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十五話

 結局、クレーンゲームでぬいぐるみをゲットすることは出来なかった。

 みんなから集めた大切な三千五百円分のコインは底をつき、私たちは途方に暮れる。

 初めは両手に花だとか軽く騒いでいたが、次第にコインの減りと共に、口数が少なくなっていった。

 悲壮感が漂うなか、最後のクレーンはぬいぐるみを引き上げることもできずに終わりを告げた。

「大丈夫だ」とタロちゃんが財布を取り出す。

「私も。これ、使ってください」

 ハナコがカードを取り出す。

 何かそれ、色が黒いんだけど。

 白髪交じりの店員がやってきた。

「もう、やめなさい。子供のうちから、そういうギャンブル中毒になるのは、だめだよ」

 店員さんはいい人で、事情を説明するとぬいぐるみをただでくれた。

 「稼がせてもらったから」 と笑っていたが、ハナコの方をチラチラ見ていたのを知っている。 

 ハナコは別におねだりをしたわけではない。

 前田なら、得意の上目遣いを繰り出していたところだけど。

 何もしないでぬいぐるみをゲットできるハナコって何なんだ。

 ハナコの対象上限は、一体どこまでなんだ?

 白髪交じりまではクリアしているのは分かったけど。


 男集めの餌にされるハナコの将来が見える。

 ハナコ、近づいてくる女友達は、ちゃんと見極めるんだぞ。

 ハナコを餌にして男を手に入れた後、今度は危険人物として隔離される。そんな未来が見えてしまう。

 ハナコはお前たちの彼氏を石に変えるメデューサじゃないぞ。

 私がいる間は、守ってやるからな。

 タロちゃんも相変わらずハナコを見ているが、石になることはない。

 ハナコの圧倒的なオーラをも遮断するタロちゃんのサングラスは健在だ。


 学園祭当日。

 突然、人形劇は中止になった。

 ハナコがスウェーデンに帰国する日取りが決まったからだ。

 おばあさまの容態が急変したらしい。

 ジュリエット三姉妹改め、ハナコジュリエットひとりへの大告白大会に変更された。

 ハナコの帰国がみんなに説明されると、お祭りの火が消えた。

 ハナコがいなくなる。心に穴が開くというより、心がしぼんでしまったようだ。

 もう、お祭りには戻れない。

 ならばと、最後に思いを伝える大告白大会になった。

 『アドリブ上等。尺も自由の無制限一本勝負』の煽り文句はまだ生きている。

 前田の入れ知恵だ。

 あいつは、男を奮い立たせるすべを知っている。

 前田はハナコに「あとはよろしく」と言うと、いつの間にか消えていた。隣の坊主君の所へ行っているのだろう。

 前田、お前も頑張れよ。


 男たちが縫いぐるみをバトン代わりにして、次々とハナコへ告白していく。

 『好きだ』どころか『結婚してくれ』というやつまで出てきた。

 その婚姻届け、どうやって用意したんだ。

 コンビニでゼクシィを買ってきたのか?

 この短時間に、お前は前田の男版だな。

 丁寧に文字が書き込んである。まあ、修正液が光っていたのは笑ったけど。

 詰めが甘いな。まだ前田の足元にも及ばない。


 ハナコはひとりひとりの言葉に耳を傾け、丁寧に『ごめんなさい』をしていた。

 別れ際に、ぬいぐるみ同士でチューをする。

 バトン代わりにぬいぐるみを持たせたのがまずかった。

 男子との距離をあけさせるために、ハナコにぬいぐるみを抱きかかえさせる。

 そこまでは女性演出家ナイスと思ったが、今回は男子が上手だった。

 断られた最初の男子が、ぬいぐるみをつかってチューをさせてしまったのだ。

 そんなもの、みんなが後に続くに決まっている。 

 普通、チューは告白が成功したときだけだぞ。

 チューをさせようとして、ぬいぐるみを持つ手が震えた男の子がいた。

 それを見て笑ってる女子もいたけれど。こんなの見せられると、もうやめさせることは出来ないよね。


 今回、里美は本格的にハガシの仕事をしていた。

 茶番だと分かっていても、真剣な男たちの表情を見ると笑えなくなる。

 里美、大変な仕事してるね。

 ハナコも決して流れ作業にはしない。

 アイドルのミーグリ・握手会もこんな感じなのかな。

 ふと、そんなことを思った。

 長時間、一瞬も気を抜けないまま告白が続いていく。

 アイドルが痩せていく理由が、とてもよく理解できた。


「お疲れ、大変だったね」

 ハナコが、教室わきのベランダで崩れるように座っていた。

「はい。大変でした。みなさんの熱量がすごくて。これはもう逃げられないと、覚悟を決めました」

「凄かったよね。あれは。絶対に手を抜けないよね」

 有田が飲み物とお菓子を差し入れする。

「はい、どうぞ。このお菓子、蜂蜜入りでカロリー高いけど、今のハナコにはこれくらい必要だから」

 有田、恐るべし。


 商店街の帰り道。

 私の左手はタロちゃんと繋がっている。

 右手にはハナコがくれた角のあるウサギのぬいぐるみがひとつ。

 タロちゃんも、男たちが告白に使った同じぬいぐるみを持っている。

「今日、すごかったね」

「うん」

「ハナコ、いなくなると寂しくなるね」

「うん」

 私はぬいぐるみを正面に持ち替えて、

「お前もご苦労さん。大変だったね。今日、何回チューした?」

「そうだね。今日一番のモテヒロインだ」

 タロちゃんが不意に私の持つぬいぐるみの顔に、タロちゃんのぬいぐるみをぶつけてきた。

 タロちゃんは頭突きのつもりでやったのかもしれない。

 でも、ウサギの角を避けようとした結果、顔と顔が当たってたよ。

 私はファーストキスを奪われたような錯覚を覚えた。


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