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第1章⑨ 社長 VS 娘&メイド

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[前回までのあらすじ]


仕事の失態を社長である父にどう言い訳をしようか思案するコルネリア。

しかしそれを見透かした父が館に訪れる情報が届いた。


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同じ街ではあるが、少し離れたところにある本宅から手紙が届いたらしい。


「それはそれは」

「そんな他人事な」

「他人事ですから」


冷たい言葉を発するメイドが仕事に戻ろうと動くと、その袖をコルネリアが力強く掴む。


「逃げられるとでも?」


嫌な笑みで縋り付く銀髪の美少女。

コルネリアも白金の華と称される才女ではあるが、父は国有数の会社を運営する大商人だ。

経験値が違いすぎてまだまだ相手にならない。


唯一の弱点におびえる少女を引きずるように館の廊下を進む。

フレーデグラフにはまだまだせねばならない仕事があるのだ。


「何かある時は本邸へ呼び出すお父様が、わざわざ別邸に来るのよ」

「前回来られた時は……」

「やめて!あれはトラウマなの!」


自分がやりたくない仕事を勉強だと大量に置いていかれた記憶。

数日眠れなかったなと、フレーデグラフも肝を冷やした。


「どうやら私は歓迎されていないようだね」


歩く廊下の曲がり角の先から声がした。

二人の足がぴたりと止まり、縫いつけられたかのように動けなくなった。


顔を見合わせ一瞬のアイコンタクト。

付き合いの長い間柄からの高速意思疎通。

コルネリアが小走りで廊下を曲がる。


そこにいたのは四十代半ばであろうか、品の良い紳士であった。

ブラウンの髪をオールバックに流し、口髭を薄く蓄えている。

後ろには初老のバトラーが行儀よく立っており、視線を床に落としていた。


「お父様!ご無沙汰しております!」


駆け寄ったコルネリアが嬉しそうに軽く抱き着き、誰だお前という甘えた表情でみつめる。


「社長、ご壮健でなによりです」


一度深々と頭を下げたフレーデグラフが、誰だお前という朗らかな笑顔でみつめる。

白黒乙女の笑顔でやり過ごそう作戦だ。


「ふたりとも一段と女性らしくなったね。

 成長が早くて寂しいくらいだよ」


ニコニコとしているが、目の奥が笑っていない。

再び短いアイコンタクトで、作戦失敗を共有した。


「さ、さあお父様こちらへ」


手を取り一番豪華な来賓室へ向けてコルネリアが歩き出す。

親子の邪魔にならぬよう、いつもより距離を空ける従者達。


「フレーデグラフ様」


メイドの耳元で社長に同行していたバトラーが囁く。


「どうされましたミース殿」

「……これからされるであろう旦那様のお話は断って頂いても結構です。

 エーウィッヘイト家にはなんら関係のないことです」


年齢こそ父娘以上に年の離れた二人だが、ミースはフレーデグラフの関係会社、それもかなり下の商社の出自だ。

それゆえにエーウィッヘイト内での家柄を上げる為にすり寄ってくるのだ。

まるで彼女の身を案じているような演技をしながら。

人を値踏みするような態度がどうも好きになれないフレーデグラフは、眉をひそめた。


「ご心配ありがとうございます。

 しかしながら私の主はコルネリア様です。

 その決断に従うだけです」


少しだけ歩調を速めたメイドの後ろから、明確な舌打ちが聞こえた。

妾の子供が調子に乗るなということだろうが、なれた差別を無視した。


フレーデグラフはエーウィッヘイト家の本妻の子供ではなく、当主が設けた側室の子供である。

しかし本妻の兄姉も本当の妹のように愛してくれ、この屋敷に移り住んでからも手紙のやり取りが止まることはない。

フレーデグラフもたまの帰宅を心待ちにしているほど関係は良好だ。

人間の本質を見ず名前だけを見ている愚か者がと、心の中でミースを侮蔑した。


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