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第1章⑩ 消えることのない傷と、終わることのない謝罪

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[前回までのあらすじ]


謎の荷物の情報が集まらないまま悩むコルネリアとフレーデグラフのもとに、父であり社長である現当主が現れた。


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「さあお父様、おかけになってください。

 今お茶をご用意します」


辿り着いた来賓室でスカートの裾を持ち上げ、完璧なカテーシーを行う。

愛らしい娘をしばらく堪能した後、父がお茶を断って座るように指示をする。

そしてミースを退室させ、フレーデグラフには残るように伝えた。


「君も座りなさい」


その言葉に、ああこれは巻き込まれたのではなく私も対象なのだ、フレーデグラフはそう覚悟をした。

逆にコルネリアが見せたことのない表情でメイドをみている。

私の不手際で巻き込んでしまったのではないかと。


「お父様!フレーデはなにも!」

「コリー心配しなくていい。

 なにも罰を与えようと来たわけではない」

「……はい」


三人が同じ目線で対峙する。

父の前で不安な少女と、いつも通り感情が読めないメイド、そしてそのふたりを試すかのように見る当主。


「我が国マルクトとラート国の関係をどう思う?」


問われたコルネリアが返答に詰まる。

自分の失態を隠したいわけではなく、あまりにもデリケートな問題であり軽々しく話せないのだ。

父を待たせない範囲で返答を脳内でシミュレーションし、端的に答えた。


「いつ戦争が起きても驚かない状態です」


結局は簡潔に言うしかなかった。

しかしそれは正解だったらしく、父が頷く。


「ではフレーデグラフ。

 もう少し詳しく説明をしてくれ」


恐れながら、そう一言頭につけてメイドが答えた。


「両国は長らくにわたり友好な関係を築いてきました。

 それは現在も変わらず、国家間では良好な状態です」


父が満足そうにさらに頷く。


「しかしながら国民感情は悪化の一途を辿っています。

 国とは国民の集まりです。

 互いの政府、軍部、共に無視は決してできません」


フレーデグラフの説明が終わると、思わずコルネリアが口を開く。


「しかしお父様。

 あのようなことがあったのですから致し方ないかと」


十年ほど前にラート国の鉱山から鉱毒水が流出し、河川に流れ混む事故が発生した。

重金属を含む水は下流に住むマルクトの民を汚染した。

大量の死者を発生させ、今なお後遺症に苦しむ人も多くいる。


「ラート国は多額の賠償金、その上に生涯にわたっての治療を約束し、実行をしている。

 彼らの国では税金が上がって大変だそうだ」


腕組をした当主が、自分の言葉に難しそうに顔をしかめる。


「そこまでの事をしてくださっているのですね」


コルネリアが思わず発した言葉。

間違ってはいない、商人としては。

身を削り金を出すことは何事にも増す謝罪だ。


「ではコリー。

 フレーデグラフがその毒で死んだとして、十分なお金をもらったら許すか?」


迂闊な言葉は父により戒められた。

商人としての自分と友としての自分が心のなかで混ざり合わず、思わずフレーデグラフを見た。

その綺麗な横顔が失われたとしたら私は。


「いえ、生涯にわたって許すことはできません」


考えるだけで体が冷え、深いところが小さく震えた。

人として立派に育ってくれている娘に瞳を細めながら、その手助けをしてくれている少女に父は声をかけた。


「フレーデグラフ。

 コリーが飢えるほどの金銭的謝罪をしているのに責め続けられたらどうだ?」

「不快です」


眉ひとつ、視線ひとつ動かすことなく即答をする。

しかしそこから三人の言葉が消えた。

どの立場の感情も理解ができた。

だからこそ何も言うことができない。


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