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「そう……これは気持ちよ。チュートリアルを受けるなら持っておくといいわ」
「え……」
チロルが目の前を指で操作したかと思えば、栗栖の前にトレード画面が現れた。画面上には、イッカクウサギの毛皮やモモ肉の他、ダッシュターキーの羽毛、モモ肉、胸肉、灰色コブラの皮、肉などや、その他果物、野菜、あとは栗栖の知らない雑貨や薬品など、数えきれないほどの物が表示されている。
「いや……えーと、悪いし……」
「気にしないで。このあたりの初心者アイテムは、私からすれば売り物にもならない捨てるようなものだから。でも貴方にはあると便利よ。冒険者ギルドのチュートリアルもそうだけど、納品系は面倒だから」
栗栖は困った。背中に嫌な汗をかいていた。頭の中を、ただより高いものはない、という言葉が何度も過っていた。もしかしたら、挨拶だけで変なフラグを立ててしまったのではないか、あるいはとんでもない地雷を踏んでしまったのではないか、という焦りもあった。なので、ディナンに助けを求めることにした。ディナンならば、なんとなく角の立たない、フラグも立たない、地雷も踏まない断り方をしてくれるのではないかと期待した。視線をディナンに向ければ、なんだか困った顔をしていたが、それほど深刻そうではなく、頷いている。
「クリスさん、貰っておいてもいいと思いますよ」
「え? でもこんなに? イッカクウサギの毛皮とかモモ肉とか、調味料とか薬草とかもあるで?」
「そのあたりはチロルさんの言うとおり、私たちはほとんど使いません。おおかた、靴下集めにフィールドに出たときに手に入ったものだと思いますよ」
どうやらアカコマドリ以外の敵からも毛糸の靴下が手に入るのかの検証や、採集で手に入るか、店での購入ができるかなど、色々と調べるうえで手に入ったもののようだ。ディナンが良いと言うので、栗栖はありがたく受け取ることにした。受け取るボタンを押すと、アイテムは自動的にアイテムボックスに入った。ふと見たイッカクウサギのモモ肉が99個になってたので、栗栖は見なかったことにした。
「どうもありがとう」
「いいわよ」
「ストーカー行為をした場合は私が即通報します」
「しないって言ってるでしょッ!」
ディナンの笑顔は優しそうだった。優しそうだったが、栗栖はなんだか寒気がした。そしてその笑顔のまま栗栖を見て、声を潜めてそっと囁いた。
「クリスさん、チロルさんにあの言葉を教えても構いませんか?」
ディナンの言うあの言葉というのが、キャンディ武器のキーワードだということは分かったので、栗栖は頷いておく。
「ほなチュートリアルやってくるわ」
「はい。その間にチロルさんに話しておきます」
「なによ。何かあるわけ?」
怪訝な顔をするチロルの相手を任せ、栗栖はさっさとカウンターへ向かった。並んでいる人はおらず、カウンターではスキンヘッドのおじさんが怖い顔で座っているだけだった。
「すんません、登録したいんですけど」
「む? 新たな渡り鳥の登録だな。チュートリアルを受けるか?」
「受けます受けます」
「では基礎チュートリアルを始める」
パチ、と瞬きをしたような感覚で一瞬視界が暗転したかと思うと、栗栖の周りに人は居なくなっていた。目の前のスキンヘッドおじさんと栗栖だけの閑散とした冒険者ギルドのロビーは、ざわめきのBGMもなく、少しだけ不気味だった。
「冒険者には討伐の依頼が多く舞い込んでくる。最低限、自分のジョブの戦闘方法を知っておかなければならない。お前のジョブは……道士か、では攻撃スキルを使う練習を行う。着いてきなさい」
スキンヘッドおじさんに連れられて、栗栖は敷地の裏にある練習場へとやってきた。そこは土の均された運動場のようで、いくつかの丸太が立てられていて、魔法やスキルを練習することができるのだという。
栗栖はスキンヘッドおじさんの言うままに、走ったり飛んだり、丸太に酔拳を使ったりした。不思議なもので、教えられれば教えられるほど、運動能力が上がった。現実の肉体では到底できないような高跳びができるし、移動速度も速くなる。けれどその変わりにTPの消費がある。
「お前は酔拳を使うので、基礎ポイントはタフネスポイントに割り振ると良い動きができるようになるだろう」
「基礎ポイント?」
「基礎レベルが上がるごとに、基礎ステータスにポイントを振ることができる」
どうやら体力や俊敏、インテリジェンス、マジックポイントなど、基礎のステータスを増やすことができるポイントのようだ。ステータス画面からいつでも操作できるようなので、栗栖はひとまず後で考えることにした。
その後もいくつかの動きの注意などを教えてもらい、スキンヘッドおじさんとのチュートリアルは終わった。スキルやジョブのチュートリアルはまた別のところでしろ、とのことだった。




