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「商業ギルドへようこそ。ここでは商品の買い取り、販売の他、サブジョブのお仕事の斡旋などをおこなっております。お客様のサブジョブは……奇術師ですね! 街の奇術師に弟子入りを斡旋できますがいかがでしょうか」
「ん? なんか、奇術師のチュートリアルを始めますかって出たけど……」
『受けても受けなくても問題ありません。攻略サイトでは、チュートリアルはいつでも受けられるようになっていると記載されています』
「じゃ、ええか」
『ではチュートリアルは受けずに、【ゴルゴンの蒸留酒】を一本と、【白酒マン】を十個購入してください』
「はいはい。じゃあ買い物で、ゴルゴンの蒸留酒と白酒マンください」
「かしこまりました。ゴルゴンの蒸留酒は一本4万トル、白酒マンはひとつ千トル、合計で五万トルになります」
「え、全財産……? ま、ええか」
栗栖は無一文になることを少しだけ懸念したが、気にせずに買った。ゲーム内の通貨が無くなっても特に問題は無いだろうと思ったからだ。
購入を伝えると、何もないカウンターテーブルの上にウィスキーのようなガラスのボトルと、大きな肉まんが現れた。その後にチリン、と音が鳴り、メニュー画面を見ると所持金がゼロになっている。
『アイテムは、腰元へと近付けると自動的にアイテムボックスへと入ります』
「ほう……おお、なるほど。そんで、メニューから確認できるんやな」
『はい。では購入後、再度商業ギルドのギルド員に話しかけ、【工房を買いたい】と伝えて下さい』
同じ兎耳の女性に工房を買いたいと伝えると、困ったような顔になり、お断りされた。
「申し訳ありません、現在王都ネリスティアでは市民権を持たない渡り鳥の方へ、土地建物の販売はおこなっておりません」
「断られてんけど?!」
『では再度【工房を買いたい】とお伝え下さい』
すでに断られているのに、と思ったが、栗栖はマンジュウの言う通り、もう一度工房を買いたいと伝えた。
「そこをなんとか」
「そう言われましても……ネリスティアの規約ですので、そういったことはできかねます」
『同じことを十回繰り返してください』
「え?! ずっと工房買いたいって言い続けるってこと?!」
そんな強引な交渉をするのか、と栗栖は慄いた。譲歩を引き出すカードも持たずに何度も食い下がるのは、交渉としてはかなりの無理筋だ。ヨドヤバシカメラで栗栖が頑張った値下げ交渉とは毛色が全く違うものだ。ヨドヤバシカメラでは、店員も値下げ交渉があることを前提に話している。だがこの目の前に座っている兎耳の受付はどうだ。食い下がられることを前提に話しているか? そんなわけはないだろう。二度も規約上難しいと断っているのだから。
『【工房を買いたい】と十回以上伝えてください』
しかしマンジュウは無慈悲だった。容赦なく栗栖に無理な交渉を強いた。栗栖は仕方なく、だんだんと気持ち悪いものを見るような目つきに変わっていく兎耳の受付に向かって、工房を買いたいと十回言い続けた。当然、十回とも断られた。
「ミナ、代わるわ。 ……お客様、こちらでお話を伺います」
「ミク姉さん……」
とうとう十回目の断りを受けた時、受付の後ろから新たなNPCがやってきた。栗色の長い髪をした、兎耳の制服を着た女性だった。ミク姉さん、と呼ばれたその女性が、今まで受付をしていたミナという、おそらく妹であろう受付と席を変わる。
「工房の購入については規約により禁止されております。何度言われてもお応えいたしかねます。これ以上無理を仰るようなら衛兵を呼びますよ」
「す、すんませんでした……」
栗栖はミクの剣幕に申し訳なくなってしまい、思わず謝っていた。自分がこの受付の人の立場なら、相当面倒だし困った客だと思うからだ。マンジュウが言うので仕方なく、という言い訳もできない。なぜならマンジュウの声は栗栖にしか聞こえていないからだ。
『では次は商業ギルドを出て街の南門へ向かってください』
「…………。あの、じゃあ……諦めますゥ……ホンマ、すんませんでしたぁ……」
栗栖はミクに頭を下げてから、逃げるように商業ギルドを出た。商業広場を抜け、街の南門へ向かいながら今度ははっきりと思った。マンジュウこわい、と。
『南門では、ゲーム内で日中ならば問題はありませんが、夜間に出る場合は門兵に理由を聞かれる場合があります』
「南門ってさっき通った、屋台があった方向やったかな?」
『はい。この道を真っ直ぐ進み、ユークラッセ通りを左、ひとつめの角を右に曲がると市場通りに出ますので、そこから門へ南下して下さい』
「はいはい、今は昼やから問題なさそやな。ちなみに夜はなんて答えんのん?」
『狩りや採集と答えると通れるようになっている、と攻略サイトには記載されています』
「おー、ファンタジーっぽい」
『ディシディア・ネリス・オンラインはファンタジーMMORPGカテゴリに分類されているゲームです』
「……アッハイ」
マンジュウとそんな雑談をしながら、栗栖は南門から街の外へ出た。もちろん周囲からは謎の独り言を言っているように見られているし、気配を消して後ろを付いてきている水色の髪の男にもそう見られているが、栗栖は気にしなかった。




