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「はー、久しぶりに観てもええなぁ~」
夕方、栗栖はベッドから身体を起こした。七条の大罪を視聴し、その後は久しぶりに観るネットプリックスオリジナル作品を堪能した。トリバード・ボックスも良かったし、ヨンクチュアリも良かった。夜はドラマを観ようか。サーズデーもまた観たいし、タコゲームでスリリングな気分になるのも良い。だがひとまずは、工房に行って何か作ることにしよう。
桃ジュースで空腹値を回復させながらの映画視聴は非常に良かった。だが、桃ジュースだけではやはり物足りない気持ちも出てくるもので、つまり栗栖はジュースだけ飲んでいるのに飽きた。なにか飲み物以外にも、食べでのあるものを作ろうと考えたのだ。VRゲーム内での飲食なので、これはまったく気分の問題なのだが、せっかくどれだけ寝ながら飲み食いしても溢れないし喉に詰まることもない環境なのだから、ポップコーンやホットドッグやクッキーや、あとコーラなんかがあっても良いのではないか。
「ポップコーンなんて、案外作るの簡単なんちゃうかな~どう? マンジュウ?」
『はい、今日はどうされましたか?』
「奇術師でポップコーンのレシピってある?」
『ウェブサイトを検索します……はい、奇術師レベル2、奇術師レベル24のレシピがあります』
「おっ、ええねええね! ホットドッグとクッキーは?」
『ホットドッグはレベル12、クッキーはレベル2のレシピがあります』
マンジュウによると、これらのレシピはほとんどがプレイヤーが製作した、効率の良いレベル上げのためのレシピだそうだ。このゲームではいくつかの公式が公開しているテンプレートレシピの他、プレイヤーが自作でレシピを作ることができる。栗栖がそうしたように、スキルの個別使用によりエフェクトを調整したり、料理であればもちろん、味も調整できる。
栗栖は工房でさっそく、奇術師レベル2のポップコーンを作ろうとした。だが、作れなかった。ポップコーン用のトウモロコシを持っていなかったからだ。チロルには多くの素材や道具を貰ったが、そういうこともあるだろう。そして、ホットドッグやクッキーを作るための小麦粉も無かった。
「ちょっと手間やけど、買いにいくかぁ」
昨夜イベントクエストで毛皮を納品したので、手持ちにお金はある。それでなくても、隣のゲランシャトー(仮)へ行けば、コインを換金できるので、栗栖はお金には困っていなかった。そう考えたとき、ちょうど良い人物が知り合いにいることに気がついた。
「あ、そういえば、隣におるかな」
ゲランシャトー(仮)によく遊びに来ている、麻雀仲間の住人NPCには、穀物を扱う卸し屋のおじさんがいた。家畜の餌から貴族が食べる高級な白小麦まで、様々な穀物を扱っている。そのおじさんなら、ホットドッグやクッキー用の小麦粉や、ポップコーン用のトウモロコシを売ってくれるのではないかと考えたのだ。
栗栖は工房を出て、隣にあるゲランシャトー(仮)へと向かった。店員NPCに雀卓へ行くことを伝え、ミニゲーム部屋へ足を向ける。夕方のこの時間からは、人の入りが増えてくる。NPCの客は仕事が終わってからここに遊びに来ることが多い。穀物卸し問屋のおじさんも、きっとそろそろ来店しているだろう。
「お、クリスじゃねぇか」
「あー、今日は打ちに来たんちゃうねん。小麦のおっちゃんおるか探しにきてん」
「アイツならちょうどそっちの卓でやってるぜ。おい! 小麦オヤジ! クリスが話したいってよー!」
このマギ麻雀界隈では小麦オヤジと呼ばれている穀物卸し問屋のオジサンは、ちょうどオーラスを二位で終えたところで、ビールを気持ちよく飲んでいた。
「おう、クリスじゃねぇか。どうした?」
「小麦買いたいねん。ラスティル小麦って売ってる?」
「ラスティル小麦な、今年のやつがちょうど入ってきてるぜ。今年のラスティル小麦は出来が良いぞ! 袋ひとつで7万トルでどうだ?」
栗栖はこのゲームの相場を知らない。来た初日に少し街を歩いた程度だし、出歩く範囲も限られている。だが、現実世界の小麦粉一袋の値段を想像して、七万円は少し高いのではないかと思った。
「高ない? 別に今年のやつやなくてもええねんけど……古古古小麦とかで安くなれへん?」
「ここ……? まあそこまで言うなら、まとめ買いで安くしてやってもいいが……ただし、俺との卓で勝ったらな」
「えー、半荘一回だけやで? あ、そうそう、トンガリモロコシってのも欲しいねん」
「そいつぁ家畜の餌だからな、今年も安く出てるぜ。ラスティル小麦を二袋買ってくれるんなら、トンガリモロコシは一袋タダで付けてやる」
栗栖は空いた雀卓に座り、小麦オジサンと麻雀勝負をすることになった。店員NPCが空きを埋め、すぐに配牌が目の前に現れる。




