第十三話
「はい、メイド喫茶ですね」
出たよ。定番が。
タロちゃんが黒板に『メイド喫茶』と書き込む。
女子は可愛い服、着たいよね。
でも、教壇に立っている私は、みんなを見渡せる位置にいる。
乗り気じゃない男子たちの表情ときたら。
ハナコや前田がゴスロリの服を着て接客したとしても、自分たちは客になれない。
分かってるんだ。喜ぶのは他のクラスの男どもだけだと。
ほかのクラスの奴だけが、ハナコ、前田、あと有田か。この三人とイチャイチャできる。
ハナコたちが「美味しくなーれ♡」と言っているのを厨房から見て、面白いわけないだろ。こいつら、器が小さいんだよ。
自分たちが、ゴスロリハナコとイチャイチャしたいんだよ。
「他に、何かありますか」
私は男女の温度差を感じながら皆を見渡す。
なんで私が、学園祭の実行委委員をしなきゃならないんだ。
まあ首席だと思われているから、しかたないか。
本当の首席のタロちゃんも、私の隣で板書しているし。
逆なんだけどね、本当は。
でも、タロちゃんと二人の実行委員か、悪くはないな。
「劇なんかどうでしょう。白雪姫とか」
おーっと、男子たちから声が上がる。
「ロミオとジュリエットも。あと、なにがあるかな…‥‥」
何だ何だ、男子たちが急に盛り上がりだしたぞ。
「まて、お前ら。今、検索するから」
そこの男子、休み時間以外スマホ禁止だぞ。
「ゴースト、アメリ、それから、いまさらキスシーン‥‥‥」
男子たちが読み上げた奴を睨みつける。
女子も、理解して冷たい視線を投げかける。
なるほどね。キスシーンのある劇を検索してたのね。
もろのタイトルがある劇名を言っちゃダメだろ。
例え、本当のキスは出来ないとして、抱きしめることは可能だ。
というか、抱きしめないで、キスシーンは無理がある。
間近でキス顔を見ることもできる。
考えたな奴ら。
出来るのは同じクラスの自分たちだけ。同じクラスの特権を最高に利用したな。
でも、お前ら前のめりすぎ、女子が引いてるぞ。
「それ、ハナコがヒロインになるの?」
女子から不満の声があがる。
まあ、人選はそうなるよね。
ハナコがきょどってる。
「いや、創作で。ジュリエットを三姉妹にすることもできるんじゃないかな」
三姉妹って、それ露骨過ぎるだろ。
有田と前田が嫌そうな顔してるぞ。
「いっそ、女子全員をジュリエットにしても」
まずい。私にまで火の粉が‥‥‥タロちゃん助けて。
「王子様も増やそうぜ。お前ら抜け駆けは無しだ」
だから、何を抜け駆けするんだ。
隣でタロちゃんが手を挙げる。
「はい。どうぞ」
私は冷静を装って、タロちゃんを指名する。
「劇は衣装や、小道具。舞台装置など作るのが大変だと思います。それに、教室を舞台にするには狭すぎるかと、現実的ではないと思います」
女子から拍手が沸き起こる。
よし。
「そうですね。もっと、現実的なものでお願いします」
私の議長権限で却下してやった。
「じゃあ、ワンシーンだけでも」
だから、どのシーンがしたいんだよ。
結局、人形劇になった。
市販のぬいぐるみを使う。
舞台は教壇の上を利用し、最小限のセットを組む。
予算も時間も、大幅に絞ることが出来る。妥協案だ。
女性陣もまあ、反対できなかった。押し切られた形だ。こういう時の男子の結束はすごいな。
まあ、うちは『第一回、かわいい女の子クラス一決定戦』をやり遂げたクラスだもんな。
劇のタイトルは『三姉妹のジュリエット』。ロミオはどこに行った?
脚本は文芸部の部長をしている奴が選ばれた。もちろん部長は男だ。
ジュリエット三姉妹に、各国の王子様役の男子生徒たちが告白するという内容だ。敵対する家柄とかはどうなってるんだ?
クライマックスは三姉妹のうち一人を選んで、自国に連れ帰るために王子たちが告白していく。三行のモノローグで状況説明して、あとはクライマックスの告白が八割をおさめるらしい。告白は、アドリブOKだそうだ。
文芸部部長は脚本というものを、ないがしろにしている。
原作無視のストーリー、昨今のアイドル映画でもここまでしないぞ。
しかも、『アドリブ上等。尺も自由の無制限一本勝負』って。煽り文句が間違っている。
もしかして、 『第一回、かわいい女の子クラス一決定戦』のタイトルを考えたのはお前か?
文芸部の部長が男子たちによって英雄扱いされている。
胴上げでもするつもりか?
ハナコたちを守るため演出担当は女子が奪い返したが、この脚本でどうしろって言うんだ。
無茶苦茶だ。お前らの思い出作りかよ。
それに付き合ってあげようとしている女子たちに感謝しろ。
でも、タロちゃんは王子役に立候補しなかった。
彼女がいない男子としては珍しい。
どさくさに紛れて、立候補しようとして彼女に怒られた奴もいるのに。
彼女に涙目で睨みつけられ渋々手を下したお前、尻に敷かれてるな。
まあ、私もタロちゃんが他の女の子を指名して告白するところなんか、嘘でも見たくない。
タロちゃんは、ジュリエット三姉妹の誰にも告白しない。
これだけは、本当によかった。
タロちゃん。
いつの日か、私を指名してね。
待っています。




