十六話
卒業証書を抱えた私は、タロちゃんを探す。
タロちゃんは目を離すとすぐいなくなる。
あっ、あそこにいた。
タロちゃんは桜の花びらがゆらゆらと落ちていく様をひとりで眺めていた。
いつから、そこに立ってたの?
『優しいけど、ちょっと変わった男の子』は健在だ。
「タロちゃん!」
私は声を掛ける。
私は振り向いたタロちゃんの制服のボタンを確認する。
ボタンは全てついていた。
よかった。
タロちゃんの元へ駆け寄ろうとする私に、前田が声を掛けてきた。
「いた、いた。一緒に記念撮影をしようぜ。有田たちも押さえてあるから」
前田とは、たまに『特大パフェの会』をする間柄だが、特につるんで歩くような仲ではない。
有田もそうだ。独占すれば、ヒンシュクをかう。
ハナコがいなくなってからも、私たちは適度な距離感で付き合っていた。
「行こう。タローも一緒に。男でも、お前は特別だ」
何が、特別なの?
校門前の絶景スポットで有田たちが待っていた。
有田はブレザーの前を全開にしていた。
ボタンが全てはぎとられている。
お前は男子学生か?
巨乳だと、ブレザーの開き方が半端ないんだな。
前田が化粧をした里美をまじまじと見る。
「最後の最後で、話題を全部かっさらいやがって。男どもが、見逃していたと悔しがってたぞ」
里美が気まずそうに微笑む。
分かってる。里美は男の気を引くために化粧したんじゃない。
これは、里美なりの卒業の儀式だ。
「ほんと化けたね。女は魔物だと言われるけど」
有田が魔物なんだよ。
里美は、化粧映えする。
私は知っていたが、クラスの男子生徒にとっては衝撃的だっただろう。
突然、雑誌で見るモデルが目の前に現れたのだから。
タロちゃんが少しそわそわしている。
化粧をした里美だよ。
中身は変わらないから、安心して。
タロちゃんを中心に、私と有田が両サイドの位置に立つ。
さらに前田と里美、豪華なハーレムが出来上がった。
写真を頼まれた男子生徒の顔が少し引きつっていた。
「ありがとう」
撮り終えると、前田がスマホを受け取った。
それから、駆け付けた男女入り乱れてツーショット撮影会が始まった。
一番人気はやはり有田だった。
続いて前田かと思いきや、里美がそれを上回った。
彼氏のいる前田より、美人になったフリーの里美だよね。
男子の数だけで言えば、里美は有田と互角だったんじゃないかな。
男たちって。
ちなみにタロちゃんと一緒にいる私には、三、四人での撮影はあったが、男子からのツーショットのお誘いは一度もなかった。
もちろんタロちゃんをツーショットに誘う不届き者な女子もいない。
タロちゃんが男だけの集合写真に呼ばれた。
私たちを締め出すなんて、相変わらずこのクラスの男どもの行動は読めない。
一人になった私の元へ有田が来た。
「あんた怖い顔してたぞ」
「えっ、私が?」
「タローを誘う勇気のあるやつはいないよ。誘えるとしたら、前田。それに私かな」
「有田、タロちゃんを誘うの?」
「心配? そんな顔すんなよ」
私は、どんな顔をしていたんだろう。
「わちゃわちゃした、この空間も今日で最後だね。私は、この漂っているような空間、空気が好きだったな」
「漂う?」
「そう。別に流されるわけでもなく、進むわけでもなく、ね」
「うーん。漂うか。私とタロちゃんとの関係もフワフワしていたもんね。でも、少しは進展したかったかな」
「進展?」
「うん」
有田の前だと、素直になれる。
「初めから進展してるじゃない。私の入れる隙はなかったぞ」
「えっ、何? 有田もタロちゃんを本気で狙ってたの?」
冗談っぽく言ってみる。
「あれだけの男だ。別におかしくないだろ」
「‥‥‥」
「でも、最後まで私は『みんなの有田』だった」
「‥‥‥」
「私は別の場所で、見つけるよ。近所にちょっといいなと思ってるのがいるんだ。私の事『お姉ちゃん』と呼ぶ、まあ弟みたいな奴なんだけど」
知らなかった。
でも、タロちゃんだから。
「タロちゃんのこと、取らないでね」
「もう、取らないよ。私も前田も。でも、気をつけな。タローは無自覚なダイヤの原石だから」
「‥‥‥」
「まあ、タローが女の顔になびくことはないと思うけどね」
「知ってた、の?」
「もちろん。全てを掌握する有田さんだよ」
やはり有田だった。おまえ、総理大臣になれ。
「でも、胸はチラチラ見てきたかな。そこは気をつけな。あいつ、大きいのが好きみたいだから」
私の胸を見ながら有田は言った。
有田~っ。




