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「しかしクリスが出来合いのモン以外を欲しがるなんて珍しいじゃねぇか」
「まあちょっと、自炊にハマってんねん」
「ほぉ。そういや、隣で店やってるんだったな。売ってんのか?」
「今は桃ジュース売ってるで。子供向けのやつ」
「がはは、このあたりに子供なんざいねぇよ!」
「それはそう」
小麦オジサンは王都の穀物事情に精通しているので、昨今の穀物事情についても教えてくれた。今年は豊作で穀物の出来も良いが、どうやら聖タンクローゼスの儀式で穀物を供えることが必要で、オジサンはかなり教会に穀物を供えたらしい。
「俺達にとっても重要な儀式だからよ、寄付するのは問題ねぇ。だが小麦や大麦を料理せずそのまんま供えるのはどうかねぇ」
「え、どういうこと?」
「聖タンクローゼスへの供物は、穀物そのものよりも聖別された料理のほうが望ましいのです」
クリスの疑問に、対面の店員NPCが答えてくれる。この店員NPCはマギ麻雀担当で、他のゲームには一度も姿を見せない、ゲランシャトー(仮)のお抱え雀士だ。
「今年は聖別された料理が供物に足りねえみたいだぜ」
「商業ギルドで依頼を掛けて、聖なる力を持つ渡り鳥の方に納品をお願いしていますが、それがまったく足りてないようなのです」
「……それって、プレイヤ……じゃなくて、渡り鳥やないとアカンの?」
栗栖が詳しく聞いたところ、聖タンクローゼスへの供物は、渡り鳥が聖なる兆しを以て作るものか、もしくは教会が握っている供物用製作レシピ通り作ったものでなければならないらしい。教会のレシピは、王都で貸し出してる製作設備で作ることができるので、渡り鳥にはそこで作ってもらえるような依頼を出しているが、今年は全くといっていいほど納品が無い。なので小麦オジサンは教会からの依頼で、多めに穀物を寄付したのだとか。
「ほな、昨日もろた飴ちゃんで作ったら供物になるっちゅうことか」
教会のレシピは昨日ディナンが言っていたように、謎のテクスチャ人間バグで設備を借りられず作れない。それならば剣や杖で何かを作って供物にするしかないのだろう。とはいえ剣や杖で料理を作ることが難しいとは言わないが、どう考えても一般的ではない。
「一応、ディナンさんにお手紙しとくか」
栗栖は麻雀を打ちながら、手早くディナンにレターを送った。この半荘が終われば、クリスチャンの駆け込み寺へ戻ってキャンディソードやキャンディケインで料理ができるのか試してみよう。材料を剣で切るとか、小麦粉を杖で捏ねるなどで聖なる供物になるなら、特に大きな手間も無く供物を増やせるだろう。栗栖はそんなことを考えた後、マギ麻雀へ集中した。
◇◇◇
「あ~クソ、この後すぐに持ってくからよ」
「はいはい、ほなよろしく」
小麦オジサンは特にマギ麻雀が強いというわけではない。基本的にオジサンらしく押しの強い麻雀を打つので、大勝ちするか大負けするかのどちらかだったが、今回は大負けするほうだった。栗栖は無難に二位、小麦オジサンはハコテン四位だ。
気持ちよく小麦オジサンに小麦粉を安くしてもらい、栗栖はコインをいくらか換金してから拠点へと戻った。
「さーて、オジサン来るまでにちょっと試してみよか」
栗栖は工房へと向かい、簡易調理器具を取り出した。栗栖が今作れるレシピは、桃のジュースだけだ。それもボウルに入れたら勝手にジュースになる。その工程だけでは、包丁の代わりにキャンディナイフを使うことも、延し棒の代わりにキャンディケインを使うことも出来ない。だが栗栖にはもうひとつ聖なるアイテムがあった。そう、パーティグッズのトナカイの角である。
栗栖はとりあえず頭に付けて普通に作ってみた。エフェクトはどうしようか悩んだが、クリスマスツリーに付いている謎の丸い飾りをイメージした。
「よーし、できたできた」
そうして出来上がった桃ジュースは、昨日作ったものと同じように見えた。試しに飲んでみるが、やはり味も変わらず、エフェクトもスキルで作ったイメージ通りだ。
「やっぱり頭に角付けてるだけやったらあかんか~」
ならばもう小麦オジサンが小麦粉を届けてくれるまで待つしかないだろう。キャンディケインで小麦粉を捏ねて作り、何かしらの聖なる効果が付いた料理になればいい。ならなくても映画のお供にはなる。
栗栖は出来上がった桃ジュースを持って店舗へと向かった。作ったばかりの桃ジュースを、【キラキラ桃ジュース・ランダム】に加えるためだ。店舗側の扉を開け、カウンターの中へと入ると、桃ジュースは、6本ほど売れているようだった。
「えーと、一本400トルで売ってたから、2400トルか~」
カウンターのレジ台を触ると、売り上げが自動的に栗栖のアイテムボックスに入った。ついでに、売り物として作ったばかりの桃ジュースも登録しておく。レジを操作すれば、そのままアイテムボックスから売り物の棚へ自動で移されるのだ。
栗栖がレジでの操作を終わらせて店舗を出ようとしたとき、カラン、とドアベルの音が鳴った。来客だった。




