↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カーテシー・クラブ3 女帝陛下の思いつきで男たち八十人がウェディングドレス姿に!? 宮廷疑似結婚式イベント「花嫁作戦」始まります  作者: 真城 悠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/12

第3章 花嫁になる日


ソフィア・ドミトリエヴナ・レベデワ。

愛称はソーニャ。

十七歳。

ミハイルが予想していたより小柄だった。

淡い栗色の髪。

大きな瞳。

華奢な肩。

まだ少女らしさの残る顔立ち。


挿絵(By みてみん)


ソフィア「初めまして、ミハイル様」

ミハイル「初めまして」


挿絵(By みてみん)


何を話せばいいのか分からない。

実際に会ってみると。

――可愛い子だな。

くらいしか浮かばなかった。

困ったことに、本当に可愛かった。


ソフィア「あの……以前から、お話は伺っていました」

ミハイル「俺の?」

ソフィア「はい」

ミハイル「どういう話?」

ソフィア「とてもお優しい方だと」

ミハイル「それだけ?」

ソフィア「それから、何事にも一生懸命でいらっしゃると」


まだあるらしい。


ソフィア「あと……とても女性のお召し物がお似合いになると」

ミハイル「誰だ、それ言ったの」


ソフィアが思わず笑った。


ソフィア「申し訳ありません」

ミハイル「いや、君が悪いわけじゃないけど」

ソフィア「本当なんですか?」

ミハイル「何が」

ソフィア「その……お似合いになるというのは」

ミハイル「どう答えればいいんだ、それ」


ソフィアはまた笑った。

少なくとも、嫌な子ではない。

むしろかなり感じがいい。

ミハイルは余計に困った。


     *


数日後。

ソフィアは答えを自分の目で知ることになった。

通常のメタモルフォーゼ舞踏会。

ミハイルは深い青色の宮廷ドレスを着ていた。

髪も化粧も整っている。

もう本人にとって珍しい姿ではない。

振り返る。

入口にソフィアがいた。


ミハイル「……あ」

ソフィア「……」


ソフィアは固まった。


ミハイル「まあ、こういうこともあるんだ」

ソフィア「……」

ミハイル「驚いた?」

ソフィア「はい」

ミハイル「だよな」

ソフィア「すごく」

ミハイル「だよな」


ところが。


ソフィア「とてもお綺麗です」

ミハイル「……何で?」

ソフィア「え?」

ミハイル「いや、普通そこ違うだろ」

ソフィア「違うんですか?」

ミハイル「違うと思う」


ソフィアは真剣だった。


ソフィア「でも、本当にお似合いです」

ミハイル「……」

ソフィア「失礼でしょうか」

ミハイル「いや」


失礼ではない。

困るだけだ。


パーシャ「ミハイル様」

ミハイル「何」

パーシャ「口を開けたままです」

ミハイル「分かってる」


パーシャは横からソフィアをちらりと見る。

可愛い。

そして完全にミハイルを見る目だった。

パーシャは笑顔を崩さなかった。


     *


その頃。

ナターシャは、先日見かけた少年を捕まえていた。

少年の名は。

ユーリー・アンドレーエヴィチ・ベルスキー。

愛称、ユーラ。

十六歳。


ナターシャ「あなた、出てみたいの?」

ユーラ「……何にでしょうか」

ナターシャ「メタモルフォーゼの行事」


ユーラは一瞬で赤くなった。


ユーラ「ど、どなたからそれを」

ナターシャ「そんなことはどうでもいいでしょう」

ユーラ「よくないです」

ナターシャ「じゃあ、出たくない?」

ユーラ「……」

ナターシャ「出たくないのね」

ユーラ「待ってください!」


ナターシャが笑った。


ユーラ「……出てみたいです」

ナターシャ「そう」

ユーラ「一度だけでいいので」

ナターシャ「じゃあ、ちょうどいいわ」

ユーラ「何がです?」

ナターシャ「今度の特別行事、私も出ろと言われてるの」

ユーラ「ナターシャ様も?」

ナターシャ「ええ。ただ今回は最初から最後までペアで参加しなきゃならないのよ」


アレクサンドルには婚約者がいる。

ミハイルにはソフィア。

コーリャにはヴァリア。

ナターシャだけ相手がいない。


ナターシャ「あなた、私と出る?」

ユーラ「……いいんですか?」

ナターシャ「別にいいけど」

ユーラ「本当に?」

ナターシャ「ただし。私、当日は運営の方でも動くから」

ユーラ「はい」

ナターシャ「かなり放っておくかもしれない」

ユーラ「全然構いません!」

ナターシャ「まだ最後まで言ってないんだけど」

ユーラ「すみません」

ナターシャ「それでもいい?」

ユーラ「はい!」

ナターシャ「じゃあ決まりね」

ユーラ「ありがとうございます!」

ナターシャ「お礼を言うのは、終わってからにした方がいいかもしれないわよ」

ユーラ「え?」

ナターシャ「なんでもない」


     *


やがて。

参加予定者たちが集められた。

ミハイル。

アレクサンドル。

コーリャ。

ソフィア。

ヴァリア。

アレクサンドルの婚約者。

マリア・セルゲーエヴナ・アルセーニエワ。

愛称はマーシャ。

そして。

ナターシャの横にはユーラ。

ナターシャが前へ出た。


ナターシャ「さて」


ミハイルは嫌な予感がした。


ナターシャ「次の特別行事について説明します」

ナターシャ「今回は、ただの舞踏会ではありません」

ナターシャ「婚礼を模した祝賀行事です」


ざわめき。


アレクサンドル「誰の?」

ナターシャ「皆さんの」


沈黙。


コーリャ「ちょっと待って」

ナターシャ「待たない」

ナターシャ「男女一組で、婚礼を模した一日を過ごしていただきます」


ヴァリアがコーリャを見る。

ソフィアがミハイルを見る。

マーシャは、もう面白そうな顔をしている。


ナターシャ「もちろん、メタモルフォーゼですから」

ナターシャ「男性が花嫁」

ナターシャ「女性が花婿役です」


沈黙。


アレクサンドル「……本気?」

ナターシャ「本気」

コーリャ「俺、一週間後に本当に結婚するんだけど」

ナターシャ「ちょうど予行演習になるじゃない」

コーリャ「逆だろ!」


マーシャが吹き出した。

ヴァリアは頭を押さえた。


ミハイル「普通の女装なら、もういいよ」

ナターシャ「そう」

ミハイル「慣れたとは言いたくないけど、まあ慣れた」

ナターシャ「立派ね」

ミハイル「でも花嫁は違うだろ」

ナターシャ「何が?」

ミハイル「何かが!」


本人にも説明できなかった。

ただ。

「花嫁」と言われると。

何かが違った。

その中で。

ユーラだけは目を輝かせていた。


ナターシャ「嬉しそうね」

ユーラ「い、いえ」

ナターシャ「隠さなくていいわよ」

ユーラ「……はい」


     *


そして。

当日。

各組はまだ普段の姿のまま宮殿へ集まった。

既婚者には妻。

婚約者がいる者には婚約者。

普段なら夫だけが参加していた家でも、今回は「二人で参加せよ」と招かれている。


妻「あなたがいつもどんな目に遭っているのか、やっと見られるわ」

夫「今日はいつもとは違うらしいぞ」

妻「それなら余計楽しみ」

夫「楽しみにするな」


係の者が現れる。


係官「まず男性はこちらへ。女性はこちらへお進みください」


男女は一度分けられた。


     *


男性側の扉が開く。

そして。

全員が止まった。

白。

白。

白。

絹。

レース。

巨大なスカート。

ヴェール。

花飾り。

衣装掛けが何列にも並び。

その向こうにも。

さらに白。

まるで。

地の果てまで花嫁衣装だけが続いているようだった。


挿絵(By みてみん)


若い貴族「……嘘だろ」

別の貴族「これは……誰が着るんだ?」

ポーリャ「あなたたちよ」

別の貴族「全員?」

ポーリャ「全員」


どこかで誰かが息を呑んだ。


軍人風の男「普通のドレスだと聞いていたぞ」

グロモフ「誰もそんなことは言ってない」

年長の貴族「私は妻まで連れてきているんだが」

ポーリャ「ちょうどよろしいじゃありませんか」

年長の貴族「何がだ」

若手貴族「……このヴェール、顔まで隠れないのか?」

ポーリャ「隠しません」

若手貴族「隠してくれ」

ポーリャ「駄目です」


絶望の声が飛び交う。

ただ。


ユーラ「……すごい」


目を輝かせている者が一人。


若手貴族「君、嬉しいのか?」

ユーラ「えっ」

若手貴族「嬉しそうだぞ」

ユーラ「そ、そんなことは……」


あった。

かなりあった。


コーリャ「……俺、一週間後には本当に花婿なんだけど」

アレクサンドル「今日は花嫁だな」

コーリャ「うるさい」


ミハイルは。

一番近くの白い衣装を指した。


ミハイル「……これ」

ミハイル「これ、着るの?」

ポーリャ「何のために作ったと思ってるの」


周囲では、

冗談だろ。

せめて色を選ばせてくれ。

ヴェールは本当に必要なのか。

帰ったら駄目か。

そんな声が飛び交う。

ミハイルは。

久しぶりに本気で言葉を失った。


     *


一方。

女性側。

こちらには男性用の華やかな宮廷衣装が並べられていた。


マーシャ「まあ、楽しそう」

ヴァリア「あなた本当に平気なのね」

マーシャ「だって着るのは私でしょう?」

ソフィア「私、似合うでしょうか」

ヴァリア「大丈夫よ」

ソフィア「男らしく見えます?」

ヴァリア「……それは着てから考えましょう」


ナターシャだけは。

どんな衣装が用意されているか。

だいたい知っていた。


     *


そして。

まだ誰も着替えていない状態で。

一度。

男女全員が再集合した。


コーリャ「……えらいことになった」

ヴァリア「そっち、そんなに?」

コーリャ「白かった」

ヴァリア「何が?」

コーリャ「全部」

マーシャ「アレクサンドル、楽しみにしてるから」

アレクサンドル「何を」

マーシャ「花嫁姿」

アレクサンドル「楽しみにするな」

ソフィア「ミハイル様」

ミハイル「何」

ソフィア「楽しみです」

ミハイル「君まで?」


少し離れた場所では。


妻「あなた、いつもこんなことやってたの?」

夫「いつもはここまでじゃない!」

妻「本当?」

夫「本当だ!」


ざわざわした声。

笑い。

不安。

期待。

全部が混じっている。

係官が手を叩いた。


係官「それでは、これよりお支度に入ります」

係官「次にお会いになる時には、皆様それぞれのお姿で」


男と女。

再び別れる。


ヴァリア「じゃあ……あとで」

コーリャ「うん」

ヴァリア「その」

コーリャ「何?」

ヴァリア「頑張って」

コーリャ「何をだよ」

ヴァリア「花嫁」

コーリャ「お前な」


久しぶりに。

二人とも同時に笑った。

ミハイルもソフィアと別れる。


ソフィア「後ほど」

ミハイル「うん」


ナターシャはユーラに手を振った。


ナターシャ「ちゃんと逃げずに来なさいよ」

ユーラ「逃げません!」


そして。

扉が閉まった。

次に会う時。

全員。

別人のような姿になっている。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。