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ギルドのカウンター前に戻り、冒険者登録とクエストの受注を実践を交えて教えてもらう。掲示板に貼ってある依頼の他にも、カウンターでしか受けられない依頼があることや、指名の依頼がたまに入ること、受注した依頼はサブクエストとしてメニュー画面で確認できることなどを教えてもらい、イベントクエストが選択できたので、それを受注した。
「教会で行われる儀式に必要なもんなんだが、数が全然足りねぇんだ。お前さんがイッカクウサギの毛皮を十枚納品してくれりゃ、こっちも助かるんだがな」
「そうなんや。依頼はこれだけ?」
「駆け出しのお前さんに依頼できるのはこれくらいだな」
きっとベテランプレイヤーにはもっと難易度の高い依頼が用意されているのだろう。栗栖は少し安心した。栗栖自身が毎日難しいクエストを受ける必要はなさそうだからだ。
チロルに貰った大量のイッカクウサギの毛皮のなかから、その場で10枚納品し、報酬の1万トルを受け取ることでイベントクエストは完了、という表示が出た。
「明日も依頼は出るだろうからよろしく頼むぜ」
「はいはい、来れたら来るわ」
もちろん栗栖には来るつもりはない。明日は明日で観る映画やドラマがあるからだ。
すぐにチュートリアル完了の表示がでて、瞬きのような暗転で周囲に人が戻って来た。これで栗栖は晴れてブロンズ冒険者になった。
「おかえりなさい、クリスさん」
「ただいま~けっこう時間かかったかな」
「そんなことありませんよ。あ、登録は無事に済みましたか?」
「済んだ済んだ……って、無事に済まへんことあるん?」
「時々、VRアクションの最低基準を超えられなくて登録できない方はいます」
戻ってきた栗栖を待っていたディナンに話し掛けられ、栗栖はブロンズ製のドッグタグを取り出して見せた。ディナンの話では、最初期のVRヘッドギアの中でも輸入品になると、スムーズなVRアクションができないことがあるらしい。製品に問題があるが、自主回収するべき海外企業はもう倒産してしまっているのだとか。
「そうそう、イベントクエストは無事に受けられましたよ」
「おー、僕もできたで。もう納品もして今日の分は終いや」
栗栖も先ほどのスキンヘッドおじさんに聞いて、イベントクエストを終わらせてきた。栗栖のレベルではイッカクウサギの毛皮の納品だけだったので、チロルに貰った素材でなんとかなった。
「……アンタ、本当に初心者なの?」
「そうやけど?」
栗栖とディナンの会話をじっと聞いていたチロルが、栗栖に向かってそう言う。それに首を傾げながら、栗栖は返事をした。
栗栖は初心者だ。気付いたらこのゲームを始めていて、気付いたらデスゲームになっていたピチピチの初心者だ。特に何か事前予習をしたわけでもなく、チートなスキルや技能を持っているわけでもない。得意なことといえば、何時間でも映画を見続けられることくらいだ。
「まあいいわ。私もクエストを受けられたから、これ」
「え?」
栗栖の前にトレード画面が現れ、また大量のものが贈られてくる。今度は食材や道具系、謎の武器っぽいものも入っているようだ。
「あと……あのさ、ついでに、私のフレンドのヒーラーにも杖のキーワード教えてもいい? 回復職でも使える杖っぽいの」
「別にええけど? ていうか誰に教えてもええで?」
「じゃあ、これとこれもあげるわね」
さらに大量のものが贈られてきた。栗栖は混乱したが、ディナンが何も言わないのでとりあえず受け取った。きっとベテランプレイヤーには必要のないものなのだろう。
「いらないものは売れば多少のお金にはなるだろうけど、奇術師をやるならほとんど使えると思うから」
「えーと……ありがとう?」
「じゃ、私はクエスト消化してくるから」
チロルはそう言って去っていった。
「……なんやえらい癖強い人やなぁ……」
「まぁ……なんというか、琴線に触れなければ普通の人、ということで……」
「琴線というかフラグというか地雷というか」
「大丈夫です。たいていの人類プレイヤーは対象外みたいですから」
「人類て」
栗栖はこのゲームのプレイヤーに、人類以外がいることを少しだけ考えたが、そんな馬鹿な、と頭を振って否定した。否定したが、そういえばそこまで知っているプレイヤーも居ないので、もしかしたらどこかに人類以外のプレイヤーがいるのかもしれない、と思い直した。それはそれで、映画やアニメのようで夢があると思った。
「クリスさんはこの後どうしますか? 私もクエストを受けられたので、消化しようと思っていますが」
「んー僕は駆け込み寺に戻ろかな。日付が変わらな明日のクエストは受けられへんみたいやし」
それに、栗栖は正直そろそろ外出に飽きてきた。クリスチャンの駆け込み寺へ戻り、映画の続きを観れば、ちょうど寝る時間になるというのもある。
戻ることを告げると、ディナンはわざわざクリスチャンの駆け込み寺まで送ってくれた。なんでもこのイベントサーバーでは、深夜帯に変なテクスチャの、攻撃もできない敵性体があらわれて、ときどき呪いを振り撒いていくのだとか。教会に行けば治してもらえるので、聖タンクローゼスの情報が手に入る導線なのではないか、と予想されている。
「ではクリスさん、また何かあれば呼んで下さい」
「はい、送ってくれてありがと」
歓楽街の人混みへ消えていくディナンを見送り、栗栖は室内へと移動した。もちろん階段を登り、まっすぐ寝室へと向かう。空腹値のアラームが鳴ったことで中断していた映画の続きを観るためだ。
「明日はちょっと、映画の合間にでも何かしてみよかな」
そんなことを考え、ベッドへと横になり、ネットプリクスを起動した。




