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翌朝栗栖がベッドから起きると、視界の端に手紙のアイコンが点滅していた。凝視でそれを開くとメール画面が出てくる。フレンドと運営の二つのタブがあり、新着メールはもちろんフレンドのタブ、ディナンからだった。
[目覚めたら読んで下さい]
[クリスさんへ。おそらくもうスリープ周期に入っていると思うので手紙にしています。
このメールを見た後、このサーバーの期限が来るまではできるだけ、外を出歩かないようにお願いします。
申し訳ありません。私が製作プレイヤーに攻略の情報を伝えたせいで、プレイヤーたちがクリスさんを探しています。こちらでなんとかしますので、ご不便がなければそのまま拠点から出ずに過ごして下さい。もし出掛けたい場合は、私が迎えに行くのですぐに連絡してください。
ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。]
「ん~残り2日、出歩くなっちゅうこと? まあ、出歩く予定はないけど」
そもそもクリスチャンの駆け込み寺を手に入れた栗栖のゲーム内生活ルーティンは映画を観る、ドラマを観る、アニメを観る、何かを飲み食いする、寝るだけである。必要に駆られて隣のゲランシャトー(仮)でマギ麻雀を打つことはあるが、必要なければネットプリックスを優先する。
とはいえここ数日の視聴三昧で、詰め込んだ脳がふわふわとするくらいには幸せな余韻を沢山得ているので、この幸福感を得る手伝いをしてくれたディナンのためになるなら、多少の面倒は構わないとも思っている。
昨日のディナンの話を聞くかぎり、このまま製作プレイヤーの納品が滞り続けて最終日になれば、依頼達成数が足りずに聖タンクローゼスとやらが召喚できずに、イベントが失敗に終わるはずだ。6月にバグだらけのクリスマスイベントを無理に達成しようとしていることが問題ではあるのだが。ディナンの話によると、プレイヤーはバグにはある程度慣れていて、こういった場合、達成した時に貰える報酬は取り上げられることはほとんど無いことを知っているのだという。失敗してもバグのお詫びとして補填があるし、成功しても報酬と補填があるのがよくあるパターンなのだそうだ。
ディナンがこのサーバーにいるプレイヤー達となんとか協力してイベントクリアを目指しているなら、できる限りは力になりたいと思う。
「まあ、ちょっとどうなってるか話聞いてみよかな」
ともあれ直接話して、今の状況などを聞いてみたほうがいいだろう。そう栗栖は考えた。
ベッドを降り、伸びをしてからメニューのフレンド欄を開く。ここから、オンラインのフレンドに通話を掛けることができるのだ。一人しかいないフレンド欄のディナンは、もちろんオンラインになっていた。ここはゲーム内でスリープ状態だと、離席中、という表示になるらしい。ディナンは起きて活動しているようなので、今通話を掛けても問題ないだろう。
通話のボタンを押そうとしたとき、ポン、と音が鳴りウインドウが開いた。
「ん?」
【特殊クエストが開放されました。販売拠点へ向かってください】
「特殊クエスト?」
一体何のことか、栗栖は疑問に思った。販売拠点というのが、店舗だということは分かる。だが、特にクエストが起こるようなことはしていない。
「もしかして、そういう仕様なんかな?」
何か、店舗を開けていると勝手に始まるクエストがこのゲームに実装されているのかもしれない。そのあたりの詳しい話は知らないし、特に興味は無いのでマンジュウにも聞いていない。
「ん~、外に出るクエストやったらまずいよなぁ。まあ、とりあえず店舗行ってどんな感じなんか見てみよか」
クエストがどんなものか確認してみて、もし外出が必要なクエストならまた後日にするか、もしくはディナンに相談してみよう。そう思い、寝室を出て階段を降り、工房の扉を開いた。そこには知っている老人が立っていた。白い眉と髭、サンタ帽を被っている聖職者、バッサーリアだった。
「おお、クリス・スナメリさんではないですか! もしや、この店はクリス・スナメリさんが店主をされているのですかな?!」
「え、あ、はぁ……。……ソウデス」
「なんという奇跡の巡り合わせ! 私は今、心から女神の紡ぎ給うた運命に感謝しておりますぞ! クリス・スナメリさん、よくぞこの店を開いてくだされました!」
「……」
バッサーリアは、相変わらず栗栖に本名連呼攻撃を仕掛けてきた。だが栗栖は、前回ほどはダメージを受けなかった。なぜならこの店舗内には、栗栖とバッサーリアの二人しかいないからだ。どれだけ本名を連呼されても、痛くも痒くもない。
「……えっと、そんで、なんかあったん? わざわざ司祭さんがこんなとこまで来て」
「そうでした! 実は、私に女神からのお告げがあったのです。この店に売られている、【ノリノリジンジャークッキー・クリスマス】なるもののなかに、もっとも供物に適したもののひとつがあるのだと」




