる。
雨が降りだしそうな曇り空の中、私はスタスタと足速で家路につきながら今朝見た夢を思い出す。
今朝の夢にはあろう事か、昨日見かけたあの小人が出てきたのだ。それだけならあの小人の印象が強かったから夢にまで出てきてしまったのだろうと納得して、一夢として流してしまうのだが。
夢の内容。
そして、朝目覚めてからすでに何時間も経っているにも関わらず今だ鮮明に頭に蘇る夢の残像。
できるならただの夢であって欲しい。そう思う願いが強ければ強いほど、嫌な悪寒がゆっくりと体全体を侵食していく感覚に襲われる。
「…………」
絶対にあの『小人』に出逢ってはいけない。
そう感じて、昨日とは違う道を選び小人に出逢わぬようにしたというのに。
ああ、神様。
これは避けられぬ運命なのでしょうか。
そしてやはりあの夢は『予知夢』だったのでしょうか。
6日7日(土)
天気 《くもりのち、晴れ》
【昨日、家に帰ると部屋に小人がいました。最悪です。何故部屋にいたのか。どうやって入ったのか。どうして《ココ》にいるのか。そんな疑問はさておき。小人は具合が悪いようでした。一昨日、大雨に射たれたからでしょうか。顔が赤く熱があり、ふらふらして変なテンションがあり、そしてとても五月蝿かったです。小人の看病は骨がおれました】




