エピローグ 本物の結婚式
一週間後。
コーリャとヴァリアは。
本当に結婚した。
今度は。
ごく普通に。
もちろん。
宮廷貴族として十分に立派な婚礼ではある。
けれど少なくとも。
花嫁が男だったり。
花婿が女だったり。
八十人近い男が一斉に白いドレスを着たり。
そんなことはない。
コーリャは男性用の正装。
濃い色の上着。
整えられた髪。
いつもより少し大人びて見える。
そして。
ヴァリアは。
本物の花嫁だった。
豪華な婚礼衣装。
丁寧に整えられた髪。
装飾品。
これは。
本物だ。
ミハイルは少し離れた場所から二人を見る。
ミハイル「ちゃんと男に戻ってるな」
アレクサンドル「当たり前だろ」
マーシャ「でも少し物足りないわね」
アレクサンドル「何が」
マーシャ「コーリャの花嫁姿成分が足らないのよねー」
コーリャ「聞こえてるぞ!」
マーシャ「あら」
コーリャ「今日は俺が花婿だからな!」
マーシャ「分かってるわよ」
アレクサンドル「本当に残念そうに言うな」
ヴァリアも。
そのやり取りを聞いて笑った。
もう。
先日の話をされても。
顔をしかめない。
*
式は滞りなく終わった。
二人は夫婦になった。
その日の後半。
ようやく少し落ち着いた頃。
コーリャとヴァリアは並んで座っていた。
コーリャ「疲れた」
ヴァリア「花婿なのに情けないわね」
コーリャ「お前だって疲れてるだろ」
ヴァリア「少し」
ヴァリアが。
自分の婚礼衣装を見下ろす。
コーリャ「何?」
ヴァリア「いや」
コーリャ「絶対何かある顔だろ」
ヴァリア「大したことじゃないわ」
コーリャ「言ってみろよ」
ヴァリアは。
少し迷って。
笑った。
ヴァリア「本物の結婚式も、もちろん良かったわ」
コーリャ「うん」
ヴァリア「ちゃんと花嫁になれたし」
コーリャ「うん」
ヴァリア「でも」
コーリャ「でも?」
ヴァリア「刺激っていう意味では」
嫌な予感。
ヴァリア「この前の逆転結婚式の方が、ちょっと楽しかったかも」
コーリャは固まった。
コーリャ「……お前」
ヴァリア「何?」
コーリャ「一週間前まで、あんなに嫌がってたじゃないか!」
ヴァリア「そうだったかしら」
コーリャ「そうだったよ!」
ヴァリア「人は変わるものよ」
コーリャ「一週間で変わりすぎだ!」
ヴァリアが声を上げて笑った。
コーリャも。
しばらくして。
仕方なさそうに笑った。
*
少し離れたところ。
ミハイル「何かもう大丈夫そうだな」
アレクサンドル「そうだな」
マーシャ「次は誰?」
ミハイル「何が?」
マーシャ「結婚」
ミハイルが止まる。
アレクサンドルも。
ミハイル「……さあな」
マーシャ「何、その反応」
アレクサンドル「放っといてやれ」
それ以上。
誰も決めつけなかった。
ミハイル自身も。
まだ。
自分の未来を決めてはいなかった。
少し離れた場所には。
ソフィア。
そしてユーラ。
二人は。
あの奇妙な一日より前より。
少し自然に話すようになっていた。
まだ。
何かが始まったわけではない。
ただ。
少し話しやすい相手になった。
それだけだった。
*
ナターシャは。
少し離れた場所から皆を見ていた。
コーリャとヴァリア。
アレクサンドルとマーシャ。
ミハイル。
ソフィア。
ユーラ。
まだ若い。
まだ。
いくらでも先があるように見える。
この頃は。
誰も。
この奇妙な宮廷の日々が。
永遠には続かないなどとは考えていなかった。
次の舞踏会も。
次のドレスも。
次の騒ぎも。
当然のように来ると思っていた。
だから。
誰も気づかない。
こうして全員が揃って笑っていられる時間が。
いつか。
思い出になることに。
*
コーリャ「なあ、ヴァリア」
ヴァリア「何?」
コーリャ「一応聞いとくけど」
ヴァリア「うん」
コーリャ「もう花嫁役は俺にやらせないよな?」
ヴァリアは。
少しだけ考えた。
ヴァリア「それは陛下に聞いて」
コーリャ「お前なあ!」
笑い声が上がった。
その声は。
まだしばらく。
サンクトペテルブルクの宮廷に響いていた。
――『カーテシー・クラブ III オペラツィア・ネヴェスタ ― 花嫁作戦 ―』完




