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第三話

 いつも通り私はタロちゃんと二人で教室に入る。


 本当は手を繋いで入りたかったけど、ずっとタロちゃんに拒否され続けていた。


 私のこと女の子だと意識していないのに、周囲の目はとても気になるらしい。


 もっと意識しろ。私は女の子だぞ。

 



 中学の時、皆にからかわれてから、タロちゃんとは教室で一度も手を繋いでいない。


 でも、帰りの商店街では手をつないでくれる。


 私が幼馴染の関係性を前面に出して強引に手をつなぐのだけれど、タロちゃんは嫌がるそぶりをみせない。


 ずっと、手をつないだまま商店街を歩いて行ける。


 八百屋のおばさんも肉屋のおじさんもニコニコ笑顔で見守っていてくれる。


 幼馴染はサイコーだ。




 ギャルの前田がタロちゃんを目ざとく見つけ、近づいてくる。


 コイツは、タロちゃんを狙っている。


「ちょっと、宿題で分からないところがあるんだけどぉ」


 みえすいた嘘を、あんた頭いいでしょ。バカなフリするのは男受けがいいから?


 「俺が教えてあげるよ」と、前田の取り巻き達がピラニアみたいに集まってくる。


 お前らじゃ、前田に勉強を教えられないって。前田は頭がいいんだから。それが分からないのか。


 あっ、前田が今舌打ちした。


 このギャルは、思い通りにならないと、すぐ不機嫌になる。


 あんた、別にタロちゃんのこと、好きじゃないでしょ。


 ただ、イケメン高スペックのタロちゃんが自分になびかないのが気に入らないだけでしょ。




 この前田だが、実に賢い。


 校則ギリギリを攻めまくっている。


 薄い紫のヘアカラーにして注意されると、皆と同じ茶髪に戻した。


 でも、少しだけ皆より綺麗な明るい色をしている。


 前田、いい美容室に行ってるな。


 それに、受験で視力低下したことをいいことにカラコンを入れている。


 黒目がちょっと大きい。


 それが、目立たないレベルだと思っているのか。


 まあ、普段伏目がちにしているし、教師たちも女子生徒の目をのぞき込むようなことはしない。


 いま、厳しいからね。そういうの。


 先生も大変だね。




 そんな事、お構いなしにじっと顔を覗き込むのはタロちゃんくらいだ。


 繰り返すけど、可愛いから口説いているわけじゃないからね。


 絶対に誤解しないで。


 顔のパーツを覚えようと、タロちゃんは一生懸命になっているだけだからね。多分。


 そのタロちゃんも、ギャルの前田の顔は既に覚えているようだ。


 以前のように、じっと見つめるようなことはしない。


 それがまた、ギャルの逆鱗に触れているのかもしれない。


 もっと私を見ろと。




 前田が上目遣いでタロちゃんを見つめる。


「数学なんだけどぉ」


 カラコンの威力、半端ないな。


「どうしたの?」


 不思議そうにタロちゃんは前田の顔を見返す。


 前田の方が先に照れて、視線を外した。


「何でもない。もうちょっと、自分で考えてみるね」


 前田が、席に戻っていく。


 にらめっこはタロちゃんの勝ちだ。


 ごめんね。タロちゃんはあんたの顔をもう覚えちゃったから。


 まあ、当たり前だ。


 目の周りにマジックで落書きしたような化粧をしていれば。


 タロちゃんが真っ先に覚えた生徒のうちの一人だ。


 みんなの事、覚えるの苦労したもんね。




 アイドルグループみたいに、メンバーごとにイメージカラーとかで分けてくれれば判りやすいのに。


 あれ、いい目印になるよね。


 色分けしてチョーカー、リストバンドにしてくれれば。


 でも、病院の入院患者みたいか。


 私は何色がいいかな。


 タロちゃんは何色が好きなんだろ。


 これは、幼馴染の私でもわからないな。派手なショッキングピンクが好きじゃないのは知っているけど。




 でも、まあ前田の派手な化粧はクラスの男受けもよくなるし、タロちゃんにとっても判りやすい記号になる。


 軽い陽キャラ男子を、前田は一手に引き受けてくれる。


 おかげで二番目に可愛い私に降りかかることはほとんどない。


 でも、なにより幼馴染のイケメンのタロちゃんがいることが、一番の防波堤だとは思うけど。


 まあ、意外とギャルの前田はいい奴かもしれない。


 タロちゃんにちょっかい出すのさえなければね。


 でも、それも本気じゃないことを知っている。


 確か、前田の本命は隣のクラスにいるって噂で聞いたことがある。


 隣のクラスの野球部だ。


 ピッチャーじゃ無かったよね。どこを守ってるんだっけ。補欠だったかな。忘れた。


 でも、坊主頭を狙っているなんて、前田やるな。


 長髪イケメンじゃなく、エースピッチャーでもなく、そこはしっかりしているんだね。見る目あるじゃん。


 冗談ぽく「一番の推しだよ。これで、私の好感度が上がる」とごまかしているけど。あれ、本気だよね。


 見てて分るよ。


 お互い、頑張ろうね。


 応援しているよ。




 そんなわけで、ギャルになびかないタロちゃんは実に平常運転だ。


 何事もなかったように、席に向かう。


 そう、タロちゃんはミニスカートから覗く太ももには負けないんだから。


 香水だって苦手だし、ギャルの胸はまあ、少しだけ見てたかな。


 私だって、胸あるよ。ギャルにはちょっとだけ負けるけど。ほんのちょっとだけ。


 四捨五入すれば同じなんだから。誤差だよ。


 そんなわけでギャルの前田がちょっかいかけてきても、私のライバルにはならない。




 私のライバルは別の所にいた。

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