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「委託の条件が、低レベルのレベリングに有用なアイテム、もしくは金銭で、直接委託者に接触はしないこと、あと、もし見かけても無闇に話し掛けたりせず、絶対に名前をフルネームで呼ばないこと。それがディナンが出した条件よ」
栗栖は条件を聞き、少しだけ呆けた。その条件がどういうことか、どういう意味なのか。何度頭の中で反芻しても、同じ答えが出てくる。
栗栖のための条件だ。
低レベルのレベリングに有用なアイテムなど、ディナンには必要ない。そして、もちろん接触の禁止も、すでに交流があるなら無意味だろう。最後に、話し掛けずにフルネームで名前を呼ばない。これは決定打だろう。
栗栖のゲームでのプレイヤーネームは、「クリス・スナメリ」。それはVRヘッドギアに購入時に登録される、紛うかたなき本名だ。本来ならキャラクタークリエイト画面で、プレイヤーネームも好きに設定できるはずだった。だがクリスマスサーバーのバグに巻き込まれ、本名のままでこのゲームに降り立ってしまったのだ。ディナンは、その部分に最大限の配慮をしてくれたのだろう。
「ディナンさん、優しいなあ……」
「この話を聞いてどうしてそんな感想になんのよ」
「でも、始めにレベリングに役立つアイテムくれたん、そっちやん」
「それはまぁ、そうだけど……他の条件がおかしすぎるわ。どうして他プレイヤーとの接触を嫌がってるの?」
「嫌がってるっちゅうか、観たいもんがあるから……」
栗栖は、チロルに自分の状況について話した。つまり、VRで横になったままネットプリックスを視聴するためにVRヘットギアを購入したこと、ハードに初期搭載されていた、『ディシディア・ネリス・オンライン・無料体験版』というソフトが意図せず起動され、キャラクタークリエイト中にバグに遭遇、このクリスマスデスゲームに巻き込まれたこと、現実時間との差により、平面視聴であれば倍速以上でネットプリックス視聴ができることを知り、ディナンの助けでこのクリスチャンの駆け込み寺を入手したことなどだ。
チロルは話を聞いているあいだに、驚きから驚愕へと表情を大きく変えていき、最後には頭を抱えて蹲ってしまった。
「なん……なんて言葉を掛けていいか分からないわ……!!」
「ははは、まあなんかおもろい感じになってんねん」
「何も! 面白くないわよ!」
チロルがそう言いながら唸っている間も、隣に立つ黒髪の少女は無表情だった。
「……まあでも、ディナンの条件の理由はだいたい分かったわ」
しばらくして立ち直ったあと、チロルは栗栖を可愛そうな目で見てきた。そして、またトレード画面が立ち上がってくる。
「え」
「ちょっと不憫すぎるし、恵んであげる」
「いや、そんな不憫でもないで? 十分満喫してるし」
「いいから」
なんだか話が進まなそうだったので、栗栖は受け取ることにした。受け取るボタンを押しながら、ゲームのアイテムボックスは無限なのだろうか、と考えるなどした。栗栖のアイテムボックスには、チロルから貰ったもので溢れかえっていた。
「あと、拠点を持ってるってことは、設備の設置ができるってことなのよ。アンタに直接交渉して、工房を借りたいと思ってる製作ジョブプレイヤーがたくさんいるわ。店の中を荒らされたくなければ、プレイヤーの入店を禁止に設定しておきなさいよ」
「へえ、そんな設定あるんや」
「プレイヤー入店禁止設定でも、NPCは来るから」
「そうなん? じゃあちょっと変えて……ん?」
チロルに教えてもらった設定に変更をしようとしたとき、ピロロロロ、と通信音が鳴った。ディナンだった。
「ごめん、ちょっと通話掛かってきたわ。……はいはい、ディナンさん?」
『クリスさん、おはようございます』
「おはよ。どしたん?」
『手紙は読んでいただけましたか? 昨日の夜に送ったんですが』
「読んだ~、それで、ちょっと話聞きたいとおもててん。なんか店にチロルさんも来てるし」
栗栖がそう言うと、ディナンは通話先で沈黙した。
「ちょっと、ソイツにちゃんと、いかがわしい理由じゃないって言ってよ!」
栗栖は、いかがわしい理由とは何だろう、と考えたが、とりあえずディナンにチロルの言葉を伝えておく。ディナンは沈黙からすぐに戻ってきた。
『わかりました。ひとまずチロルさんの言い分を信用します。ですがクリスさんはくれぐれも外へh……』
「ん? ディナンさん?」
言葉が不自然に途切れ、ディナンの声が聞こえなくなる。そのあとも耳を済ませたが、ディナンの声は一切聞こえず、そのまま通話は切れてしまった。
「あれ……切れた。電波悪い?」
「ゲーム内の通信で電波もなにもあるわけないでしょ」
どうやらゲーム内の通話では、おおよそ現実と違って通信トラブルはほとんど起きないらしい。そういったことが起こるのは、サーバートラブルがあったときだけだという。栗栖は今現在がサーバートラブルの最中なのでは……と思ったが、言わないでおいた。
「まあなんか、急用でもできたんかな。また時間できたら掛かってくるやろ」
栗栖はそう言ってフレンド欄を閉じた。忙しいときにわざわざ時間を取ってもらうほどの、喫緊の用件があるわけではない。またディナンの都合の良いときにでも連絡が来るだろう。そう思ったとき、今まで黙っていた黒髪の少女が口を開いた。
「チロル」
「ん? どうしたの、メノウちゃん」
「ディナンが捕まったみたい。クラフターチャットグループで話題に出てる」
「「えっ?!」」




