第六話
私はいつものように、タロちゃんと一緒に教室に入る。
登校時は手をつないでくれない。
朝、迎えに行ったけど、今日もダメだった。
やっぱりそこはブレないんだよね。
いつか、タロちゃんと手をつないでこの教室のゲートをくぐってやる。
「おはよう」
真っ先にタロちゃんは有田と挨拶する。
有田はタロちゃんのお気に入りだ。
でも、友達として、好きなだけだと思う。
私も有田と挨拶をかわす。
「おはよう。有‥‥」
よし。今日は留まることが出来たぞ。
「おはよう。何? 名前呼びは卒業した?」
「まあ‥‥そんなとこ」
こういうとこだよな。
有田の恐ろしいところは。
有田が受付嬢をしたら、その会社は業績が一割アップするんじゃないだろうか。
そのくらいの洞察力と人間的破壊力を持っている。
有田より美人、有田より笑顔が素敵な女性は、世の中に沢山いると思う。
でも、回数を重ねるごとに近づいてきて、気が付いたら有田は横に並んでいる。
そして、そのまま有田は滑るように前に進んでいく。もう追いつけない。
有田は相手を蹴落とそうとは思っていない。
みんなが有田についていけないだけだ。
有田を見てて、テストの点数が全てじゃないって痛感させられる。
東大生より、絶対有田だよね。
まあ、そこまで見抜ける面接官はいないと思うけど。
有田は誰に対しても、もちろんタロちゃんに対してもフラットに接する。
押しもしないし、引きもしない。
女の子なら、興味を持って接してくる異性に対して、普通何かしらのリアクションがあるんじゃないかと思うけど。
まあ、有田だしね。
よかったねみんな。
有田が思わせぶりな態度をとって駆け引きを始めたら、彼氏とられちゃうよ。
私もよかったと思うよ。本当。
有田はそのままでいてね。
だから、みんなは有田を大切にしている。
なんなら、彼女持ちの男の子も有田を大切にしている。
彼女である自分が一番で、有田は二番目に大切な友達だから大丈夫ってみんな思っているんじゃないかな。
彼女たちに嫉妬されずに、みんなから大切にされる。
ちやほやされる一歩手前で、とどまっている。
何だ。あの隠れ女王状態は。
かくいう私も、タロちゃんにとって有田は二番だと思っている。
一番はもちろん私だ。
だからといって、うかうかしてはいられない。
タロちゃんはまだ、女の子を異性として好きになったことがないはずだ。
私の知る限り。
それで手遅れになる前に、私はさらに自分磨きをすることにした。
無自覚な有田に、無自覚なタロちゃんが奪われてしまう。その前に、頑張らないと。
自分磨きはかなりうまくいっていると思う。
最初は何から手をつければいいのか分からなかった。
どうすればいいんだろう?
煮詰まってしまった私は、親友の里美に聞いてみた。
みんなに好かれるのではなく、嫌われない。相手に嫌な気持ちにさせないことを一番にする。
流石、里美。いいアドバイスだ。
まあ、有田の二番煎じと言ってしまえば、そうだけど。
これが正解なのだろう。
人の悪口は絶対に言わない。
最初にしたことはそれだった。
簡単なようで、かなり難しい。
どれが地雷になるか分からないからだ。
生まれつきカンストしている有田とは違う。
私は俗物的な人間だ。
そこから、嫌な思いをさせないための方法を学んでいった。
里美が協力してくれて、「今のは、ちょっとまずかったよ」と注意してくれる。
本当に里美はいい奴だ。今度、アイスを奢ってあげよう。
クラスの女の子たちも、私がタロちゃん一筋なのを薄々知っている。
だから、自分の彼氏たちが私に近づいてきても大丈夫だと思っている。
私も近づいてきた彼氏たちにちょっかいを出すようなことは絶対にしない。
でも、本当に大丈夫だと思っているのかな?
世の中には二股、浮気という言葉があるのに。
まあ、私の方で完全にシャットダウンするけどね。
彼氏たちに好かれるのではなく、彼女たちに不安な気持ちを抱かせない。
これだよね。
私は男をもてあそぶ嫌な女の子には、絶対ならないようにする。
そんな馬鹿なことをしたら、タロちゃんとは一生幼馴染のままだ。
タロちゃんの気を引くために、私が彼氏を作ったとしても離れていくことはないだろう。
ずっと私の隣で、幼馴染のままでいてくれるだろう。
応援してくれるかもしれない。
でも、それは駄目だ。
せめて、彼氏を作ったら、私から離れてほしい。
ちょっとは私にも『実は意識していたんだ』と思わせてほしい。
わがままかな?
そんな絶望的な未来を迎えないよう、私はタロちゃん一筋を貫き続ける。
タロちゃんに彼女ができるまで。
そして、その彼女は私であることを願って。
タロちゃんがキョトンとした顔で私を見ている。
私は首を横に振って、『ううん。何でもない』と意思表示して席へ向かった。




