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「……ナイスキャッチ?」
「……、えっと……ここはスキル魔法無効アイテムが使われているので、危ないですよ」
「そういうのあるんや」
「はい」
よく考えれば、そうでもしないと肉壁はスキルで飛び越えられるだろう。低レベルのクリスですら、酒精を取り込んで酔拳を使えば、人間の頭上を飛び越えるくらいはできそうである。
綺麗な円形で土下座をしていたプレイヤーと、その後ろで肉壁をしていたプレイヤーは、ディナンをここに留まらせるためにそういったアイテムを使ったらしい。
「えっと、ディナンさんが捕まったって聞いて、来ちゃったわ」
栗栖がディナンの腕から立ち上がりながらそう言うと、ディナンは困ったように眉を下げた。ディナンとしては栗栖を巻き込みたくなかっただろう。そのために栗栖に黙って防波堤の役割をしてくれていたのだ。だが栗栖はそれを知って、そのままではいられなかった。なぜなら栗栖が所有している、クリスチャンの駆け込み寺が今回の焦点なのだから。
「そこの人らが大声で言うてた内容から察するに、工房を貸してほしいっちゅう話やんね」
「……そうです。ですが、そんなことをクリスさんが耳に入れる必要はありません。あなたは基本的に巻き込まれただけで、このゲームの攻略や報酬を必要としていないんですから」
「別にええよ」
「クリスさん……」
栗栖はディナンから視線を外し、土下座しているプレイヤーと、その後ろで立っているプレイヤーたちへ視線を向けた。栗栖がこの内円の中へ来てから、静かに推移を見守っていた製作ジョブプレイヤーたちだ。彼ら彼女らに向かって、栗栖は改めて言う。
「別につこてもええよ」
「うおおぉぉぉぉ!!!」
土下座をしていたプレイヤーたちが立ち上がって歓声を上げた。
「ただし、条件はあるで。ディナンさんに謝って、開放すること。あと、付き纏いと声掛けをやめること。やったら通報するで」
栗栖の言葉にディナンは困ったような顔をしていたが、ため息を吐いたあと、納得してくれた。
◇◇◇
「Sサイズの店舗を兼ねた工房なんスね~」
「わー、何も手を入れてない。素朴だー」
「あ、中庭ある。炉が設置できそうだな」
「工房の広さ的に、設備は4つまでだな。おい! 4職ずつ交代制だって伝えてくれ!」
クリスチャンの駆け込み寺は出掛ける前と比べて格段に賑やかだった。持ち主である栗栖以外のプレイヤーに工房の使用許可を出すには、フレンドになるか、もしくは個別に招待状を送ることが必要だった。もちろん栗栖は招待状を送ることを選択した。
「クリスさん、店舗側の出品に関しては、制限を個別に掛けてください」
「そんな設定あるん? まあ別に勝手に出品してくれてもええけど」
「ダメです。出品ができるように設定すると、売上金の持ち出しなんかもできてしまいますので」
栗栖が製作ジョブプレイヤーに工房を貸し出すにあたって、ディナンは現場監督を請け負ってくれた。工房以外の場所に不用意に踏み込まないよう、また、設備を持ち込んで設置するにあたり、おかしな細工をしないように見張ってくれる。
「すいません、家主さん」
「はいはい」
「鍛冶師は炉の設置をしたいのですが、中庭を使っても構いませんか?」
「ええよー」
「ありがとうございます! あ、金属製品の手摺とかドアノブとか蝶番とか、ついでに作っとくので使って下さいね!」
「ありがとう?」
「あの! 木工師も大きい木を扱うので中庭に設備を設置したいんですけど」
「どうぞどうぞ」
「ありがとうございます! 家具や店舗の内装、ついでに作っときます!」
「……ありがとう?」
製作ジョブプレイヤーの何人かは、クリスチャンの駆け込み寺の内装が初期のままになっていることを非常に気にした。栗栖を家主と呼び色々作ってくれるというので、ありがたく受けた。
「ちょっと待て! 俺も内装やりたい!」
「待て、家主さんのコンセプトを聞いてから統一するべきだ」
「俺階段やりたい!」
「俺化粧棚!」
栗栖は拠点コンセプトを聞かれたが、そんなものは無いと答えた。ネットプリックスの視聴ができるなら、他にはあまり拘りがないのだ。
「じゃあ俺達に任せてもらえますか?」
「え? まあ、ええけど。でも手間もお金も掛かるやろ? 別にええで」
「いいえ! やりたいんで!」
「やりたいんで!」
製作ジョブプレイヤーは、基本的にもの作りが好きなプレイヤーばかりだ。木工師、鍛冶師はもちろん、服飾師や彫金師までも参加したがった。
とりわけ服飾関係は女性プレイヤーがほとんどで、きゃあきゃあと高い声が上がって楽しそうに盛り上がっている。
「私は絨毯類や布物、ソファの掛布をやりたいわ」
「私も私も! 刺繍したい! 龍とか鳳凰の!」
「家主さんのチャンパオも作っちゃお! カッコイイやつ!」
「待って、少し可愛さも必要じゃない? ピンクは?」
「ピンク髪にピンクはやりすぎじゃない? 刺繍をピンクにするとか……」
「……」
「……クリスさん、断るなら今のうちですよ」
「いや、あそこに入っていく勇気は……ないかな」
栗栖は早々に諦めた。あの姦しい女の子たちの中に入っていくのは、栗栖には難易度が高かった。だがそんな姦しい女の子たちは、栗栖の気など知らずにぐいぐい来る。




