43
黒髪の少女ことメノウは、製作ジョブプレイヤーが開設したチャットグループに加入しているらしい。そのチャットグループでは、このクリスマスサーバーにいるプレイヤーだけが現在オンライン状態で、チャットが可能なのだとか。
「少し前から、ディナンの目撃情報を探してた」
「あ~、アンタが街を探してもいないから……」
栗栖は深く考える質ではなかったが、それでもチロルの言っていることは理解できた。ディナンは今、栗栖を守るために製作プレイヤーに捕まっているのだ。
「あの、どこで捕まったか、分かる? 場所教えてほしいねんけど」
「は? まさか行くつもり? やめときなさいよ。初心者のアンタが行って解決できるような話じゃないわ。ディナンなら適当になんとかなるわよ」
その通りだとは栗栖も分かっている。ゲーム内での戦闘でも、知識でも、技術でも、栗栖は特に何の役にも立たない。行けば逆に迷惑を掛けることにもなりかねない。けれど栗栖には何も言わず、一人で防波堤になってくれていることを思えば、とてもここでじっとしていられない。
「まあでも、行くわ。迷惑やったら、あとでディナンさんに謝っとこ」
「迷惑ってわけじゃないでしょうけど……本当に行くの? アンタを血眼で探してる、なんていうか、ちょっと頭のネジがぶっ飛んだ連中なのよ? あのディナンを物理で拘束しようとしてることでも分かるだろうけど」
「うんん……」
チロルに頭のネジがぶっ飛んでいると言われるのは、相手も心外なのではないかと思ったが、栗栖は黙っておいた。
栗栖が沈黙していると、チロルは呆れたようにため息を吐いた。
「アンタの意思が固いのは分かったわ。しょうがないから私が連れて行ってあげる。メノウちゃん、悪いけどここからは別行動でお願い。あと、場所教えてくれる?」
「場所は居丈高小道の近く。でも別行動の必要はない。私も行く」
「えっ? でもメノウちゃん、面倒事だよ? 製作職と衝突するとチャットグループでもやりにくくなるんじゃないの」
「別にいい。お礼だから」
メノウと呼ばれる黒髪の少女は、チロルとそう話したあとに、栗栖へ向かって言った。
「このキャンディケインのお礼。私はこの杖があるから、制作物の納品をしなくても貢献度が稼げたし、チロルと一緒にクリスマスイベントができた」
メノウはそういってチロルの手を握り、小さく微笑んだ。無表情な顔が少しだけ傾げられ、長い黒髪がさらっと揺れる。それを見たチロルは感動したのか、目を潤ませている。
「私はメノウ。よろしくね、豹のお兄さん」
栗栖は店を閉店設定にし、チロルとメノウと共にクリスチャンの駆け込み寺を飛び出した。日が昇った歓楽街の通りは少しだけ健全な空気が流れていた。
「その、居丈高小道っちゅうのは、どのへんなん?」
「貴族街と商業区画の間のNPC居住区よ。設定上は、お金持ちの平民が住んでいる場所だけど、実際はお金の無い下級貴族が住んでる」
「ははぁ、だから居丈高小道」
「そ。まあプレイヤーにとっては、丁度いいスクリーンショット撮影スポットだけどね」
どうやら建物や空間が美しく整えられている区画らしく、それでいて貴族街のように入場制限がないので、いわゆる映えスポットとしてプレイヤーには人気があるらしい。
「たぶんだけど、ディナンはあのあたりの宿かどこかで寝てるんでしょうね。頭のおかしい製作ジョブプレイヤーは、普段はあんまりあのあたりは寄り付かないでしょうから」
歓楽街を出て大通りを進みながら、栗栖は色々な情報を聞いた。このネリス王国王都ネリスティアの適正レベルは30までであることや、区画によりレベル10、15、20と適正レベルが細かく別れていて、サブクエストがあること。このクリスマスサーバーには、ほとんど上級者のプレイヤーしか残っていないこと。そのなかの製作ジョブプレイヤーの一部が、今回のディナンを捕らえている当事者たちであることなどだ。
「多分、20人くらいだと思うわ。アイツを捕まえようと考えるイカれた製作プレイヤーは」
「そ、そんなに……」
「頭のおかしい人間がよくもそんなにいるものよね」
「……」
製作ジョブプレイヤーといってもプレイスタイルは様々あり、戦闘ジョブと両立していたり、戦闘職を主に、製作ジョブも少しだけ、という層も多い。そういう層は今回のクリスマスイベントでは、戦闘ジョブで貢献度を稼いでいるようだ。メノウがそうだ。
「アンタが教えてくれた武器キーワードは、かなり沢山のプレイヤーが使えた。だから戦闘ジョブのプレイヤーはその武器を装備して、金髪の指揮で効率よく貢献度を稼いでる」
「へえ~、上手くいってるんやね」
「まあね。でも、製作ジョブプレイヤーはそうじゃないの。一部の、クラフトにこのゲーム内のプレイ時間をほぼ全て費やしているような生粋のクラフターたちは、戦闘ジョブでの貢献度稼ぎがうまくできないし、なんていうか、そう、頑なにしたがらないのよ」
「職人気質なんや」
「ゲームで職人気質っていうのも何だけど、そうなの。 ……ああ、もう着くわよ、その道を曲がった先が居丈高通り」
栗栖たちが歩いていた道は、今までの王都の石畳と変わりなかったが、チロルの言った通りを曲がり少し行くと、まったく景色が変わった。灰色の石畳はすべて真っ白なものに切り替わり、建物も、屋敷というに相応しい、整えられた前庭の奥に美しく建てられていた。貴族が住んでいるといわれても納得の優美さだと栗栖は感嘆した。




