第九話
京都へ向かう新幹線の中。
私の隣には、もちろんタロちゃんが座っている。
冷凍ミカン、まだ売ってるんだね。
懐かしいな。
タロちゃん、水滴が落ちてるよ。
でも、向かいのボックスシートに座っているのは、同じグループの女の子たち。
一つのスマホでネコ動画を見ている。
その場所に、里美はいなかった。
里美は、なぜか前田の隣に座っていた。
前田のグループに女子はいない。
さすがに隣で男と密着されるのは前田としても嫌なのかな。
誰かと前田が隣同士でイチャイチャしていたという噂がボーズ君の耳に入るかもしれないしね。
もしかしたら、私とタロちゃんもイチャイチャしているように見えるかのな?
ネコ動画に夢中になっている女の子たちをみると、思われてないよね。
少しは、チラ見するとか、無言で目配せするとかやれよ。
男女がミカンを食べてるんだぞ。
頼まれたからと里美は言っていたが、なんで前田は里美を選んだんだ?
向かい側のお見合い席に座る男どもは時間制を強いられている。
時間が来ると、強制的に待機している次の男性陣と交代させられる。
何だ、あの女王様システムは。
里美がミーグリのハガシ役にさせられている。
里美、それでいいのか? 前田に何か弱みを握られているのか。
有田とハナコは向かい合って座っている。
上手に有田が話を回しているみたいだ。
緊張していたハナコに、笑顔が浮かんでいる。
さすがだね。
緊張しているのは、どちらかというとハナコの前にいる男たちのほうだけど。
こっちは、巡回システムを取らないのかな。
やれば、貢物の八つ橋なんて、男たちから簡単に徴収できると思うんだけど。
八つ橋の下に小判が敷き詰められていたりして。
まあ、何処に行っても、誰といても有田は有田だね。
有田なら異世界に行っても、きっと生きていけるよ。
旅館につくと、前田と有田、ハナコが部屋に入ってきた。
前田のグループは紅一点、有田とハナコは紅二点だけど、同じグループ同士でも男と一緒に寝るわけにはいかないからね。
女王様と聖女、ヒロインの豪華な宮殿がこの狭い空間に出来上がった。
私たちは侍女か。
ドアの向こうから、男どもの話し合いが聞こえてくる。
誰が最初に声を掛けるかで、じゃんけんを始めたようだ。
かなり、白熱しているな。
それ、全部聞こえてるよ。
前田は、鏡を見て確認している。
そんなところで笑顔の練習するなよ。
ハナコはそわそわしている。
あのじゃんけんの必死さは、ちょっと引くけどね。
まだ慣れてないんだろうな。あんた、とんでもない美人なんだぞ。これからもっと苦労することになるんだろうな。
有田は、さすがだね。テレビのリモコンをいじっている。
「これ以上は見てられない、というか聞いてられない。いい? ドアを開けてあげても」
「いいよ。ちょうど、おととい見逃したバラエティーが始まる。地域差があるのって、こういう時便利だね」
誰もそんなの見ねえって、男どもは有田の顔を見たがってるんだよ。
それか、前田かハナコ。
これだけそろうと、目移りするだろ、しかし。
ドアを開けると、男どもがなだれ込んできた。
お前ら、その前に言うことがあるだろ。
女の子だけの部屋に入るときは「入ってもいいですか?」だろう普通。
それすらも分からないくらい、みんな舞い上がってるのが手に取るようにわかる。
高校生、最大のイベントだもんね。
「失礼します。入ります」
最後の男子生徒が一礼して入ってきた。
遅いよ。それ、最初に言うやつだ。
狭い女子部屋に、これだけ男子生徒が集まるとちょっと男臭いな。
まあ、私はタロちゃんで慣れているけどね。
困ったな。私はタロちゃんの所へ行きたいんだけど、抜けてもいいかな。
侍女はいなくても、大丈夫だよね。
里美がこちらをチラチラ見ている。
私は旅行前から里美の態度がおかしいのが気になっていた。
「里美、ちょっと外の空気を吸いにこうか」
里美が無言で頷いた。




