第五話
いつものように、私はタロちゃんと手をつないで商店街を歩く。
図書室で調べ物をしたせいで、帰宅時間が遅くなってしまった。
修学旅行で立ち寄る京都のお寺を調べていたからだ。
自由行動が出来るのはいいけど、その場所の歴史などを調べてレポートにまとめないと立ち寄ることが出来ないのは不自由だ。
何でもかんでも勉強に結び付けようとするのは、この学校の悪いところだ。
おかげで、行きたかった京都水族館や京都タワーを候補から外すことになってしまった。
歴史と伝統がないからだ。百年経たないと、水族館に行けない。
テンションダダ下がりだ。
タロちゃんと行きたかったな。水族館。
こんなイベントがないと、幼馴染として水族館デートなんてできやしないんだから。
ほんと学校は何を考えてるんだ。
何だその年代物観光地縛りは。私に対する、いやがらせか。
学校は、恋する女子高生全員を敵にまわしたぞ。
結局、最終候補は清水寺になった。
飛び降りてやろうか。
まあ、近くに買い物できるところや、楽しそうな観光スポットがあるからいいけど。
これって、絶対デートだよね。
タロちゃん、京都でも手をつないでくれるかな。
無理かな。
公園でキャッチボールをしている女子高生がいる。
うちの高校の制服だ。
スカート短いけど、スタイルいいな。手足が長い。
「誰だろ?」
「前田さんだよ」
「そうなんだ。タロちゃん、視力いいね」
タロちゃんは、女子高生のスタイルや、ちょっとした個性的なしぐさで判別できる。
別に、いやらしい目で見ていたわけじゃないよね。
遠目で見てるから、私には誰だか全然分からなかった。
その前田は中学生くらいの男の子とキャッチボールしていた。
あっ、男の子が取り損なって、ヘディングした。
普通、こういうの男の子の方がうまいはずなんだけどね。
前田、手加減してやれよ。
男の子が転がったボールをとりに、こちらに走ってきた。
私は足元に転がってきたボールを取ろうとして、腰を少し落とした。
左手はタロちゃんとつないだままだったので、引っ張られたタロちゃんの右肩が下がってしまう。
私は慌てて立ち上がったが、ワンテンポ遅れてタロちゃんの右肩が元に戻ったので、まるで二人でウエーブをしているみたいになってしまった。
やっちまった。
ちょっと、恥ずかしい。
私は手に取ったボールを、走ってきた男の子に渡した。
「ありがとうございます」
男の子は、ずっと手をつないだままの私たちを不思議そうに見ている。
前田も、ニヤニヤしながら近づいてきた。
「何だよ。見せつけるなよ」
しまった。前田がいたんだっけ。
ここは開き直るしかないな。
「幼馴染は、手をつなぐものなんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、タクミ、お姉ちゃん達も手をつなごうか」
「やだよ」
タクミ少年は拒否して、手を後ろに組む。
「あっ、こいつタクミ。弟」
「ふーん、この辺に住んでるの?」
「タクミはね。近くにパパの家があるから。私はママと住んでるから、こっちじゃないんだ」
これは、触れちゃいけない奴だ。
気まずい。
タロちゃんも、会話に加わってよ。
「弟君とキャッチボールなんて、仲がいいんですね」
前田が弟君の頭をポンポンする。
頭! さっき、お前がボールをぶつけていたところじゃないか。
「まあね。こいつ、私に似て頭はいいんだけど、スポーツが苦手で。ちょっと、鍛えてやろうかってね」
ボールぶつけて、頭悪くなるぞ。
前田スパルタだな。
でも、なんでキャッチボールなんだ。
サッカーとかの方が、ボールだけ用意すればいいのに。
なんでだろう。
そうか。そういうことか。
「うん。キャッチボールしたいよね。野球部に混ぜてもらったりとかして」
「なっ、何言ってるの? ほら、タクミ行くよ」
逃げるように前田が走っていく。
タクミ君も会釈して、前田を追いかける。
ちょっと、意地悪だったかな。
「野球部って、何?」
鈍感なタロちゃんは、前田が野球部の坊主君とキャッチボールをしたがっていることに気づけない。
タロちゃんだもんね。
来るべき坊主君とのキャッチボールのために練習するなんて。前田、健気じゃないか。
ついでに弟君とも遊べるし、まあ、ちょっとスパルタだけどね。
やっぱり前田は、ただもんじゃないな。
「ねえ、タロちゃんちの晩御飯は何?」
「さあ」
オレンジ色になりかけた空を見上げながら、私たちは再び歩き出した。
もちろん、手はつないだままだ。




