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「ほう。もっとものひとつっちゅうんは、どういうこっちゃ?」
「ええ、ええ。不思議に思うでしょう、クリス・スナメリさん。ですが、聖タンクローゼスへの供物には、いくつかの種類が必要なのです。クリス・スナメリさんが売りに出されている【ノリノリジンジャークッキー・クリスマス】は、クッキーのなかでもっとも適した供物であると、女神様は私の夢枕で仰せになりました」
「なるほど。ちなみに他のもっともな供物は集まってるん?」
「それは、残念ながら……ですが、聖タンクローゼスはきっとこの【ノリノリジンジャークッキー・ランダム】を気に入り、召喚に応じてくださることでしょう。クリス・スナメリさん、どうか、この聖なるクッキーを教会にいただけないでしょうか」
バッサーリアの言葉のあと。すぐにポン、とウインドウが開いた。
【ノリノリジンジャークッキー・クリスマス】を納品しますか?
[ はい ・ いいえ ]
「ああ、はいはい、そういうことね」
栗栖はすぐに[はい]を選択した。すると、棚に置かれていた【ノリノリジンジャークッキー・クリスマス】のうち、数個がバッサーリアの手へと渡る。きっと栗栖が作ったどれかのクリスマスソングが気に入られたのだろう。
バッサーリアはクッキーを受け取ると、代金を支払って帰っていった。設定していた値段よりもかなり多く払ってくれたので、クエストの報酬なのだろう。
そしてバッサーリアが帰っていくのと入れ替わりで、店には新たな客がやってきた。ハラスメント監獄少女こと、チロルだった。後ろにもう一人、黒髪の少女を連れている。
「い、いたー!!? やっぱり! アイツが用もないのに歓楽街をうろついてるわけないと思ったのよ!!」
「……こんにちは?」
栗栖はとりあえずカウンターの中から挨拶をしたが、できればもう工房の中に引っ込みたい気分だった。ディナンからの手紙からして、厄介事の気配がするからだ。
チロルは栗栖の挨拶に、呆けたように目を見開き、口をぽかんと開けた。
「……アンタ……、ハァ~……もういいわ」
「えっと……」
一体何がもういいのか、栗栖にはさっぱり分からなかった。いきなり店に来て大声を出したかと思えば、チロルは疲れたようにため息を吐いた。相変わらず栗栖にとって理解が難しいキャラクター性をしている少女だった。後ろにいる黒髪で無表情な少女は、寂れた店内をなんとはなしに見渡している。その腰にはポップな飴でできたステッキが装備されていた。
「ちょっと」
栗栖が何と言葉を掛けようか迷っているうちにチロルは立ち直ったようで、カウンター越しに栗栖を見上げて言った。視点に差があるせいか、どこか睨むように見える。
「聞きたいんだけど」
「はいはい」
「製作ジョブの貢献度の上げ方が分かったって本当?」
「ん? ……え~っと」
製作ジョブの貢献度というのは、ディナンが言っていた石碑に刻まれる星のことだろうか。確か商業ギルドの納品クエストをこなせば星が付くが、クエスト自体が難しい状況だったはずだ。それとも、栗栖がこの店で【キラキラ桃ジュース・ランダム】を神官に売り、供物になった話だろうか。
何から確認すればいいのか栗栖が首を傾げている間にも、チロルは話を続けた。
「あの胡散臭い男が持ってきた話だから、情報源がアンタじゃないかって探してたのよ。っていうか、今製作系ジョブのプレイヤーが血眼でアンタを探してるわよ」
「……ほう? 何でまた?」
「何でって……販売してた商品が供物として納品されたんでしょう? なら、他のプレイヤーも同じ方法で納品しようと考えるのは当たり前じゃない」
「ちゅうても、拠点で売ってるだけやし。委託はするて言うてるねんけど」
栗栖はディナンに教えてもらい、既に探されていることは知っていたが、探される理由には思い至らなかった。
そもそも店舗は自作の製作品以外も販売することができる。なので、このネリスティアに店舗を持たない製作ジョブプレイヤーの作ったものも、ディナンが預かり、栗栖が出品して、神官や巫女に買ってもらえれば供物にできる、という話をしていたはずだ。実際には転売を防ぐため、製作品に転売禁止設定をしていれば仕様上不可能なのだが、栗栖はそういったことはもちろん知らなかった。
「それよ。委託の条件、アレどういうこと?」
「委託の条件? って何?」
栗栖は委託に条件などつけていない。付けるとすれば、ディナンだろう。プレイヤーから物を預かり、わざわざクリスチャンの駆け込み寺へ来て、栗栖に物を託し、売れたら金銭を相手に持っていかなくてはならない。手間を考えると、ディナンが何かしらの条件を付けるのは理解ができる。
チロルはそのことをすぐに理解したようで、怒りを滲ませた表情で歯ぎしりをした。ゲーム内だからか、漫画のような大きい歯ぎしりだった。
「……あんの腹黒男ォ……!」
非常に感覚にリアリティがあるが、ここはVRゲームの世界で、お互いの姿は作られたアバターだ。表情はやや大げさに表示されるし、こういった歯ぎしりなども、どちらかといえばポップなアニメ風に表現される。栗栖はチロルのコミカルな歯ぎしりに、VRってすごい、と改めて感心するなどした。そしてその様子を見て、チロルは脱力した。




