50
『おお……無垢なる者、渡り鳥たちよ……私を怨嗟の穢れから解放してくれたこと、礼を言う……』
白い光に包まれ、黒い霧のようなものから解放され、好々爺の表情になった聖タンクローゼスは、もうカーネルおじさんではなかった。服が白の三つ揃えから赤いサンタローブに変わり、どこからどうみてもサンタクロース、サンタおじさんだった。
「怨嗟の穢れって、呪い系のデバフじゃなかった? 戦闘で掛けられてないよね?」
「まだ実装してなかったんじゃない?」
『さあ、奇跡の夜を祝福しなくては。私は祝福の聖者、タンクローゼス。渡り鳥たちよ、そして、この世界の生きとし生けるものたちよ、祝福あれ……』
色とりどりの光の祝福が街全体、それ以上にも広がらんかというほどに広がり、教会から、そして街全体から大きな歓声が上がる。
『おめでとうございます! クリスマスイベントをクリアしました! このサーバーは2時間後に自動的に閉鎖されます。それでは、よいクリスマスを!』
そんなポップアップが出て、イベントクエストクリアが表示された。栗栖はそれを見て、OKのボタンを押す。周りはクエストのクリアで弛緩した雰囲気がある。やりきったという気持ちのいい余韻を残したまま、ゲームをログアウトしていくのだろう。
今にも夕焼け小焼けのメロディが流れてきそうななか、栗栖は教会前広場に背を向けて歩き出した。もちろん行き先は、クリスチャンの駆け込み寺だ。劇場版ちいこわの続きを観るのだ。
NPCが全く歩いていない閑散とした町並みに、プレイヤーたちが用意した飾りが揺れている。祝福の光が淡く漂う中で、栗栖もなんだか胸がいっぱいになってきた。
劇場版ちいこわの続きは、また今度にしようか。
クリスチャンの駆け込み寺へと帰って、またデッキで飲み物を飲んでこのサーバーの終わりまでゆっくりと街を眺めるのもいいかもしれない。そう思っていると、後ろから声を掛けられた。
「クリスさん」
ディナンだった。栗栖と目が合うと、隣に並んで歩き始める。
「ディナンさん。ラストアタックおめでとう」
このゲームでは最後に攻撃を入れたプレイヤーにボーナス報酬が入るようになっている。チロルが言うには、大規模なレイドバトルではプレイヤー同士でこのラストアタックを取り合うことが多いのだという。
「ありがとうございます。クリスさんのおかげです」
「僕は何もしてないよ」
「いえ、クリスさんと一緒にいたから、私はあのブーツを手に入れられました。それに、クリスさんがいたから、このサーバーのプレイヤーはゲームを心から楽しみ、全力で攻略できたんです」
「あ~~~、クリスマスデスゲーム……参るわホンマ」
二人でクリスチャンの駆け込み寺へと向かって歩きながら、ぽつぽつと今までのことを話した。このゲームの中での一週間、栗栖にとっては初めてのことばかりでとても目まぐるしかった。それに映画もドラマもアニメも沢山観た。
「もし嫌でなければ、通常サーバーでもゲームをしませんか?」
「うん? そうやね……考えとくわ」
「はい」
「ネットプリックスも観れるしな」
「ふふっ」
ディナンがこうして勧めてくれるまでもなく、栗栖はこのディシディア・ネリス・オンラインを続けるだろう。これだけのプレイヤーが生き生きと楽しんでいるゲームなのだ、栗栖にもその楽しさを分けてくれるに違いないと思えるからだ。あと、ネットプリックスの映画も沢山観ることができる。
「そういえば結局、僕になんでトナカイの角が来たのか分からず仕舞いやったなぁ」
「ああ……それは、えっと……」
「え? ディナンさん、何か思い当たるん?」
「そうですね……あの、クリスさんのプレイヤーネームだと思います。ファミリーネームを先に呼ぶと……」
「あ、あ! ああ~~~!! メリクリ~~~?!?!」
砂滑栗栖、すなめりくりす、スナメリクリス。なんのことはない、名前の中にクリスマスっぽいものが隠れていた。栗栖は大きく声を上げ、そして脱力した。
「はぁ~~~……僕が言うのも何やけど、運営、それでええんかいな……」
「本当に。まだ開発途中で、適当に設定を置いていただけなんでしょうけど……」
こうして栗栖の初めてのVRゲーム体験は、緩く楽しい感じで終わった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




