最終話
高校時代、毎日おしゃべりをしていた里美とは、もうしばらく会っていない。
専門学校を卒業した里美は、プロのメイキャップアーティストとしてバリバリ仕事をしている。まあ、アシスタントとしてだけど。
師匠は優しいけど厳しい人だそうだ。よくわからないけど、里美が一生ついていく人を見つけた。それでいい。
卒業してから数回あったが、里美はいつもばっちり化粧をしていた。
自分の顔は、メイキャップアーティストにとって、最高のカンバスであり名刺だそうだ。
同業者が見れば、その技量が一発で分かってしまう。
相手になめられたら終わりだと師匠に最初に言われたそうだ。
その師匠は、派手なピンク色の髪をしていた。
とてもよく似合っていて、勝気な性格まで分かってしまう。
この師匠は強いな。
里美もその強さを身に着けられるといいね。
有田は短大を卒業したら、本当に主婦になってしまった。
相手は近所の八百屋さんの一人息子だ。
結婚式でその新郎に会ったが、少し気弱に見えるけど優しそうな人だった。
雰囲気がちょっとだけタロちゃんに似ていた。顔は違うけど。
有田なら、気づいているよね。
でも、有田が二番目で妥協するはずがない。
タロちゃんより優れたところが沢山あるのだろう。私は認めないけど、
有田は結婚式のヘアメイクを里美に頼んだが、断られたそうだ。
「一生に一度のメイクを半人前の自分がするべきではない」だそうだ。
里美が師匠に直談判した。
普段、モデルや芸能人の相手で超多忙な師匠なので、一般人のメイクをするのは実に三年ぶりだそうだ。
よく引き受けてくれたと思う。里美が可愛がられているのか、有田に何かを感じたのか。多分、両方だと思う。
八百屋さんの息子に永久就職と言っても有田だ。小さな八百屋がスーパーに名前を変えて、いずれ全国にチェーン展開をするかもしれない。
有田なら、やりかねない。
将来、やり手社長として有名になった有田が、雑誌のインタビューを受けるようになるかもしれない。そのとき、端の方にヘアメイクとして里美の名前が書きこまれてるのを想像するのも楽しい。
前田は大学在学中からスポーツライターとして活動を始めた。
元々、フットワークの軽い奴だった。
自分サイドへ相手を引き込む力は天下一品だ。
美貌に磨きがかかっている。里美から、美容法など色々タダでアドバイスしてもらっているらしい。
まあ、美人のインタビューを断るスポーツ選手はいないよね。
自分のことを理解している前田は、このままプロとして突き進んでいくだろう。
数ある文筆業のなかで、どうしてスポーツを選んだかというのは言うまでもない。
坊主君の影響だ。
その坊主君は、社会人野球へと進み、今年のドラフト候補になっている。
前田が坊主君のインタビューをする日も近いかもしれない。
まあ、坊主君の自伝ならいつでも書けると思う。
ネタは高校から、ずっと書き溜めていることだろうから。
それこそ家族しか知らないようなことも、前田は全て知っている。
ハナコはスウェーデンの第三皇子と婚約した。
連日、ロイヤルウェディングがニュースになっている。
世界がハナコを見つけてしまった。
ハナコだけ、やはりスケールが違う。
式の招待状が昨日届いた。
『特大パフェの会』のメンバーにも届いているらしい。
パートナー同伴可のところに、手書きのアンダーラインが引いてあった。
分かってるよ。連れて行くから。
急いでパスポートを用意しないと。
今度、タロちゃんと取りに行こう。
そのタロちゃんは、今年大学院生になった。
変わり者の教授がタロちゃんのことを、いたく気に入っているらしい。
タロちゃん曰く、教授は『研究に没頭すると周りが全く見えなくなる人』らしい。
あのタロちゃんに言われるなんて、どんな教授だ。一度会ってみたい。
食事も忘れて栄養失調になり、一度緊急搬送されたことがあると言ってた。
学会でも『文献を食べる仙人』で通っているらしい。
大丈夫か? その教授で。
途中で、タロちゃんが研究を引き継ぐことにはならないだろうな。
タロちゃんが倒れないよう、食生活は私がきちんと見てあげないと。
そのタロちゃんも、大学院生になってから、さらに外出しなくなった。
お互い大学生の時は、博物館や美術展、工業機械の展示会などデートと呼べるかもしれないギリギリの‥‥‥いや、デートだ。私たちは、楽しんでた。だから、これはデートだ。二人でデートをした。
そのタロちゃんが、今は日焼けなしの真っ白だ。私より白いかもしれない。
男が美白をして、どうする。
イケメンなんだから、それ以上目立たないで。
大学を卒業した私は、設計事務所に就職した。
スーツをばっちり着こなした私は、キャリアウーマン風だ。
化粧はほとんどしてないけど。
この会社は小さいけど、新人教育がしっかりしている。
面接で、戦力として育てようとしているのがよく分かった。
だから、この会社を選んだ。間違ってはいなかった。
私は一級建築士になるのが夢だ。
将来の新居を自分で設計したいと思っている。
タロちゃんの好みは全て知っている。
住みやすい家を作るからね。
たくさん作りすぎてしまった煮物のお裾分けをしようと、タロちゃんのアパートへ向かう。
煮物はタロちゃんの大好物だ。タロちゃんのお母さん直伝だ。タロちゃん喜ぶぞ。
私の前を歩いていた女子高生が、タロちゃんの部屋の前で立ち止まった。
あれっ?
女子高生はポケットから取り出した鍵を、ドアノブに差し込もうとする。
私は心臓を鷲掴みにされたような気がした。
「あの‥‥‥タロちゃん‥‥‥」
女子高生は、私を見てから、ドアを開けて中へ向かって声をあげた。
「ママ、お客さんだよ」
その女子高生は、母と二人で最近引っ越してきたという。
この部屋は二人の物だった。
つまりタロちゃんは、アパートを追い出されていた。
更新手続きをおこたり、管理会社の再三の連絡にも気づかず無視した結果、更新しないと判断されたらしい。
タロちゃんは荷物をトランクルームに預け、大学で寝泊まりしていると言った。
大学教授もたまに寝泊まりしているようで、問題にならないという。
そこは問題にしろ。
いつから? ねえ、それいつから?
それ私に相談することだよね。
そんなわけで、私は今シェアハウスに住んでいる。
同居人は一人。
幼馴染はサイコーだ。




