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「クリスさん」
「あ、ディナンさん」
工房の前にいたディナンは戦闘用の装備に着替えていた。後ろには製作ジョブプレイヤーをたくさん付けている。
「あと三時間ほどで聖タンクローゼスの召喚イベントがありますので、私達は教会前に行きます。戦闘ジョブも製作ジョブも、採集ジョブもクエスト総数が足りたので、召喚後のイベントに参加できそうです。ほんとうにどうもありがとうございました」
「ありがとうございました!!」
「ありがとうございました!!」
「工房は現状復帰していますが、クリスさんのジョブに有用そうな設備はそのまま置いておいてくれるそうなので、気が向いた時にでも使ってください」
「ありがとう。せっかくやから使わせてもらうわ」
クリスマスサーバーは最終日の日暮れ。商業ギルドと冒険者ギルドのクエストも終わり、あとは教会での召喚イベントのみとなっていた。ディシディア・ネリス・オンラインの既存プレイヤーは、教会前の巨大クリスマスツリーの元でイベントを迎えるのだという。
もちろん栗栖はクリスチャンの駆け込み寺から出ない。イベントに参加しても良かったが、このイベントやゲーム自体の理解度が低い自分が参加しては、皆の盛り上がりに水を差すだろうと考えたからだ。製作ジョブプレイヤーたちは栗栖に必要以上の気を使ってくれているし、なにより、戦闘ジョブは歯が白い金髪の男が取りまとめをしている。もし絡まれたら面倒という気持ちもあった。
幸い、製作ジョブプレイヤーたちは二階にデッキを作ってくれた。そこで外のイルミネーションを眺め、のんびりとネットプリックスを見ながらこのサーバーの終わりを待とうと思っていた。
「家主さん! 通常サーバーも現実時間の2.5倍の体感時間なんで、イベントが終わっても沢山アニメ観れますよ!」
「あとメインクエストは碁会所で戦闘ジョブのチュートリアルをやったら冒険者ギルドに出てきますよ!」
「製作ジョブはこの工房の設備を使えば楽にレベルが上がるのでおすすめです!」
クリスチャンの駆け込み寺を出るとき、プレイヤーは次々とゲームのおすすめをして去っていった。栗栖はそれを苦笑いで聞きながら、みんなを送り出す。きっとプレイヤーたちは、自分たちが楽しんでいるゲームを栗栖にも楽しんでもらいたい、という純粋な気持ちなのだろう。だが栗栖としては、ハンマーやら鉈やらを持って聖人の召喚に立ち会うようなゲームに首を傾げることになった。
「さて、静かになったし、二階に上がろかな。あ、そうや」
階段を登り、通り側に設置されたデッキに向かいながら、栗栖は思い出したように魔法の合言葉を口にした。本当に栗栖にとっては、この一週間ずっと魔法の合言葉だった。
「マンジュウ! マンジュウ!」
『はい。本日はどうされましたか?』
「いや、特に用事はないよ。でも、マンジュウのおかげで色々無事に済んだし、お礼言うとこ思て。ありがとうな」
『はい。お安い御用です。またなにかあればいつでも、フジマルテクニカ製サポートAI、マンジュウをご利用ください』
マンジュウのその言葉を聞きながらデッキに出る。日が暮れたあとの歓楽街は人通りが多いはずだが、今日はほとんど人がいなかった。マギ麻雀仲間の住人NPCによると、聖タンクローゼスの召喚の夜には、皆家に帰って家族で過ごすのが普通なのだという。クリスマスの海外文化に近いな、と栗栖は思った。
そんな人通りの少ない街に、プレイヤーが製作したであろうクリスマスの飾りとイルミネーションが輝いている。クリスマスリース、不思議な魔法の力で光る電飾、何かよく分かっていない丸い玉。空は暗く、雲一つない。栗栖の知らない星座がたくさん並んでいた。
「あー、なんか、これがエモいっちゅうやつ?」
デッキに用意された、美しい曲線を描く木製のカウチに腰を降ろし、貰った飲み物をサイドテーブルに置く。調理師プレイヤーに沢山の飲み物を貰ったが、今日はお子様向け乾杯飲料にした。クリスマスになればスーパーに並ぶアレである。なお、飲料名は【シャンマリー】だ。制作者がそう名付けた。なお、【シャンマリー】は店舗に並べられ、巫女見習いの少女が購入していった。そしてその側に、切り分けられたブッシュドノエルを添える。これはパティシエという、お菓子を作ることに特化した調理師の上位ジョブプレイヤーが作ったものだ。これは店頭に出品するやいなや、ちょっと偉そうなおじさん神官が買っていった。自分のことを助祭だといっていた気がする。
「うわっ、ウマっ」
ゲーム内で作られたシャンメリーとブッシュドノエルはとても美味しかった。味覚制限の解除は本当にゲーム内の食べ物を美味しく感じさせてくれた。栗栖は子供の頃に親が買ってくれた甘い味の飲み物が忠実に再現されていることに驚き、ブッシュドノエルの濃厚でいて後に引かないクリームの味にため息を吐いた。




