第十四話
私たちはゲーセンに来ている。
メンツはタロちゃんとハナコだ。
別に遊びに来たわけじゃない。
学園祭でやる人形劇に使うぬいぐるみをゲットするためだ。
安くてSNSで話題のぬいぐるみということで、クレーンゲームの中にある角の生えたウサギが選ばれた。
全員から百円ずつ徴収して、軍資金は今、三千五百円ある。
これで、クレーンゲームに挑戦する。
このぬいぐるみ、買えば二千円以上する。著作権が絡むとどうしても高くなるよね。
バッタもので安いのがあるけど、可愛くない。それに犯罪に手を貸しているようで嫌だという意見が出た。日本の未来は明るいぞ。
クレーンゲームのコーナーに向かうが、何故か周りのみんなが道を開けてくれる。
ハナコのビジュ凄まじいな。私だって、それなりに可愛いんだけどね。
「どれですか? あの、ピンクの奴ですか?」
「多分そう、だと思う。SNSで今、流行ってるやつだから」
「それで、あってる」
タロちゃんが確認して、スマホの画面を見せてくれる。
「似たような色だね」
「そうですね」
「でも、みんな同じ顔をしてる。表情だけでも変えればよかったのに。もしくは色違いにするとか」
「えっ?」
まずい。ハナコがなんか感づいた。
このぬいぐるみは微妙に目の位置が違う。
何種類もあって、それが微妙な表情になって、かわいいと人気になってるのに。
「クレーンゲーム、前田呼べなくて残念だったね。得意だって言ってたのに」
「弟君とのキャッチボールを優先しろって言ったのお前だろ。前田さん、やる気満々だったのに」
「そうだっけ、でも家族は優先しないと。タスク君、いい子だったじゃない」
「弟さんとキャッチボールをするのが好きなんですか? 前田さんて、家族思いなんですね」
色々、まずいぞ。前田んち、複雑だし。前田も、あまり知られたくないよな。
「ハナコ、化粧室行こうか。ちょっと、メイク落ちてるよ」
「えっ、ハナコさんって、化粧しているの?」
「えっ?」
さらにまずい。お願いだから、タロちゃんは黙ってて。
「ハナコ、行こう」
私は強引にハナコの手を引いた。
化粧室でハナコがじっと見つめてくる。
「知ってるんですよね。タローさんの症状」
「ハナコも気づいちゃったよね」
「はい。おばあさまが同じ相貌失認なので」
病名まで知ってらっしゃる。
「十年前に暗殺未遂事件があって。一命はとりとめたんですけど、その時の頭のケガで軽い相貌失認の症状が出るようになったんです」
暗殺未遂事件って、どこの国の出来事だよ。ああ。スウェーデンか。
「大変、だったんだね」
「はい。それで相貌失認について、色々調べました。タローさんは事故ではないんですか?」
「生まれつき、だと思う。私が知る限りでは」
「そうですか。軽い相貌失認なら周りが理解していれば、そんな問題にならないはずです」
そう。知っていれば‥‥‥軽い症状なら別にたいしたことじゃない。
認識するのにワンテンポ遅れたり、時間がかかるだけだ。
「タローさんには、自覚症状がありますか?」
「ないと思う。他人に興味がないから、顔を覚える気が無いって思ってる」
「他人に興味がない、ですか。あれだけ、優しい人なのに? そうですか‥‥‥病気だと知らないんですね」
どうする? 口封じするわけにはいかないし。何が正解だ。
「他に知ってる人いますか?」
「いないと思う。もしかしたら、有田が気づいてるかもしれないけど」
「あの人は、特別ですもんね。おばあさまが知ったら、連れて帰ってこいと言いそうですもの」
やはり、そうなのか。有田、恐るべし。
「一人で、大変でしたね」
「まあ、幼馴染だし」
「私、協力しますよ」
「ハナコ‥‥‥」
「私、おばあさまで色々対処法知ってますし。大丈夫です」
「でも‥‥‥」
「私たち、友達でしょ?」
ニコッと笑ったハナコは、天使だった。




